(評論)新使徒憲章に盛り込まれたバチカン改革は”第二段階”がより重要になる(LaCroix)

(2022.3.26 La Croix Robert Mickens | Vatican City)

 教皇フランシスコが新使徒憲章「Praedicate Evangelium (Preach the Gospel=福音を宣教せよ」で明らかにしたバチカン改革の青写真が具体的な成果を生むか否かは、第二段階ー彼が選んだ責任ある人々の対応ーにかかっている、と言えるだろう。多くの関係者は、さほど劇的な改革と言えるものではない、とみているが、次に起きること次第で、正しい方向に向けての重要な一歩となる可能性がある。

*突然の公布、イタリア語版のみの文書には多くの印刷ミス!

 3月19日に教皇が新憲章を公布した際、その文書の印刷を突然命じられた人々は当惑した。原稿について十分な校閲作業の時間が無いまま、印刷することになったからだ。その結果、配布された文書には多くの誤植と、少なくとも一箇所の誤りがあったー現在では使われていない「extraordinary form of the Roman Rite」という用語の使用だ(第3章93項)。

 また、この文書はイタリア語版だけで発行されのも異例だ。新憲章には、バチカンで働く人々が世界中の「多様な文化」を持つ国々から集められることで、「教会のカトリック=普遍性=を反映したものにならねばならない」(第2章10項)とあるにもかかわらず、それを反映したものにならなかった。「多様な文化」は「多様な言語」と表裏一体の関係にあるのだが、Vatican改革という重要な内容の使徒憲章であるにもかかわらず、イタリア語を読めない世界のほとんどのカトリック教徒は、主要言語の翻訳版が出版されるまで、読むことができない。

 バチカン当局は、いつ、イタリア語以外の翻訳版が出版されるのか、についても明示しなかったが、それは、このイタリア語版の校閲を完了する時間が必要だからだ。幸い、というか、新憲章が発効するのは聖霊降臨の主日、6月5日だから、まだ時間があるとは言える。

 さらに言えば、今回の新憲章の公布に当たっては、重要文書発表の場合に恒例になっている事前予告がマスコミを含めた関係者に対して、されなかった。カトリック教会の歴史の中で、バチカンの組織や役割の改変に関する主要文書は今回でたった5回目だというのに、残念なことだ。

 

*新使徒憲章は、歴史的にも、内容そのものも、極めて重要な意味を持つ

 事前予告なしのいきなりの新使徒章公布となった理由は明らかにされていない。唯一、確かなのは、それが教皇の命令によって行われた、ということだ。他の誰にもそのような権限はない。.このことは、非常に残念だ。なぜかと言えば、新使徒憲章Praedicate Evangeliumは、歴史的な意味と内容そのもの両方から、極めて重要なものだからである。

 バチカンの組織や機能を定める使徒憲章の歴史は、16世紀にまでさかのぼる。近年では、第二バチカン公会議の終了から2年後の1967年にパウロ6世が、それから21年後の1988年にヨハネパウロ2世によって公布された。フランシスコによる新憲章は、バチカンの行動様式を変え、組織構造を刷新しようとする、教皇就任から9年にわたる彼の努力の成果だ。教皇の一貫した目標は、バチカンを、福音宣教にもっとふさわしいもの、普遍教会の長たる司牧者としての教皇の働きを補助する奉仕するもの、とすることだった。

*教皇庁の基本構造を受け継いではいるが、重要な変更を加えている

 率直に言って、新憲章は、革命的なものではない。なぜなら、1588年に教皇シクストゥス5世が確立した基本構造はほぼそのまま残されているからだ。

 特定の部署、あるいは部門の名称と役割は変えられ、あるいは統合され、再編縮小された。時の変化に対応した部門の新設もいくつかなされた。憲章に盛り込まれたそうしたことは、新たに驚かせるようなものではない。過去数年の間に、そうしたことのほとんどが一つ一つ実行に移されて来たからだが、教皇は、ただバチカンの組織やその役割を単に“いじくりまわす”以上のことをして来たし、新憲章でも、組織や役割にいくつかの重要な変更を加えている。

*教皇庁で、女性を含む一般の信徒に責任ある統治の役割を担わせる

 そして、本人自身を含めた教皇が、実行に移す場合、多くの関係者が言う「革命」につながる可能性がある。新憲章は、信徒に対して「統治の役割」を担う道を公式に開き、その前文で、「バチカンの新”現代化”は、統治と責任ある役割における一般人の女性と男性の関与の機会を提供しなければならない」(第一章10項)と規定している。

 教皇が普遍教会の司牧的な使命遂行を支援するバチカンの部署の「統治の役割」を一般信徒に与えることは重要な変化だ。

 バチカンのそれぞれの機関は、教皇から与えられた権力で特定の使命を果たしているが、それゆえに、洗礼を受けている信徒はいかなる者も、これらの組織が持つ能力、統治力、機能に応じて、部署あるいは組織体を統括することを可能とする (第二章5項)。このことは、バチカンにおける各部門の統治権限が、聖職にあるなしではなく、教皇から委任されることで与えられることを意味する。

*すでにイスの主要教区の一つで一般信徒が司教代理になっている

 言い換えれば、バチカンの各部門の長は、教皇の名においてこの権力を代行するのであり、同じ原則が、教区や司教協議会など、現地教会レベルでも適用可能になる、と思われる。司教は、一定の地域で、一般信徒に「司教代理」としての権限を与えることができるだろう。すでに、少なくとも一人の司教(スイスのローザンヌ・ジュネーブ・フリブール教区長のシャルル・モレロ―司教)がすでにそうしている。

*司教や司教協議会に権限を委任する”健全な地方分権化”も推進される

 新憲章に示された別の内容も、カトリック教会における政策決定過程の”健全な地方分権化”への教皇フランシスコとの強い熱意を反映している。それは、教区司教に、特に国レベル、あるいは地域レベルの司教協議会を通して、そのような権限をこれまでよりも多く与える、というものだ。

 フランシスコが教皇に選ばれ、バチカンの仕事のやり方を変え始めるまでは、バチカンの各部門は伝統的に、教皇と世界の現地の司教たちとの間の”橋”、あるいはもっとひんぱんに”障壁”としての機能を果たしてきたが、新憲章は前文で、次のように基本理念を明言することで、そうした”伝統的機能”を改める努力を鮮明にしているー「ローマ教皇庁は、教皇と司教たちの間に立つのではなく、それぞれの権能に合わせる形で、両方に奉仕する立場に自らを置く」(第一章8項)。

 

*司教だけの集まりでない”シノドス”が、教皇を助ける機関となる可能性も

 新憲章で示された、バチカンがどのような関係をシノドス(世界代表司教会議)ともつか、についての表記も重要な意味を持つ。おそらく大半のカトリック信徒、そして何人かの司教たちのとって驚きとなるだろうと思われるが、教皇がトップを務めるこの恒久的な組織は、バチカンの一部を構成するものではない、ということだ。新憲章にはこう書かれているー「教皇庁の各組織体は、それぞれの特定の能力に応じて、シノドス事務局の業務に協力する」(第三章33項)。

 それよりも、もっと注目すべきことがある。バチカンのある幹部は、ある記者に対して、「これは、正確さを欠いた表現でも印刷上のミスでもない」と明言しているのだが、新憲章は、「Synod of Bishops」ではなく、「Synod」という言葉を意図的に使い、「the Synodは… 教皇によって確立された、あるいは確立されることになっているやり方に従って、教皇に効果的な協力を行なう」と明記していることだ。

 これは軽視すべきでない。このような表現は、現在は司教たちの組織体と厳格に定義されているこの組織について、さらなる変更が検討されていることを示唆している。何年にもわたって、教皇フランシスコは、司教でない人々、特に一般信徒に、多くの場を作り、これまでの教皇よりも、責任ある役割を与え、ある場合には、重要な決定に参加する権利さえ与えて来た。教皇は今や、「Synod of Bishops」を「the Synod」にするための大改造を考えているのだろうか?まさにその名によって、この組織体は、「もはや、司教たちの専有物ではない」ということを強調しているのかも知れない。

 すべての正教会の総主教区にはシノドスがあり、やはり司教たちで構成されているものの、これらの組織のほとんどには、総主教選挙の投票権を含む特定の審議と統治の権限を持る一般の信徒と司祭の合同評議会も含まれている。

 カトリックの「 Synod of Bishops」を「 (Holy) Synod」に改名するとどうなるか。そうした変更は、この新憲章の範囲や関心を超えているが、その中で意図的に使われた先の文言は、さらなる改革が行われるであろうことを示唆している。

 

*改革の第二段階ー改革を実施する人々の選択

 私たちは、これまでのところ、あるページに書かれている言葉ー指針、原則、そしていくつかの構造的偏向ーについて語っている。

 だが、こうも考えることができるのではないか。この新憲章はバチカン改革のまだ第一段階だ、と。そして、第二段階は、第一段階と同様に欠かすことができず、さらに重要であり、新憲章で示された改革がどのように実現していくかを決定づけるものになる。

 

*第二段階の改革は「人」に配慮したものになる

 教皇フランシスコは新憲章で、バチカンの機関を裁判所、財務事務局、そして”部署”で構成する、としている。(”部署(dicasteries)”という奇妙なギリシャ語は、現在、「省」や「評議会」などと様々な名称で呼ばれていた機関の名称として、教皇が選んだものだが)、次の人事は極めて重要だ。バチカンの各機関の長としての職務を担う者、そして特に統治の第二段階、そして第三段階にある者たちは、改革を実現するための決意、意欲、エネルギーを持つ必要があり、新憲章で述べたバチカン改革のビジョンに100%適合する人々でなければならない。そしてその人々は、教皇の描く動態的な宣教の形にコミットする必要がある。

 そして、内赦院と、16の部署のうち7つー教理担当、司教担当、東方諸教会担当、修道会担当、キリスト教一致推進担当、人間開発担当、そして文化と教育のための新たな二つの部局ーの長は、75歳の”定年”をすでに迎えている、あるいは今後数か月以内に迎える予定であり、そのほとんどは、交代することになるだろう。いくつかの部署は、また、新たな次官ポストーそれぞれの部署で日常業務を監督する第二ランクの人々ーが必要とされるだろう。すでに定年を迎えている人もいれば、10年以上在職している人もいる。

 前の使徒憲章のように、この新しい憲章では、教皇庁の職員の任期を通常は5年、さらに更新・延長することも可能としているが、そうすることで、これまでに一生涯、幹部を務めることもあった。教皇フランシスコは、改革の初めに基調を定め、そして、このような準備は、”空文”として扱われないことを証明する必要がある。

 教皇はまた、新憲章に盛り込まれた他の準備が適切に行われることを確実にするために、素早く動かねばならない。それは、彼の後継者たちが引き継ぐ保証が無いからだ。教皇は自身のバチカン改革の第一段階をもって、多くのカトリック教徒に希望をもたらした。そうした希望が満たされるか、満たされないかは、第二段階で実際にどのようなことが起きるかによる。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。

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2022年3月29日