(2022.3.9 カトリック・あい)
教皇フランシスコは2021年5月に、カトリック教会に深刻な打撃を与えている聖職者による性的虐待を念頭においた、「重大な悪」を防ぎ「傷を和らげる」ための使徒憲章『パシーテ・グレジェム・デイ(Pascite gregem Dei)』(神の羊の群れを牧しなさい)を発布、カトリック新教会法典第六集を改訂されたが、日本のカトリック中央協議会が8日、約1年遅れで全文の日本語訳を、同協議会のホームページに掲載した。使徒憲章と第六集の改訂の全文日本語訳は以下の通り。
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*教皇フランシスコ カトリック新教会法典第六集改訂のための使徒憲章 『パシーテ・グレジェム・デイ(Pascite gregem Dei)』
教皇フランシスコ カトリック新教会法典第六集改訂のための使徒憲章
『パシーテ・グレジェム・デイ』(神の羊の群れを牧しなさい)
「神の羊の群れを牧しなさい。強制されてではなく、神に従って、自ら進んで世話をしなさい」(一ペト5:2)。この神から霊感(インスピレーション)を受けた使徒ペトロの言葉は、司教叙階において用いられている式文の中にも反映されています。「人々をあがなうために御父から遣わされたわたしたちの主イエス・キリストは、ご自身も十二の使徒たちを世にお遣わしになりました。それは、彼らが聖霊の力に満たされて福音をのべ伝え、そしてすべての民を牧者のもとに一つに集めて、これを聖なる者とし、治めるためでした。…わたしたちの主イエス・キリストご自身が、司教の英知と賢慮をとおして、この地上の旅路を続けるあなたがたを永遠の幸せに導いてくださいます」(ラテン語規範版儀式書『司教、司祭および助祭叙階式』39項:De Ordinatione Episcopi, Presbyterorum et Diaconorum, Editio typica altera,1990年, n. 39)。そして牧者には、「助言、勧告、模範によって、また、権威と聖なる権能によって」(『教会憲章』27項)、自らの責務を果たすことが呼びかけられています。なぜなら御父がまさにそうなさるように、愛といつくしみは、時に歪んだものを真っ直ぐにしようと努力することも求めるからです。
使徒の時代以来、地上の旅路を歩み続ける中で、教会には行動の規則が与えられました。これが、やがて何世紀も経る中で一貫性を持った拘束力のある規範の集合体となり、神の民を一つにまとめるものとなりました。そしてこの規範を遵守させることは、司教の責任となりました。これらの規範は、わたしたちすべてが信じている信仰を反映したものなのです。こうした規範に拘束力が生じるのは、それらが信仰に由来し、信仰の上に築かれたものだからです。そしてこれらの規範は、自らの目的が常に魂の救済(salus animarum)にあることを知っている教会の母としてのいつくしみを明らかに示すものでもあります。このような規範は、時代が変わっても、共同体の生活を律していかなければならないことから、社会の変化や神の民の新しい要請と密接に関係を保ち続けていく必要があります。そのため、時にはこれらの規範を修正し、状況の変化に適合させていく必要があるのです。
わたしたちが急速な社会の変化を経験していく中で、「わたしたちが生きているのは、単に変化の時代であるばかりではありません。わたしたちは、時代の変化も生きているのです」(「降誕祭前の挨拶のための教皇庁職員との謁見」、2019年12月21日)ということを自覚しながら、全世界の教会の要請に適切に応えていくためには、聖ヨハネ・パウロ二世が1983年1月25日に公布した教会法典の中の刑罰に関する規律にも改訂の必要があることは明らかでした。司牧者たちが、救済と矯正をもたらすためのより機動的な道具として用いることができるよう修正することが必要だったのです。それは、より大きな悪を避け、人間の弱さによって生じた傷を癒すために、時宜にかなった仕方で、司牧的な愛をもって、この規律を用いることができるようにするためです。
このような目的のために、わたしの尊敬する前任者の教皇ベネディクト16世は、2007年に教皇庁法文評議会に対して、1983年の教会法典に含まれる刑罰規定の改訂に向けた研究を開始するように命じました。同評議会は、この委任に基づき、新しい時代の要請を具体的に精査し、現行法の限界や不備を識別し、可能かつ単純明快な解決策を示すことに注意深く専念しました。この研究は、合議と協働の精神の下、さまざまな専門家や司牧者の協力も仰いで、可能な解決策と、それぞれの地方教会の性格や必要性に対応する可能な解決策を実現しました。
こうして、新しい教会法典の第六集の最初の草案が作成され、意見を集めるために、全司教協議会、教皇庁の各省庁、修道会の上級上長、教会法学部、その他さまざまな教会機関に送付されました。同時に、世界中の数多くの教会法学者や刑法の専門家にも諮りました。この一回目の意見聴取で得られた回答は、しかるべく整えられた上で、専門家による特別部会に引き渡されました。この部会は、受け取った提言と照らし合わせながら草案の改訂を行ないました。その後草案は、改めて顧問たちによる厳正な審査にかけられました。さらに新たな改訂や検討を重ねた後、ついに最終草案が教皇庁法文評議会のメンバーによる全体会議で審議される運びとなりました。この全体会議による修正が反映された後、2020年2月、同法文評議会から教皇に文書が送付されました。
刑罰に関する規律の遵守は、神の民全体の義務ですが、前にも述べた通り、この規律を正しく適用する責任は、特に司牧者や各共同体の上長にあります。これは、司牧者や上長に委ねられた「司牧的任務(munus pastorale)」から決して切り離すことのできない義務なのです。そして、教会やキリスト者共同体、場合によってはその被害者ばかりでなく、罪を犯した加害者たち、つまり教会のいつくしみと教会による矯正を同時に必要としている人たちにとっても、具体的で否定し得ない愛の要請として実施されるべき義務なのです。
過去にー愛徳の実践と制裁の規律への訴えが状況によって求められる場合と正義がそれらを必要とする場合においてー
愛徳の実践と制裁の規律への訴えとの間に存在する緊密な関係性について、教会内で適切な認識が欠如していたことにより多くの被害が生じていました。経験が教えてくれている通り、このような認識不足のせいで、勧告や助言だけでは十分でないような道徳上の規律に反する行動を取った者を、適切な解決策を講じずそのままにさせてしまっていた恐れがあります。
このような状況はしばしば、時間が経つにつれて、そうした行動が矯正が困難となるまで頑迷なものとしてしまい、多くの場合、信者の間に躓き(スキャンダル)や混乱を引き起こしかねない危険をはらんでいました。このようにして、司牧者や上長にとって刑罰を適用することが必要不可欠なことになったのです。
ある司牧者が刑罰制度に訴えることをないがしろにするのであれば、その人が自らの役割を正しく忠実に果たしていないことは明らかです。それは、自発教令の形式による使徒的書簡(2016年6月4日の『コメ・ウナ・マードレ・アモレーヴォレ』1や2019年5月7日の『ヴォス・エスティス・ルクス・ムンディ』2)など、近年わたしが発表した数々の文書において明確に警告しておいた通りです。
まさに愛は、必要があればその都度、司牧者が刑罰制度に訴えることを求めています。その際、教会共同体の中での訴えにおいて必要とされる3つの目的を考慮しなければなりません。それらの目的とは、正義によって求められる原状の回復、違反者の更生、躓き(スキャンダル)の解消です。
最近わたしが述べた通り、教会法の制裁は、修復と救済の役割を合わせ持つものであり、特に信者の善益を追求するものでもあるのです。ですからこれは、「神の国の実現のための、そして個人および共同体の成聖に招かれている信仰共同体の中に正義を再構築するための肯定的な手段」(『教皇庁法文評議会全体会議の参加者に向けて』 2020年2月21日)なのです。
したがって、新しい法文は、教会法の法制全体の枠組み――これは、時代とともに強化されてきた教会の伝統に従ったものですが――との継続性を尊重しながら、現行法にさまざまな修正を加え、いくつかの新しい形態の犯罪に制裁を科しています。そして、犯罪によって損なわれた正義と秩序を取り戻したいという、さまざまな共同体の間でますます広まっている要請に応えるものです。
法文は、技術的な面でも以前よりも適切なものとなりました。特に、例えば弁護を受ける権利、犯罪の訴追権の時効、より厳密な刑罰の確定といった刑法の基本的な側面に関する部分がそうです。そして刑法上の適法性に関する要請に応えて、裁治権者や裁判官が、具体的な事例において適用すべきふさわしい制裁を見定めるための客観的な基準を提供するものともなっています。
改訂にあたっては、制裁を科すのが教会権威者の裁量に任されているような事例を減らすという原則に従って進められてきました。このようにすることで、遵守すべき法の規定に従って(servatis de jure servandis)刑罰を適用するにあたって、特に共同体内に大きな被害や躓き(スキャンダル)を引き起こしかねない犯罪に対して、教会の一致を保つことができます。
ここまで述べてきたことすべてを踏まえて、本使徒憲章によって、整えられ、改訂された教会法典の第六集の法文を公布します。この法文が、魂の善のための道具となることを願っています。また司牧者が、信徒たちの善のために要請がある場合には――卓越した枢要徳である――正義の義務として刑罰をもって威嚇することも自分たちの奉仕職に属する務めであることを自覚し、正義といつくしみをもって必要な場合にこの法文の規定を適用することを願ってやみません。
最後に、すべての人が、ここで扱われている措置についてたやすく完全に理解することができるように、この改定された教会法典第六集が「オッセルヴァトーレ・ロマーノ」(L’Osservatore Romano)紙を通して公布され、2021年12月8日から施行されること、その後公式な官報である『使徒座官報』(Acta Apostolicae Sedis)に記載されるよう命じます。
また、新しい第六集の施行によって、現行の教会法典第六集は、特筆すべきものも含めて、いかなる反対があったとしても廃止されるものと定めます。
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第 Ⅵ 集 教 会 に お け る 制 裁
第1巻 犯罪及び刑罰一般
第1部 犯罪の処罰一般
第1311条 (1)教会は,犯罪を犯したキリスト信者に,刑罰的制裁に服させる本来的で固有の権利を有する。
(2)教会を統轄する者は、司牧的な愛と生活の模範と助言や励ましとによって、そして必要な場合には、法の規定に従って刑罰を科す又は宣告することによって、共同体そのもの及び各信徒の善益を守り、かつ促進していかなければならない。法の規定を適用する際には、常に教会法的な衡平を保ち、正義の回復、違反者の矯正、つまずきの解消を考慮しなければならない。
第1312条 (1)教会における刑罰的制裁には次のものがある。
1.第1331条から第1333条までに列挙されている改善的刑罰すなわち懲戒罰。
2.第1336条に規定されている贖罪的刑罰。
(2)法律は、キリスト信者から霊的又は現世的善益を剥奪するとともに、教会の超自然的目的にもかなった他の贖罪的刑罰を制定することができる。
(3)そのうえ,第1339条及び第1340条所定の予防処分及び償いが用いられる。予防処分は,特に犯罪を予防するのに対し,償いは刑罰の代替,又は刑罰の加重を目的とする。
第2部 刑法及び刑罰的命令
第1313条 (1)犯罪が遂行された後に法律が変更された場合,違反者に対してより有利な法律を適用しなければならない。
(2)後法が,前法を廃止するか又は少なくともその刑罰を廃止した場合には,この刑罰は直ちに中止される。
第1314条 刑罰は通常,裁判で判決が出されることによって科せられる。したがって,刑罰が科せられた後でなければ違反者を拘束しない。しかし,法律又は命令が明白に規定している場合は,伴事的刑罰であり,犯罪を犯したという事実そのものによってこれを科せられる。
第1315条 (1)刑法を制定する権能を有する者は,更に,相応の刑罰をもって神法を守ることができる。
(2)下位の立法者は、第1317条に注意したうえで、
1.属地と属人にもとづく自己の管轄権を超えない範囲で、相応の刑罰をもって上位の権威者が制定した教会法を守ることができる。
2.ある犯罪のために普遍法が制定する刑罰に、他の刑罰を加重することもできる。
3.普遍法が不確定的又は任意のものとして規定している刑罰を、確定的又は義務的な刑罰とすることもできる。
(3)法律自体が刑罰を確定するか,又はその確定を裁判官の賢明な判定にゆだねることができる。
第1316条 教区司教は,同一の国家又は同一の地方において,可能な限り統一された刑法を制定するよう配慮しなければならない。
第1317条 刑罰は,教会の規律をより適切に配慮するために真に必要である限りにおいて制定されなければならない。ただし,聖職者身分からの追放処分を,下位の立法者は制定することができない。
第1318条 立法者は,相当重大なつまずきとなるか,又は裁判手続きによる刑罰によっては効果的に処罰することができない特殊な故意の犯罪に対してでなければ,伴事的刑罰を制定してはならない。懲戒罰,特に破門制裁は,最大の節度をもって,また特別重大な犯罪に対する以外にはこれを制定してはならない。
第1319条 (1)外的法廷において、第48条から第58条までの規定に従って統治権によって命令を下すことができる者は、命令によって、確定的刑罰も規定することができる。ただし、贖罪的終身刑はこの限りでない。
(2)注意深く事情を検討し、刑罰的命令を科すことが必要な場合には、第1317条及び第1318条所定の事項を順守しなければならない。
第1320条 地区裁治権者は,修道者に対して,自己の権限に属するすべての事柄において刑罰を科すことができる。
第3部 刑罰制裁の対象者
第1321条 (1)なんぴとも有罪が確証されるまでは、無実とみなされる。
(2)法律又は命令の外的違反が、故意又は過失のため重大な有責性のある場合を除いて、なんぴとも処罰されない。
(3)法律又は命令に意図的に違反した者は、法律又は命令によって制定された刑罰を免れない。ただし、法律又は命令が別段に定める場合を除き、故意によらず必要な注意を怠ったことによる違反者は処罰されない。
(4)外的違反がなされた場合は、有責性があったものと推定される。ただし、有責性がないことが明白である場合はこの限りでない。
第1322条 通常、理性の働きを欠く者は、正常と思われる期間に法律又は命令に違反したとしても、犯罪の無能力者とみなされる。
第1323条 以下の者は、法律又は命令に違反した場合にも、いかなる刑罰の対象ともならない。
1.満16歳に達していない者。
2.過失によることなく,法律又は命令に違反していることを知らなかった者。不注意及び錯誤は不知と同様にみなされる。
3.強制によるか又は予見できず、若しくは予見されても防止することができない偶発事によって行為した者。
4.単に相対的なものであっても、強度の恐怖に強いられて、又は、必要若しくは重大な不都合のため行為した者。ただし、行為それ自体が悪であるか、又は救いの妨げとなる場合はこの限りでない。
5.自分又は他人に対する不正な侵害者に対して,必要な節度を守りながら正当防衛のために行為した者。
6.理性の働きを欠いていた者。ただし、第1324条第1項の第2号及び第1326条第1項の第4号の規定を順守しなければならない。
7.過失によることなく、本条第4号又は第5号所定の事情のいずれかが存在すると思料した者。
第1324条 (1)違反の犯行者は法律又は命令によって設定された刑罰を免れないが,犯罪が以下の者によって遂行された場合,刑罰は軽減されるか,又はその代わりに償いが科せられなければならない。
1.理性の働きが完全でなかった者。
2.第1326条第1項第4号の規定を順守したうえで,過失となる酩酊又は他の類似した精神錯乱のため、理性の働きを欠いていた者。
3.情念の強度の衝動による犯罪の既遂者。ただし、その衝動は知性のすべての熟慮及び意思の承諾に先行してこれを妨げたのではない場合、かつ情念そのものが故意に引き起こされたのではなく、又は助長されたのではない場合に限る。
4.満16歳に達した未成年者。
5.犯罪それ自体が悪であるか又は救いの妨げとなる場合,単に相対的なものであっても,強度の恐怖に強いられて,又は必要あるいは重大な不都合による犯罪の既遂者。
6.自分又は他人に対する不正な侵害者に対して,正当防衛のためではあるが,必要な節度を順守せず行動した者。
7.激しく不正に挑発する者に対抗した者。
8.自分の過失からの錯誤によって,第1323条第4号又は第5号所定の事情のいずれかが存在すると思料した者。
9.法律又は命令に刑罰が付加されていることを自己の過失なく知らなかった者。
10.重大な有責性が存続したにもかかわらず,完全な有責性を負うことなしに行為した者。
(2)犯罪の重さを軽減する他の事情がある場合,裁判官は同様のことをなすことができる。
(3)本条第1項に言われている状況においては,違反者は伴事的刑罰によって拘束されないが、悔い改め又はつまずきの解消のために、違反者に対し軽減された刑罰を科すか、償いを適用することができる。
第1325条 粗略,怠慢,又は故意に基づく不知は,第1323条及び第1324条の規定の適用にあたって,決して考慮され得ない。
第1326条 (1)裁判官は,次の者を,法律又は命令が定める以上に重く処罰しなければならない。
1.有罪判決又は刑罰の宣告を受けた後,なおも犯罪を続行するゆえに、諸般の事情により、依然として悪意者と推定され得る者。
2.一定の地位にある者,又は権威あるいは職権を犯罪遂行のために濫用した者。
3.刑罰が過失による犯罪に対して制定されている場合,事故を予見したにもかかわらず,それを避けるために,注意深い人ならなんぴとでも用いたであろう予防措置を怠った被疑者。
4. 犯意を遂行するため又は弁明するために,故意に求められた酩酊及びその他の精神錯乱の状態において,又は故意に引き起こされるか助長された情念によって,犯罪を犯した者。
(2)前項所定の場合にして伴事的刑罰が定められている場合,他の刑罰又は償いを追加され得る。
(3)前項の場合,任意の刑罰として定められたものは,義務的刑罰となる。
第1327条 特別法は,第1323条から第1326条までのほかに,一般規定によって,又は個々の犯罪のために,その他の免除事由、軽減事由又は加重事由を規定することができる。同様に,命令においても,命令によって設定された刑罰を免除し,又はその刑罰を軽減又は加重する事由を規定することができる。
第1328条 (1)作為又は不作為を問わず、自己の意思に反して未遂に終わった者は、法律又は命令が別段の規定をしない限り、既遂罪に対して規定された刑罰によって拘束されない。
(2)作為又は不作為が,その性質上犯罪の実行へ導く場合には,その行為者が既に着手された犯罪の実行を自発的に止めない限り,償い又は予防処分を科すことができる。ただし,つまずき,又は他の重大な損害もしくは危険が生じた場合,行為者が自発的にそれを止めたとしても,既遂罪に対して制定された刑罰よりも軽い,正当な刑罰をもって処罰することができる。
第1329条 (1)共犯の意向をもって犯罪に共同し、かつ法律又は命令において明白にあげられていない者は,犯罪を犯した者に対して判決による刑罰が制定されている場合,同じ刑罰,又は同等もしくはより軽い他の刑罰に服させられる。
(2)法律又は命令においてあげられていない共犯者は,犯罪がその者の助力なくしては行われなかった場合,その刑罰が、その者に適用され得るような性質のものであるときは、犯罪に付加された伴事的刑罰に服する。他の場合は、判決による刑罰をもって処罰され得る。
第1330条 宣言又はその他の意思,教説あるいは知識の表明で構成される犯罪は,なんぴともその宣言又は表明を受け入れない場合,完遂されなかったものとみなされる。
第4部 刑罰及び他の処分
第1章 懲戒罰
第1331条 (1)破門制裁を受けた者には,次の事項が禁止される。
1.聖体祭儀及び他の秘跡を執行すること。
2.秘跡を受領すること。
3.準秘跡を授け,他の典礼祭儀を執行すること。
4.上記に列挙した祭儀において,何らかの積極的参加をすること。
5.教会の職務,任務,奉仕職及び役務を遂行すること。
6.統治行為をなすこと。
(2)判決によって破門制裁を科せられるか,又は伴事的に破門制裁を宣告された場合,違反者には次の事項が適用される。
1.本条第1項第1号から第4号までの規定に反して行為しようとする場合,重大な理由によって妨げられない限り,これを排除するか,又は典礼行為が中止されなければならない。
2.本条第1項第6号により有効性を欠いてなされた統治行為は、不法行為である。
3.以前付与された特権の享受を禁止される。
4.純粋に教会の名目で得ていた報酬を取得することはできない。
5.職務、任務、奉仕職、役務、権利、特権、名誉称号を獲得することはできない。
第1332条 (1)禁止制裁を受けた者は,第1331条第1項第1号から第4号までに規定された禁止事項に拘束される。
(2)しかし,法律又は命令は,禁止制裁が違反者に第1331条第1項第1号から第4号までに規定された個別の行為のみ,あるいは他の個別の権利のみを禁止するように定めることができる。
(3)禁止制裁の場合においても,第1331条第2項第1号の規定は順守されなければならない。
第1333条 (1)聖職停止制裁は次の事項を禁止する。
1.叙階による権能に基づくすべての行為又は若干の行為。
2.統治権に基づくすべての行為又は若干の行為。
3.職務に付随するすべての,又はそのいくつかの権利又は任務の遂行。
(2)聖職停止制裁を受けた者は、有罪判決又は宣言判決を受けた後、統治行為を有効に果たすことができないことを、法律又は命令において規定することができる。
(3)以下の事項は決して禁止事項とはならない。
1.刑罰を制定しようとする上長の権限下にない職務又は統治権。
2.違反者が職務に基づいて有している居住権。
3.刑罰が伴事的刑罰の場合,聖職停止制裁を受けた者の職務そのものに付随する財産の管理権。
(4)聖職停止制裁は,収益,俸給,年金又はその他これに類するものを取得することを禁止し,善意によるものであっても,不法に取得したものをすべて返還する義務を伴う。
第1334条 (1)聖職停止制裁の範囲は,前条に規定された限度内で,法律自体又は命令によって規定されるか,あるいは刑罰を科す判決又は決定によって規定される。
(2)法律は、いかなる限定又は制限をも付け加えることなしに、伴事的聖職停止制裁を制定することができる。命令はこれができない。そのような刑罰は第1333条第1項に列挙されているすべての効力を有する。
第1335条 (1)権限ある権威者は,裁判若しくは裁判外の決定において懲戒罰を科す又は宣告する場合,正義を回復し又はつまずきを解消するために必要な贖罪的刑罰を科すことができる。
(2)懲戒罰が秘跡若しくは準秘跡の執行,又は統治権に基づく行為を禁止する場合,死の危険にある信者の世話をするために必要なときはそのつど,禁止事項は一時停止される。伴事的懲戒罰が宣告されていない場合は,禁止事項は更に,信者が秘跡及び準秘跡又は統治権に基づく行為を願うときはそのつど,一時停止される。信者は,正当な理由存する場合,いかなる場合でもそれを願うことができる。
第2章 贖罪的刑罰
第1336条 (1)法律によって定められる他の刑罰のほかに、犯罪を犯した者に科すことができる終身又は期限の定めのある若しくは期限の定めのない贖罪的刑罰は、本条第2項から第5項までに列挙されているものである。
(2)命令:
1.特定の場所又は地域に居住すること。
2.司教協議会が定める規則に従って、罰金を支払うこと。あるいは教会のために用いられる一定の金額を納めること。
(3)禁止:
1.特定の場所又は地域に居住すること。
2.あらゆる場所で、又は一定の場所若しくは地域において、又は一定の場所若しくは地域外において、すべて又は一部の職務、任務、奉仕職、役務を遂行すること。職務又は任務に固有の義務の一部の行使のみを禁止することもできる。
3.叙階による権能に基づくすべて又は一部の行為をなすこと。
4.統治権に基づくすべて又は一部の行為をなすこと。
5.何らかの権利又は特権を行使すること。勲章又は称号を用いること。
6.教会法上の選挙において選挙権又は被選挙権を得ること。教会の評議会又は団体に投票権を持って参加すること。
7.聖職者服又は修道服を着用すること。
(4)剥奪:
1.すべて又は一部の職務、任務、奉仕職、役務。職務又は任務に固有の義務の一部のみを剥奪することもできる。
2.告白を聴く権限、教話をする権限。
3.統治の受任権。
4.一部の権利、特権、勲章、称号。
5.司教協議会が定める規則に従って、教会の報酬の全額又は一部。ただし、第1350条第1項に規定されたものは例外とする。
(5)聖職者身分からの追放。
第1337条 (1)一定の場所又は地域への居住の禁止は、聖職者及び修道者に適用することができる。これに対して居住の命令は、教区司祭及び会憲の範囲内で修道者に適用することができる。
(2)一定の場所又は地域への居住命令のためには、その地の裁治権者の同意が必要である。ただし、教区外の聖職者に対しても、償い又は矯正のためにあてがわれた家についてはこの限りでない。
第1338条 (1)第1336条に挙げられた贖罪的刑罰は、刑罰を定める上長の権能のもとにない権能、職務、任務、権利、特権、権限、恩恵、称号及び勲章については準用されない。
(2)叙階による権能を剥奪することはできない。ただし、その権能の全面的行使、又はその権能の部分的行使のみを禁止することができる。かつ、学位を剥奪することもできない。
(3)第1336条第3項に示される禁止については、第1335条第2項の懲戒罰に関する規定を順守しなければならない。
(4)第1336条第3項に禁止事項として挙げられている贖罪的刑罰のみが、伴事的刑罰となり得る。あるいは、法律又は命令によって他の刑罰を制定することができる。
(5)第1336条第3項に規定されている禁止は、行為を無効とする刑罰にはならない。
第3章 予防措置及び償い
第1339条 (1)犯罪を犯す急迫の危険にある者に対して、又は捜査の結果、犯行の重大な嫌疑のある者に対して、裁治権者は、自ら又は他者を介して、その者を訓戒することができる。
(2)行動によって、つまずき又は秩序の大きな混乱を引き起こした者を、裁治権者は、人及び事実の特別な状況に適合した方法で戒告することもできる。
(3)訓戒及び戒告は、常に、少なくとも何らかの文書をもって証明されなければならない。その文書は、本部事務局の秘密の記録保管庫に保管しなければならない。
(4)ある者に一再ならず訓戒又は説諭を行っても無駄であった場合、若しくはその効果が全く期待できない場合、裁治権者は、行うべきこと又は避けるべきことを注意深く規定した刑罰的命令を出さなければならない。
(5)事案の重大性によって求められる場合、特にある者が再び犯罪に陥る危険がある場合、裁治権者は、法律の規定によって科される刑罰、又は判決若しくは決定によって宣告される刑罰に加え、個別の決定によって定める監視措置を講じなければならない。
第1340条 (1)外的法廷において科され得る償いとは、何らかの敬神行為、信心業、愛徳の業を果たすことである。
(2)秘密の犯罪に対しては、決して、公然の償いを科してはならない。
(3)裁治権者は、慎重に、訓戒及び戒告の予防処分に償いを加えることができる。
第5部 刑罰の適用
第1341条 裁治権者は、兄弟的説諭をはじめとする司牧的配慮による他の手段をもっても、訓戒又は戒告をもってしても、十分に正義の回復、違反者の矯正、つまずきの解消が達成され得ないと確認した場合、刑罰を科し又は宣告するために、裁判上の手続又は行政上の手続を進めなければならない。
第1342条 (1)正当な理由によって、裁判上の手続が妨げられる場合はそのつど、刑罰は裁判外の決定によって科せられるか、又は宣告され得る。特に弁護権及び第1608条に規定される決定を下す者の社会通念上の確信に関しては、第1720条の規定を順守しなければならない。ただし、予防処分及び償いは、いかなる場合にも決定によってなされ得る。
(2)終身的刑罰は,決定によっては科せられることも宣告されることもできない。かつ、刑罰を定める法律又は命令が,決定によって適用することを禁止する刑罰も同様である。
(3)裁判官について法廷において科せられるべき又は宣告されるべき刑罰に関して、法律又は命令で言われていることは、裁判外の決定によって刑罰を科すか又は宣告する上長に準用されなければならない。ただし、別段の規定がある場合、又は単に手続の様式に関する規定について取り扱われる場合はこの限りでない。
第1343条 法律又は命令が、裁判官に刑罰を適用するか否かの権限を与える場合、裁判官は、第1326条第3項に規定される場合を除き、自己の良心に従い、かつ賢明な判断に基づいて、正義の回復、違反者の矯正、つまずきの解消が求められる度合いに応じて、これについて決定しなければならない。なお、裁判官は、これらの事案において、必要であれば刑罰を軽減するか、又は刑罰の代わりに償いを科すこともできる。
第1344条 法律が命令的文言を用いている場合でも、以下のことを、裁判官は、自己の良心に従い、かつ賢明になすことができる。
1.違反者の早まった処罰によって、より大きな悪事が発生すると予見される場合は、刑罰を科すことを、より適切な時期まで延期すること。ただし、つまずきを解消する必要に迫られている場合を除く。
2.違反者が行いを改めて、つまずきを償われ、生じた損害が賠償された場合、又はその者が国家の権威者によって既に十分に処罰されたか、又は、処罰されるだろうと予見される場合は、刑罰の免除、減刑を行うこと、あるいは償いを科すること。
3.違反者が賞賛に価するような生活を送った後、最初の犯罪を犯し、かつ、つまずきを償う必要に迫られていない場合、贖罪を目的とする刑罰に服する義務を一時停止すること。違反者が裁判官自身によって定められた期間内に再び犯罪を犯した場合は、両犯罪のために当然の刑罰を受けなければならない。ただし、犯罪の刑罰に関する訴権が時効となった場合はこの限りでない。
第1345条 犯罪を犯した者が、理性を十分に働かせることができないか、又は犯罪が必要にかられて、または強度の恐怖、情念の衝動のために、若しくは第1326条第1項第4号の規定を害しない限りにおいて、酩酊若しくは他の類似した精神錯乱状態で行われた場合、かつ、裁判官が、違反者の矯正のために他の方法でよりよく処置することができると判断する場合は、常に、いかなる刑罰であっても免除することができる。ただし、他の方法で正義を回復し、生じたつまずきを解消できると予見されない場合、違反者を処罰しなければならない。
第1346条 (1)通常、犯した犯罪の数だけ刑罰を科される。
(2)ただし、違反者が多数の犯罪を犯し、かつ、判決による刑罰の累積が行き過ぎと思われる場合には、常に公正な限度内で刑罰を調整し、違反者を監視の下に置くことは、裁判官の賢明な裁量にゆだねられる。
第1347条 (1)懲戒罰は、違反者が命令不服従を止めるよう、少なくとも一度前もって訓戒を受け、改心するために相当な期間を与えられた後でなければ、これを有効に科すことはできない。
(2)違反者が、犯罪を心から痛悔し、かつ、適切につまずきを解消し、損害を賠償したか、又は少なくともその実現を真摯に約束した場合、命令不服従を止めたものと判断されなければならない。
第1348条 違反者が不起訴とされるか、又はいかなる刑罰も科せられないとき、裁治権者は、適切な訓戒及び他の司牧的措置をもって、若しくは、事情に応じ、予防処分をもって、違反者の利益及び公益を配慮することができる。
第1349条 刑罰が不定期的のものであって、法が別段の定めをしていない場合、裁判官は刑罰の決定にあたって、生じたつまずきや損害の大きさに見合ったものを選ばなければならない。ただし、事件の重大性が是非とも要求しない限り、過重な刑罰を科してはならない。かつ、終身的刑罰を科すことはできない。
第1350条(1)聖職者に刑罰を科すにあたっては、聖職者身分からの追放の場合以外は、適正な生計のために必要なものを欠くことのないよう、常に配慮しなければならない。
(2)裁治権者は、聖職者身分からの追放という刑罰によって、困窮状態にある者のために、可能な限り善処しなければならない。ただし、職務、奉仕職、任務の授与を除く。
第1351条 刑罰は、それを制定した者、又はそれを科した者か宣告した者の権限が消滅した後も、場所の如何を問わず違反者を拘束する。ただし、法に別段の明白な定めがある場合はこの限りでない。
第1352条(1)秘跡又は準秘跡の領受を禁止する刑罰の場合、違反者が死の危険にある間、その禁止は一時的に停止される。
(2)まだ宣告されておらず、かつ、犯罪を犯した者の居住する場所において公然となっていない伴事的刑罰に服する義務は、違反者が、それに服することによって重大なつまずき又は汚名を被る危険にある限り、全面的又は部分的に一時停止される。
第1353条 刑罰を科し又は宣告する裁判による判決、若しくは決定に対する上訴又は不服申し立ては、どんなものであれ、それらを停止する効力を有する。
第6部 刑罰の赦免と訴訟の時効
第1354条(1)第1355条及び第1356条所定の者以外に、刑罰を伴う法律を免除できる者、又は刑罰を警告する命令を解除できる者はすべて、その刑罰を赦免することができる。
(2)刑罰を規定する法律又は命令は、刑罰を赦免する権能を他の者にも与えることができる。
(3)使徒座が自らに又は他の者に、刑罰の赦免を留保した場合、その留保は、厳密に解釈されなければならない。
第1355条(1)以下の者は、使徒座に留保されていない限り、判決によって科された刑罰であれ、宣告された伴事的刑罰であれ、法律によって制定された刑罰を赦免することができる。
1.刑罰を科す又は宣告するために裁判を進めたか、若しくは決定によって自ら、又は他人をとおして、刑罰を科した若しくは宣告した裁治権者。
2.犯罪を犯した者が滞在する場所の地区裁治権者。ただし、特別の事情のため不可能でない限り、本条第1号に言われた裁治権者に諮らなければならない。
(2)以下の者は、使徒座に留保されていない限り、いまだ宣告されていない伴事的刑罰であっても、法律によって制定された刑罰を赦免することができる。
1. 裁治権者は、自己の従属者に対して。
2.地区裁治権者は、自分の管轄区域に滞在する者、又は管轄区域内で犯罪を犯した者に対しても。
3.すべての司教は、秘跡的告白行為において。
第1356条 (1)使徒座以外の者から発せられた命令によって規定されている判決による刑罰、又は伴事的刑罰を赦免することができるのは、以下の者である。
1.命令の発出者。
2.刑罰を科す又は宣告するために裁判を進めたか、若しくは決定によって自ら、又は他人をとおして、刑罰を科した若しくは宣告した裁治権者。
3.犯罪を犯した者が滞在する場所の地区裁治権者。
(2)刑罰の赦免に先だっては、特別な事情のため不可能な場合を除き、命令を発した者、又は刑罰を科した若しくは宣告した者に諮らなければならない。
第1357条 (1)聴罪司祭は、第508条及び第976条の規定を順守したうえで、権限ある上長が未宣告の破門制裁又は禁止制裁の伴事的懲戒罰を措置するために必要な期間中、ゆるしの秘跡を受ける者が大罪の状態にとどまることを苦痛とする場合、秘跡的内的法廷において赦免することができる。
(2)聴罪司祭は赦免を与えるにあたって、再び刑罰に服することになるという条件で、1か月以内に権限ある上長又は権能を有する司祭に訴願する義務及びその決定に従う義務をゆるしの秘跡を受ける者に課さなければならない。その間に、相応な償い及び必要度に応じて、つまずきと損害に対する賠償を課さなければならない。ただし、訴願は、聴罪司祭をとおしてゆるしの秘跡を受ける者の氏名を述べることなしに行うこともできる。
(3)第976条の規定に従って、科された若しくは宣告された懲戒罰、又は使徒座に留保された懲戒罰を赦免された者は、危険が無くなった場合、同様に訴願する義務を負う。
第1358条 (1)懲戒罰の赦免は、第1347条第2項の規定に従って、命令不服従の態度を改めた犯罪を犯した者に対してのみ与えることができる。命令不服従の態度を改めた者には、第1361条第4項の規定を害しない限り、赦免を拒否することはできない。
(2)懲戒罰を赦免する者は、第1348条の規定に従って措置を講じるか、又は償いを課すこともできる。
第1359条 複数の刑罰によって拘束されている者に対する赦免は、その赦免のなかで明記されている刑罰についてのみ有効である。一般的な赦免は、すべての刑罰を除去する。ただし、犯罪を犯した者が悪意をもって請願のなかで黙秘したものはこの限りでない。
第1360条 刑罰の赦免が暴力又は強度の恐怖を用いて、若しくは詐欺によって強要された場合は、法律上当然無効である。
第1361条 (1)刑罰の赦免は、本人が不在の場合でも、又は条件付でも与えることができる。
(2)外的法廷での赦免は、書面で与えられなければならない。ただし、重大な理由の存する場合はこの限りでない。
(3)赦免の請願又は赦免そのものは、公にされてはならない。ただし、犯罪者の名誉を擁護するために有益であるか、又はつまずきを是正するために必要である場合はこの限りでない。
(4)裁治権者の賢明な判断に基づき、違反者が生じた損害を賠償するまでは、赦免を与えてはならない。違反者に対して、第1336条第2項から第4項までに規定されている刑罰をもって、かかる賠償又は償いを強く求めることができる。違反者に対し第1358条第1項の規定に基づく懲戒罰の赦免を与える場合も同様である。
第1362条 (1)刑事上の訴追権は、3年の時効によって消滅する。ただし、以下の場合はこの限りでない。
1.教理省に留保された犯罪。これらは特別規定の対象となる。
2.本条第1号の規定は順守されなければならないが、7年で時効となる第1376条、第1377条、第1378条、第1393条第1項、第1394条、第1395条、第1397条、第1398条第2項に規定される犯罪の訴追権、又は20年で時効となる第1398条第1項に規定される犯罪の訴追権。
3.局地法が時効に対して他の期間を規定している場合で、普遍法によって処罰されていない犯罪。
(2)法が別段に定めない限り、時効は、犯行がなされた日から起算される。継続的又は常習的犯罪の場合は、それが中止された日から起算される。
(3)第1723条の規定に従って違反者が召喚されるか、又は違反者が出頭に関して第1507条第3項所定の方法で通知を受け、起訴状に関して第1721条の規定に従って通知を受けたとき、犯罪に対する訴追権の時効は3年停止される。この期限が終了するか、又は刑事裁判手続の中止によって停止期間が中断された場合、時効のために既に経過した期間を控除したうえで、再び期間が計算される。同じ停止期間は、第1720条第1項の規定を順守したうえで、裁判外の決定によって刑罰を科す又は宣告することになった場合にもそのまま継続する。
第1363条 (1)有罪判決が確定した日から起算される第1362条所定の期間内に第1651条所定の裁判官の執行命令が違反者に通達されなかった場合、刑事訴追権は時効によって消滅する。
(2)裁判外の決定によって科せられる刑罰についても、順守すべき規定を順守したうえで前項規定が準用される。
第2巻 各種犯罪及びそれらに対する刑罰
第1部 信仰及び教会の一致に反する犯罪
第1364条 (1)信仰の背棄者、異端者及び離教者は、第194条第1項第2号の規定を順守したうえで、伴事的破門制裁を受ける。かつ、第1336条第2項から第4号所定の刑罰によって処罰することができる。
(2)長期間にわたる不服従又はつまずきの重大性のため要求される場合には、聖職者身分からの追放を含め他の刑罰を加重することができる。
第1365条 第1364条第1項に規定される事案に加え、ローマ教皇又は公会議によって断罪された教説を教える者、又は第750条第2項又は第752条に規定される教理を執拗に拒絶し、かつ、使徒座又は裁治権者から訓戒を受けても撤回しない者は、懲戒罰及び職務の剥奪によって処罰されなければならない。これらの制裁に加え、第1336条第2項から第4項までに規定される刑罰を加重することができる。
第1366条 ローマ教皇の決定に対して、公会議又は司教団に上訴する者は、懲戒罰によって処罰されなければならない。
第1367条 自己の子女に、非カトリックの洗礼又は教育を受けさせる両親及び両親の代理人は、懲戒罰又は他の正当な刑罰によって処罰されなければならない。
第1368条 公開の上演あるいは演説において,又は公刊された出版物で,又はその他の方法によるマス・メディアを用いて冒涜を吐く者,あるいは,著しく良俗を害する者,信仰又は教会に関して誹膀する者,又は憎悪あるいは軽蔑を挑発する者は,正当な刑罰をもって処罰されなければならない。
第1369条 動産、不動産に関わらず、聖なる物を冒涜する者は、正当な刑罰によって処罰されなければならない。
第2部 教会の権威及び任務の遂行に反する犯罪
第1370条 (1)ローマ教皇に対して暴力を加える者は、使徒座に留保された伴事的破門制裁を受ける。その者が聖職者であった場合、犯罪の重大性に応じて、聖職者身分からの追放を含む他の刑罰を加重することができる。
(2)司教の霊印を有している者に対して暴力を加える者は、伴事的禁止制裁を受ける。その者が聖職者であった場合、伴事的聖職停止制裁も受ける。
(3)聖職者又は修道者,あるいは他のキリスト信者に対して,信仰,教会,教会の権限又は奉仕職を軽蔑する意図をもって暴力を用いる者は,正当な刑罰をもって処罰されなければならない。
第1371条 (1)使徒座、裁治権者、又は上長の正当な命令又は禁止命令に従わず訓戒後も執拗に不従順にとどまる者は、事案の重大性に応じて、懲戒罰又は職務の剥奪、若しくは第1336条第2項から第4項までに規定されている刑罰によって処罰されなければならない。
(2)刑罰として自己に科せられた義務に背く者は、第1336条第2項から第4項までに規定されている刑罰によって処罰されなければならない。
(3)教会権威者の前で、何等かの事柄を主張又は約束する者が偽証をした場合には、正当な刑罰によって処罰されなければならない。
(4)教皇庁から秘密とされたものの守秘義務に背く者は、第1336条第2項から第4項までに規定されている刑罰によって処罰されなければならない。
(5)執行判決又は刑罰執行命令を実施する義務を順守しない者は、懲戒罰を含む正当な刑罰によって処罰されなければならない。
(6)教会法で義務付けられている犯罪の通報を怠る者は、第1336条第2項から第4項までに規定されている刑罰によって処罰されなければならない。犯罪の重大性に応じて、他の刑罰を加重することができる。
第1372条 以下の者は、第1336条第2項から第4項までに規定される刑罰によって処罰されなければならない。
1.奉仕職の自由、教会の権能の行使、聖なる物又は他の教会財産の正当な使用を妨害する者、又は教会の権能及び奉仕職の執行者を脅迫する者。
2. 選挙の自由を妨害する者、又は選挙人若しくは被選出者を脅迫する者。
第1373条 教会の職務又は役務によってなされた決定のゆえに、使徒座又は裁治権者に対して公に敵意若しくは憎悪を煽動する者、又は、それらに対して不従順を教唆する者は、禁止制裁又は他の正当な刑罰によって処罰されなければならない。
第1374条 教会に敵対して陰謀を企てる結社に加盟する者は、正当な刑罰によって処罰されなければならない。かかる結社を発起又は指導する者は、禁止制裁によって処罰されなければならない。
第1375条 (1)教会の職務を侵害する者は、なんぴとも、正当な刑罰によって処罰されなければならない。
(2)任務の剥奪又は消滅の後、その任務を不法に保持することは、侵害と同等にみなされる。
第1376条 (1)以下の者は、損害の賠償の義務を順守したうえで、第1336条第2項から第4項までに規定される刑罰によって処罰されなければならない。
1.教会財産を着服する者、又は教会財産の収益の受領を妨げる者。
2.所定の協議も同意も許可もなく、又は法律上有効性又は合法性を持つために課せられている他の要件を満たすことなく、教会財産を譲渡する者、若しくは教会財産の管理行為を行う者。
(2)以下の者は、損害の賠償の義務を順守したうえで、職務の剥奪を含め、正当な刑罰によって処罰されなければならない。
1.自らの重大な過失によって、本条第1項第2号に規定される犯罪を犯した者。
2.教会財産の管理において、その他の重大な怠慢が見出された者。
第1377条 (1)教会内で職務又は任務を行使する者が不法に作為又は不作為の行動をとるように、贈与又は約束をなす者は、第1336条第2項から第4項までの規定に従って、正当な刑罰によって処罰されなければならない。その贈与又は約束を受け入れる者についても、損害の賠償の義務を順守したうえで、職務の剥奪を含め、犯罪の重大性に応じて処罰されなければならない。
(2)職務又は任務を遂行する上で、所定の金額を超える奉納金又は追加金、若しくは自己の利益のために物品を要求する者は、損害の賠償の義務を順守したうえで、相応の罰金又は職務の剥奪を含む他の刑罰によって処罰されなければならない。
第1378条(1)法律に規定されている事案以外に、教会の権能、職務又は任務を濫用する者は、損害の賠償の義務を順守したうえで、職務又は任務の剥奪を含め、作為又は不作為の重大性に応じて処罰されなければならない。
(2)過失ある怠慢から、教会の権能、職務又は任務において不法に作為又は不作為によって他人に損害を加え又はつまずきを与える者は、損害の賠償の義務を順守したうえで、第1336条第2項から第4項までの規定に従って、正当な刑罰によって処罰されなければならない。
第3部 諸秘跡に対する犯罪
第1379条 (1)以下の者は、禁止制裁の伴事的刑罰を受ける。聖職者については、聖職停止制裁の伴事的刑罰も科せられる。
1.司祭叙階を受けていない者で、感謝の典礼を試みる者。
2.第1384条所定以外に、秘跡的赦免を有効に付与できないにもかかわらずそれを付与することを試みる者、又は秘跡上の告白を聴く者。
(2)本条第1項所定の場合には、犯罪の重大性に応じて、破門制裁を含む他の刑罰を加重することができる。
(3)女性に聖職叙階を授けようと試みた者も、聖職叙階を受けることを試みた女性も、使徒座に留保された伴事的破門制裁を受ける。かつ、違反者が聖職者であった場合、聖職者身分からの追放によって処罰することができる。
(4)秘跡の領受を禁じられている者に対し意図的に秘跡を授ける者は、聖職停止制裁によって処罰されなければならない。第1336条第2項から第4項までの規定に従って、他の刑罰を加重することもできる。
(5)本条第1項から第4項まで及び第1384条所定の場合のほか、秘跡執行を偽装する者は、正当な刑罰によって処罰されなければならない。
第1380条 聖職・聖物売買によって秘跡を執行又は領受する者は、禁止制裁又は聖職停止制裁、若しくは第1336条第2項から第4項までに規定される刑罰によって処罰されなければならない。
第1381条 典礼への共同参加(Communicatio in Sacris)を禁止する規定に違反した者は、正当な刑罰によって処罰されなければならない。
第1382条 (1)聖別された聖体を冒涜する者、又は汚聖の目的でそれを持ち去るか若しくは保持する者は、使徒座に留保された伴事的破門制裁を受ける。かつ、聖職者については、聖職者身分からの追放を含む他の刑罰によって処罰することができる。
(2)汚聖の意図をもって聖体祭儀において、若しくは聖体祭儀外で片方又は両方の形態を聖別した違反者は、聖職者身分からの追放を含め、犯罪の重大性に応じて処罰されなければならない。
第1383条 ミサ奉納金で不法に利を得る者は、懲戒罰又は第1336条第2項から第4項までに規定される他の刑罰によって処罰されなければならない。
第1384条 第977条の規定に反する行為を行う司祭は,使徒座に留保された伴事的破門制裁を受ける。
第1385条 ゆるしの秘跡の執行において,又はそれを機会に,あるいはその口実で,ゆるしの秘跡を受ける者を第六戒に反する罪に誘惑する司祭は,犯罪の重大性に応じて,聖職停止・禁止・剥奪をもって処罰されなければならない。また,より重大な場合には,聖職者身分から追放されなければならない。
第1386条(1)秘跡的告白の守秘義務に直接背いた聴罪司祭は、使徒座に留保された伴事的破門制裁を受ける。ただし、単に間接的に侵犯する者は、犯罪の軽重に応じて処罰されなければならない。
(2)第983条第2項所定の通訳者及びその他の者が秘密を破った場合には、破門制裁を含む正当な刑罰によって処罰されなければならない。
(3)本条第1項及び第2項の規定は順守したうえで、なんぴとであれ、聴罪司祭又はゆるしの秘跡を受ける者が秘跡的告白のなかで口にしたことを、それが本当のものであろうと、真実を装ったものであろうと、何らかの技術的手段で記録し又は社会的な通信手段を用いて悪意を持って流布する者は、犯罪の重大性に応じて処罰されなければならない。かつ、聖職者の場合、刑罰には聖職者身分からの追放を含む。
第1387条 教皇の指令なしに、司教叙階を行う司教、かつ、その司教から司教叙階を受ける者は、使徒座に留保された伴事的破門制裁を受ける。
第1388条 (1)第1015条の規定に反して,適法な叙階委託書なしに,自己の従属者でない者を叙階した司教は,1年間叙階を授けることを禁止される。受階者は,その事実自体によって叙階に基づく権能を停止される。
(2)何らかの懲戒罰又は叙階不適格に縛られながら、これを故意に黙って聖職叙階を受ける者は、第1044条第2項第1号の規定に加え、事実そのものによって叙階に基づく権能を停止される。
第1389条 第1379条から1388条までの事案に加え、不法に司祭又は他の聖なる奉仕職の役務を遂行する者は、懲戒罰を含む正当な刑罰によって処罰されなければならない。
第4部 名誉を害する犯罪及び虚偽による犯罪
第1390条 (1)第1385条に規定されている犯罪について、偽って聴罪司祭を教会の上長に告発する者は、伴事的禁止制裁を受ける。かつ、聖職者の場合は聖職停止制裁も受ける。
(2)その他のことで教会の上長に中傷的犯罪告発をなす者、又は他の方法で不法に他人の名誉を傷つける者は、第1336条第2項から第4項までの規定に従って、正当な刑罰によって処罰されなければならない。かつ、その者には、懲戒罰を加重することができる。
(3)中傷者については,相応の償いも果たすよう強制しなければならない。
第1391条 以下の者は、犯罪の重大性に応じて、第1336条第2項から第4項までに規定される刑罰によって処罰されなければならない。
1.教会の公的文書を偽造する者,又は真正な文書を変造し,破棄し,隠匿する者,又は偽造あるいは変造文書を使用する者。
2. 教会業務上,他の偽造又は変造文書を使用する者。
3.教会公文書に虚偽の記載をなす者
第5部 特殊義務に反する犯罪
第1392条 教会の権能ある権威者のもとから逃れるために、聖なる奉仕職を故意にかつ不法に継続して6か月間放棄する聖職者は、犯罪の重大性に応じて、聖職停止制裁又は第1336条 第2項から第4項までに規定される刑罰によっても処罰されなければならない。特に重大な事案においては、聖職者身分からの追放も含む。
第1393条 (1)本法典の規定に反して、取り引きまたは売買を行う聖職者若しくは修道者は、犯罪の重大性に応じて、第1336条第2項から第4項までに規定される刑罰によって処罰されなければならない。
(2)既に法に規定されている事案に加え、聖職者又は修道者が、経済的なことで犯罪を犯し又は第285条第4項に含まれる規定に大きく背いた場合、損害の賠償の義務を順守したうえで、第1336条第2項から第4項までに規定される刑罰によって処罰されなければならない。
第1394条 (1)単なる国家法上の婚姻であってもそれを試みる聖職者は、第194条第1項第3号及び第694条第1項第2号の規定を順守したうえで、伴事的聖職停止制裁を受ける。さらに、訓戒を受けても改心せず、またはつまずきを与え続ける場合には、剥奪に始まり聖職者身分からの追放に至るまで、段階的に処罰されなければならない。
(2)聖職者でない終生立願修道者が、単に国家法上だけのものであっても婚姻締結を試みた場合、第694条第1項第2号の規定を順守したうえで、伴事的禁止制裁を受ける。
第1395条 (1)第1394条に規定される事案以外にも、私通関係にある聖職者及び第六戒に反する他の外的罪にとどまりつまずきを与えている聖職者は、聖職停止制裁によって処罰されなければならない。訓戒の後も犯罪にとどまる場合には、この聖職停止制裁に加え、聖職者身分からの追放に至るまで、段階的に他の刑罰を加重することができる。
(2)第六戒に反する他の犯罪を犯した聖職者は、その犯罪が公然と遂行された場合、事案の性質上必要であれば聖職者身分からの追放を含め、正当な刑罰によって処罰されなければならない。
(3)暴力、脅迫、権力の濫用によって、自ら第六戒に反する犯罪を犯した又は性的行為を行う若しくは受けるよう他の誰かに強制した聖職者は、本条第2項に規定される同じ刑罰によって処罰されなければならない。
第1396条 教会の職務上拘束される定住義務に著しく背く者は、訓戒した後で、職務の剥奪を含む正当な刑罰によって処罰されなければならない。
第6部 人の生命,尊厳及び自由に反する犯罪
第1397条 (1)殺人を犯した者、又は暴力を用い若しくは騙して人を誘拐するか又は監禁する者、又は人に障害を負わせたり重傷をおわせたりする者は、犯罪の重大性に応じて、第1336条第2項から第4項までに規定される刑罰によって処罰されなければならない。ただし、第1370条所定の人に対する殺人は、同条及び本条第3項所定の刑罰によって処罰される。
(2)堕胎を企て実際に遂行した場合には、伴事的破門制裁を受ける。
(3)本条に規定される犯罪においては、最も重大な事案の場合、違反した聖職者は聖職者身分から追放されなければならない。
第1398条(1)以下の聖職者は、職務の剥奪又は他の正当な刑罰によって処罰されなければならない。刑罰には、事案の性質上必要であれば聖職者身分からの追放を含む。
1.未成年者、恒常的に理性を十分に働かせることができない者、又は法律が同等の保護を認めている者に対して第六戒に反する犯罪を犯した聖職者。
2.未成年者、恒常的に理性を十分に働かせることができない者、又は法律が同等の保護を認めている者を募り又はそそのかし、自らのわいせつな姿を見せさせる聖職者、又は実際のものであろうと、それを装ったものであろうと、わいせつな行為の露出に参加させる聖職者。
3.良俗に反し、いかなる方法であれ、かつ、いかなる手段で撮影されたものであれ、未成年者又は恒常的に理性を十分に働かせることができない者のわいせつな図像を取得し、保持し、人に見せ、又は流布させた聖職者。
(2)奉献生活・使徒的生活会の会員であれ、いかなる信徒であっても、教会のなかで一定の地位に就き、若しくは職務又は役務を果たす者が本条第1項又は第1395条第3項所定の犯罪を犯した場合、第1336条第2項から第4項までに規定される刑罰によって処罰されなければならない。かつ、犯罪の重大性に応じて、他の刑罰が加重される。
第7部 付則
第1399条 本法又は他の法所定の場合のほか、神法又は教会法の外的違反は違反の特別の重大性が処罰を要求する場合、及びつまずきの予防又は是正の必要が緊急である場合にのみ、正当な刑罰によって処罰されることができる。