・新型コロナウイルス禍で児童性的虐待の危険が増大-バチカンの有力専門家が警告(Crux)

(2020.6.19 Crux  SENIOR CORRESPONDENT  Elise Ann Allen)

Expert warns child protection took ‘severe blow’ during pandemic

Jesuit Father Hans Zollner, a leading Vatican official dealing with clergy sexual abuse in the church, speaks about the crisis to an audience Jan. 29, 2020, at Villanova University in Pennsylvania. (Credit: Sarah Webb, CatholicPhilly.com via CNS.)

 ローマ発 – 「新型コロナウイルス禍におけるオンラインと児童保護」をテーマとするグレゴリアン大学児童保護センター、未成年保護のための教皇委員会、国際修道会総長連盟など共催のウエブ・セミナーが18日、世界の修道会やカトリック組織・団体の代表300人以上が参加して開かれた。

*児童に対する性的虐待・搾取の危険が大幅に高まっている

 講演に立ったカトリックを代表する児童保護専門家、ハンス・ゾルナー=グレゴリアン大学・児童保護センター所長(イエズス会士)は、現在の世界的大感染の中で「児童に対する性的虐待・搾取の危険が大幅に高まっている」と警告。

 「率直に申し上げて、教会と諸州、諸国での未成年者保護は、世間の関心という面でも、保護のための公的資金手当の面でも、大きな打撃を受けています」とし、自然災害、戦争、保健衛生危機、そして経済の動揺が新型コロナウイルスの世界的大感染と結びついて、児童保護への取り組みを、従来よりも二倍、難しくしている、と指摘した。

*未成年保護の優先順位を引き上げよう

 現在の状況の下で「社会と教会にとって、未成年の保護に注力することは、極めて難しいかもしれません。それは、新型ウイルス感染防止という差し迫った課題があり、それに加えて未成年保護にエネルギーを費やすのが人々にとって重荷となっており、まず生き延びることが先決なので考える余裕がないためです」と理解を示したうえで、「それは確かです。生き延びることが第一です。しかし、全ての人、とくに一番弱い人の尊厳を尊重し、保護することもまた、必要なのです」と述べた。

 そして、セミナー参加者たちに、「一緒に、未成年保護の優先順位を引き上げましょう」と訴えた。そして、大感染とそれが終結した後の後遺症だけでなく、「人々が容易に関わりたくない、難しくて厄介な課題」であるために、困難な作業になる、との考えを示し、「それを進めるには、私たちの決意の結集が必要ー抵抗に遭っても努力を続けることです」と強調した。

*”全面封鎖”でインターネットが特に”デジタル世代”にもたらすリスクは

 ゾルナー所長はまた、通常の状況と新型ウイルス感染防止の全面封鎖の下でインターネットがもたらすリスクを強調し、感染予防のための隔離から生じる可能性のある問題への対応について、いくつかのヒントを示した。

 インターネットは無限の可能性を秘めた「大きな機会」であり、現在の危機が前向きな成長と発達の触媒として役立つ可能性を持っている、とする一方、インターネットがもたらす身体的、性的、心理的、教育的、相関的、あるいは精神的な影響に懸念がある、と指摘。

 そうした懸念は、すべての人に当てはまるが、とりわけ若者たち、特に、インターネットやパソコン のある生活環境の中で育ってきた世代、いわゆる「デジタル・ネイティブ」の若者の間で、全面封鎖によって、孤独感や孤立し放棄されたという思いが生じる問題がでてきている、と分析した。

 また、インターネット漬けの若者たちには、何千回、何百万回も共有、閲覧されるビデオや画像を含めて、児童ポルノなどに容易にアクセスできるような危険がある、とし、こうしたことは「インターネットが普及していなかった時代には無かった、新たな形の心的外傷。実際になされる(注:児童性的虐待)とは異なるものです」と述べた。

*児童ポルノ氾濫と児童性的虐待の急増

 児童ポルノは、「デジタルで創作された画像も含めて、容易に手に入れることができ、インターネットではもっと簡単に、卑猥な画像、虐待の画像が手に入る。同じ危険が子どもたちだけでなく、弱い立場にある成人にも存在します」。画像の出し手の側から見れば、フィリピンなどの貧困地域で多く見られるように、親が金稼ぎのために自分の子供を性的なビデオに出演させたり、有料の動画配信で実際に子供たちが性的に虐待される、と残酷な実態を語った。

 インターネットを悪用した児童性的虐待の実態を調べている民間組織Internet Watch Foundationによると、英国の場合、虐待を受けた児童の平均年齢は7歳から13歳、9割が女児で占められている。内容は、わいせつ画像から、大人が児童を性的に暴行する不明瞭な画像まで様々だ。

 そして、このようなインターネットを通じた「児童性的虐待」は、新型コロナウイルス感染防止のため封鎖措置によって、急増している。英国では、4月の1か月だけでも児童ポルノのウェブサイトの閲覧は900万回試みられ、デンマークでは、児童虐待の画像類へのアクセスが、封鎖前の3倍に増えた。スペインでは、オンラインの児童ポルノが3月以降、それまでの月より2割増え、オーストラリアでは、3月21日の封鎖開始から3週間で、児童を含む虐待画像の閲覧が、それ以前に比べ86%増加した。

 米国では、「行方不明や搾取された子供のためのセンター」の調べて、3月の1か月だけで児童性的虐待の疑いの報告件数が前月比で106パーセントの増加を記録している。

*学校閉鎖で子供たちが”パソコン漬け”になる危険

 ゾルナー所長は、「新型ウイルス感染防止のための学校封鎖で、学校に行けない子供たちが、以前よりもずっと多くの時間を独りで過ごし、誰にも見とがめられずに、パソコンの画面の前に座り続けること」も含め、いくつもの要因が、そうした危険につながっている、と説明。「親たちが、育児や、子供たちの自宅学習と仕事のバランスを取ろうとすることが、子供たちの(注:単独の)行動への注意がおろそかにし、外出できないことが、家庭内虐待の可能性を高めている、と指摘した。

 悩みごと相談電話や情報配信のサービスも、新型ウイルスの影響で中断しており、気晴らしの手段が無くなっていることが、性犯罪者が衝動的に振る舞う可能性を高め、通常の状況なら適切に対応できるはずの子供たちが、性的暴力の話によって突然刺激を受け、自分自身の虐待の記憶を蘇らせてしまう可能性にも言及した。

 しかも、  新型ウイルス感染防止のための封鎖措置の下では、「健康や収入への影響を心配が強まり、それは個人だけでなく、あらゆるレベルの人間社会、あらゆる種類の政府機関にも共通する現象であることから、児童保護の優先順位が引き下げられる可能性が高い」と語った。

*インターネット児童虐待や非行を防ぐいくつかの方法

 以上のような問題を示したうえで、ゾルナー所長は、親や保護者、教職員のための児童虐待防止に役立つ方法をいくつか提案した。

 具体的には、子供たちの活動をモニターするソフトウェア用具の活用、電子機器の障壁のない領域の家庭内での設定、全ての電子機器がプライバシー設定になっていることの確認、子供たちが興味を持つ番組やゲームを親がチェックできるようにすること、などだ。また、教師が生徒と連絡を取り合えるようなシステムの構築は、困ったことが起きた時に、子供や家族が信頼して相談できるようにするために重要であり、学校でも、教師が児童・生徒にインターネットの適切な使い方について教える必要性を強調した。

*カトリック教会と修道会、諸団体に何ができるか

 では、「カトリック教会に何ができるでしょう。その広大な世界的ネットワークの潜在性を考えれば、他にはない強みが生かせる可能性があります」としつつ、 「残念ながら、私たちカトリック教会関係者には、十分な連携がなく、自分たちが持っている可能性を信頼していないため、その強みを活用できていない」と現状の問題を指摘。

 また、カトリックの組織・団体、修道会、神学校における注意深い見守りに関して、自身が滞在したアジアのある国の神学校で耳にしたこととして、神学生たちがインターネットでポルノを見ていたので回線を切ったが、彼らは代わりにスマホを使って見てしまい効果がなかった、という例を挙げた

 

*感染終息後に「インターネット虐待」はさらに深刻になる―必要な予防教育の徹底

 今後について、特に新型ウイルスの大感染が終息した後の世界で「インターネット性的虐待」がさらに深刻になる、とゾルナー所長は懸念している。

 「多くの人が、感染防止対策として始まったインターネットを活用した在宅勤務や在宅授業など社会のあらゆる場でのオンライン化が、感染終息後、さらに進む。スクリーンの前で費やされる時間とエネルギーの割合がさらに大きくなるでしょう… それは司祭や修道者にも当てはまる」と警告。

 そして、これからの大きな課題は、「小中高、大学、さらには神学校で、インターネットの適切な利用について、若者たちに教える共通の方法を見つけること」であり、「私たちは、これが自分たちの活動の中で極めて重要なものになっていることを認識する必要がある。誰もそれを気にかけていないかのように、放置しておくわけにはいきません」と強く訴えた。

「私たちは、インターネット上で人々と交流する時、何をすべきか、リスクは何か、そして私や他の人々が虐待に遭わないようにするにはどうすればよいかについて、倫理的対応と理解を深める必要があります」と改めて強調して、講演を締めくくった。

Follow Elise Ann Allen on Twitter: @eliseannallen

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。

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2020年6月20日