・「SDGs目標2: 飢餓をゼロに」達成に向けて – 何ができるか?(世界銀行)

The Kitabi Tea Processing Facility in Kitabi, Rwanda. © A'Melody Lee/World Bank
ルワンダ、キタビのキタビ茶加工施設 © A’Melody Lee/世界銀行

(2021.4.30 世界銀行ニュース)

 4月の世界銀行グループ・国際通貨基金(IMF)春季会合で世界銀行が開いた、持続可能な開発目標(SDGs)の目標2「飢餓をゼロに」を達成するための解決策と資金調達方法を話し合う非公開会議には、農業の生産性と強靭性を追求するだけではなく、人々の健康や栄養の改善や、気候にも資する食料システムに転換していくことの重要性が強調されました。本会議には、日本の財務省高官も出席し、この議論に積極的に参加しました。

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 新型コロナウイルス感染症との闘いが始まって一年。感染症危機は経済危機を引き起こし、食料安全保障にも長期的な課題が生じています。 

  世界の最貧困層にとっては基本的な生計の維持すら難しくなっており、また保健・栄養サービスが滞ることによって今後長期にわたる負の影響が危惧されています。新型コロナウイルス感染症危機以前も、世界は持続可能な開発目標(SDGs)の「目標2:飢餓をゼロに」の達成に向けて順調に歩んでいたわけではありません。

 今回の感染症危機により、1億3,500万人の食料安全保障が急速に悪化し、3,400万人が飢饉に直面するというこれまでにない状況が発生するとみられます。 

 現在、世界で1億4,900万人の子どもが発育阻害の問題を抱えていますが、2022年までにさらに急性栄養不良の子どもが930万人、発育阻害の子どもが260万人増えるとする推計があります。そうなれば、これまで何年もかけて達成されてきた栄養改善事業の成果が水の泡になってしまいます。幼少期の発育阻害は学習能力や成人後の労働生産性に影響を与えるため、その負荷は生涯にわたって続きます。

さらに、今回の感染症危機によって改めて目を向ける必要性が高まっているのは、世界の体重過多・肥満人口の70%以上を低・中所得国の人々が占めているという事実です。  肥満によって新型コロナウイルス感染症による死亡リスクが48%、入院リスクが113%、重症化リスクが74%高まることが報告されています。

*環境に配慮した強靭で包摂的な開発に方向転換する機会

 この問題の重要性に鑑み、世界銀行は2021年世界銀行グループ・国際通貨基金(IMF)春季会合において、SDGs目標2の達成のための解決策と資金調達方法を話し合う非公開会議を開催しました。

 マリ・パンゲストゥ世界銀行専務理事とアミーナ・モハメッド国連副事務総長の共同司会の下、ベルギー、カナダ、ドイツ、インドネシア、インド、日本、メキシコ、ノルウェー、パキスタン、フィリピン、ルワンダ、英国、米国の13カ国から財務大臣、開発大臣、政府・関係機関高官が、また世界銀行からは、ユルゲン・フォーグレ持続可能な開発担当副総裁とマムタ・ムルティ人間開発担当副総裁が参加しました。日本の財務省高官も出席し、この議論に積極的に参加しました。

 会議では、この危機を乗り越えるために、新型コロナウイルス感染症の流行によって起きている短期的課題に対応すると同時に、食料安全保障と栄養問題の長期的な改善を促す明確な視点が欠かせないことが合意されました。基礎的な保健・栄養サービスを提供し続けるためには保健システムをさらに強化しなければなりません。また、 経済と地球の健全性や人々の健康を強化するような食料システムを構築することも必要です。 

 我々は何十年もの間、栄養不良や肥満に加え、食生活に起因する慢性疾患を助長するような食料生産と消費パターンを続け、食料生産の持続可能性を損なってきました。今回の新型コロナウイルス感染症危機は、環境に優しく強靭で包摂的な開発へと舵を切るための数十年に一度の機会です。

*セクターや組織を越えた協働アプローチの導入

 我々は、セクターや組織を越えた協働アプローチを推進してきました。農業、食料、保健、栄養、社会的保護などの分野の専門家・実務者が集まり、共に食料・栄養安全保障問題の解決に取り組んでおり、さらにジェンダーの視点を取り入れ、妊産婦や2歳未満の幼児に焦点を当てています。今回の会議では、こういったアプローチから見えてきた希望の持てる学びが共有されました。

 ルワンダの発育阻害削減事業は保健と社会的セーフティネットのプロジェクトを包括するものですが、さらに農業プロジェクトが補完的役割を果たしています。その中でいかに供給側と需要側の課題をすり合わせているかが、ルワンダ財務大臣より報告されました。

 世界銀行シニア・マネジメントは、新型コロナウイルス感染症へのグローバルな社会保障対策を取り上げ、それを土台として今後も社会の強靭性、人的資本、経済的包摂性を強化する対策を続けていく必要性を指摘しました。例えば、サヘル適応型社会的保護事業では、現金給付を他の支援策と組み合わせることで、収入や生計活動、資産保有、貯蓄等の効果が高くなることがわかりました。

 この会議では、現在、我々が直面している課題の大きさにも触れ、農業の生産性と強靭性を追求するだけではなく、人々の健康や栄養を改善し、さらに気候にも資する食料システムに転換していくことの重要性が強調されました。そのためには、農業セクターの補助金や現場支援のための支出の目的を再考しなければならない、という議論も交わされました。

*資金調達の難しさを乗り越える

 SDG2を達成するには、資金へのアクセスが必要になります。  政府開発援助(ODA)と国内資金が共に限られる中、従来とは異なる資金源からも資金を呼び込む革新的資金調達方式が必要となります。

 世界銀行はいくつかの国において「栄養の潜在力(The Power of Nutrition)」という革新的な資金調達イニシアティブと協力関係にあります。独自の革新的資金調達に取り組んでいる国もあります。例えばメキシコは、SDG債の販売を通じ年間最大約150億米ドルの資金調達を図っていますし、健康によくない食品に対する課税を試行している国もあります。

 世界銀行グループ は、IDA対象国における食料安全保障のために53億ドルを提供しています。また、SDG2達成のための資金調達における「状況を一変させる」ソリューションを確保するため、パートナー国・機関と協力して積極的に取り組んでいます。今回の会議でも紹介された通り、9月の国連食料システム・サミットと、2021年12月に日本政府がホスト国を務め世界中のさまざまな組織の栄養改善支援が表明される予定の東京栄養サミット(Nutrition for Growth Summit: N4G)が大きな節目となるでしょう。

*政府全体・世界銀行グループ全体のアプローチ

 世界は現在、万人のための食料・栄養の安全保障の確保、生計の保護、天然資源の持続可能な活用と温室効果ガス排出量削減の両立という3つの課題に直面しています。  これらに対応するには、以下の3点を念頭に置いた資金調達が必要です。

 第1に、農業生産性の強靱で持続可能な向上を実現し、安価で健康によい食料を地方市場で入手できるようにする必要があります。

 第2に、栄養と保健サービスに常にアクセスを確保することで子どもたちが経済的潜在性を最大限に発揮できるようにする必要があります。

 第3に、食料・栄養の安全保障と連動した、リスク対応・適応型の社会的セーフティネットを整備することで人々をショックから守る必要があります。

 2030年までにSDG2を達成することはまだ可能です。  ただし、IDA第20次増資(IDA20)の下で人的資本の強化を図りつつ、環境に配慮した強靭で包括的な回復に向けた歩みに弾みをつけるには、国内資金、政府開発援助、革新的資金調達といった財源から持続可能な資金を大幅に拡充することが必要になります。

 我々には意欲と手段があります。是非やり遂げようではありませんか!

(Meera Shekar=Global Lead, Nutrition、Kyoko Shibata Okamura=Nutrition Specialist, World Bank、Madhur Gautam=Lead Economist, Agriculture Global Practice, World Bank、Luc Christiaensen=Lead Agriculture Economist, World Bank、Ugo Gentilini=Global Lead for Social Assistance, World Bank)

 

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2021年5月2日