(2020.11.27 Vatican News Michele Raviart)
バチカン人間開発省の移民問題担当次官、マイケル・チェルニー枢機卿(イエズス会士)が27日、教皇訪日1周年を記念するイエズス会社会司牧センターと上智学院カトリック・イエズス会センター共催のオンライン講演会に講師として出席、新型コロナウイルスの大感染の難民など世界の弱い人々への影響と対応、若者の役割、それを考える上での教皇フランシスコが先月出された新回勅「Fratelli Tutti(兄弟の皆さん)」の意義などについて語った。
講演で、枢機卿は、新型コロナウイルスの世界的感染が顕在化したここ数か月の、教皇の数々の説教や新回勅を受けた形で、「現在のコロナ危機が世界中の移民、難民、人身売買の犠牲者などの弱者にどのように影響するかについて考えるように」と求めた。
そして、「通常の状態でも、ひどい状況に置かれている人々が、ここ数ヶ月、日々の生活が極度の不安にさらされ、食事や住まいの環境悪化、健康状態の悪化、不十分な医療、失業、職を得たとしても搾取や虐待が激しさを増しています」「いったん国から出ると、国境閉鎖で故郷に戻れず、生き残る手段も一段と制限されてしまう」とし、各国政府や国民は自分たちのための解決策に気をとられ、移民や難民に配慮が及ばない、あるいは故意に無視する可能性が高くなっている、と指摘。
その一方で、生産や流通などの部門で社会・経済活動に貢献している現場の人たちの多くが、コロナ感染に脆弱な衛生状態の悪い密集地域などに住んでいることが多く、余計に感染の危機にさらされている、とも語った。
また、枢機卿は、現在の新型コロナ・ウイルス危機は、それ以前に既に”不正の大きなウイルス”-社会的な不正、不平等、最も弱い人々への保護政策の欠如などーが蔓延している中で起きている、との教皇の言葉を引用し、コロナ危機が、私たちがこのような中で、極めて脆弱であることと、互いが離れがたく依存し合っていることを、改めて浮き彫りにしている、「これを危機とばかり嘆かず、”個人主義”や”集団主義”、政治的ナショナリズムや狭隘な経済的利益の追求から脱する契機となる、と考え、対応すること」の重要性を訴えた。
そして、前向きの対応を考える際、教皇が新回勅「Fratelli Tutti(兄弟の皆さん)」で述べておられるように、全ての人と国が「兄弟愛と社会的友愛」に立脚する必要を説いた。
半ば逆説的に、人々には「移住しない権利」がある、と強調。それは、自分の国、故郷にいて自己実現ができること、新たな機会やよい未来を夢見るために、飢餓や戦乱、住環境の悪化などの苦しみから逃れるために国や故郷を出ることを強制されない権利だ、と語った。また、そうした人々が直面している多くの障害ー彼ら移民・難民を排除し、壁を作って追い込み、キリスト教の精神に反する外国人排除の姿勢をとる国粋主義や大衆迎合主義の政権から始まる障害ーを非難した。
最後に枢機卿は若者たちの果たすべき役割に触れ、「友愛、連帯、そして無償の文化を創造する上での決定的な役割は、若者によって担われるもの」とし、「歴史、高齢者、そして創造に敬意を払い、世代間の社会的対話と連帯に取り組むことは、よりよい社会のための基盤となる価値を生む。常に移民・難民の人々に開かれた心をもって前に進むことにもなります」と強調した。
そして「新型コロナ大感染は、私たち皆を危機に陥れましたが、教皇がおっしゃっているように、現在の危機が終わった後の人間は、それ以前と同じではありません。危機の経験をもとにして、私たちが以前より良くなるのか、悪くなるのか、それは私たちの選択にかかっているのです」と締めくくった。