・「主の『あなたがたに平和があるように』の呼び掛けに応えよう」―8月6日からの平和旬間を前に司教教協議会会長が談話

(2023.7.20 カトリック中央協議会)

 カトリック中央協議会は20日、ホームページで、2023年平和旬間(広島に原爆が投下された8月6日から、長崎への原爆投下の日をはさんで、15日までの10日間)を前にした 日本カトリック司教協議会の菊地会長談話 「人間のいのちの尊厳を守るものは」を発表した。

 全文以下の通り。

1.命の尊厳に対する脅威と危機

 今から75年前、1948年12月10日、第3回国連総会は二度も繰り返された世界大戦がおびただしい尊い人命を奪い去ったことを深く反省し、世界人権宣言を採択しました。世界人権宣言は、その第1条で、「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」と述べています。
教会は、すべての人は神の似姿として造られその命の尊厳を与えられているとして、「人間の尊厳は人間社会が作り出したものではなく、神によって与えられたもので、その尊厳に基づく権利は誰も侵してはならない普遍的な権利である」(日本司教団の戦後60年平和メッセージ「非暴力による平和への道~今こそ預言者としての役割を」-2005年カトリック平和旬間-参照)と繰り返し主張し続けてきました。しかしながら、今、私たちの眼前で展開しているのは、神からの賜物である命の尊厳をないがしろにし、暴力的に奪い去ろうとする世界の現実です。

 

2.ウクライナ戦争

 とりわけ、いまだに解決の糸口さえ見えないウクライナへのロシアの武力侵攻は、多くの命を危機に直面させ、その尊厳を奪い続けています。命を守り平和を希求する多くの人の願いを踏みにじりながら、命の危機が深刻化しています。理不尽な出来事を目の当たりにして、その解決の糸口さえ見えない中で、世界は思いやりや、支え合いといった連帯よりも、暴力によって平和を獲得することを肯定する感情に押し流されています。
暴力を肯定する感情は、国家間の相互不信と相まって、武力による抑止力の容認につながり、日本においても自衛の名の下に武力の増強が容認されていることは憂慮すべき状況です。
しかし暴力は、真の平和を生み出すことはありません。人間の尊厳は、暴力によって守られるべきものではありません。それは、命を創造された神への畏敬の念のうちに、互いに謙遜に耳を傾け合い、支え合う連帯によってのみ、守られるものです。

 

3.在留資格のない子どもたちへの人道的配慮

 日本も例外ではありません。様々な状況の中で人間の尊厳が奪われ、尊い賜物である命が危機に直面しています。諸々の問題点が指摘される中で、先般国会では、出入国管理及び難民認定法の改正案が可決成立しました。
私たち日本カトリック司教団は、在留資格のない両親の下に日本で生まれ育ち、強制送還の危機にさらされている300人とも言われる子どもたちとその家族に在留特別許可を与えるよう、2022年3月25日に当時の古川禎久法務大臣に要望書を送付し、その後、オンラインでの署名活動も実施いたしました。残念ながら、この子どもたちを含め、多くの人間の尊厳が危機に直面し続けています。
一人ひとりの命には価値の違いはなく、その尊厳において平等である、と主張する立場から、人間の尊厳を尊重し、必要な人道的配慮をしてくださることを、これまでもお願いし、またこれからも主張し続けて参ります。

 

4.排除をなくす連帯の必要性

 命の危機にさらされ、困難の中で希望を見失っている人たちへの無関心が広がる一方で、異なるものを排除することで安心を得ようとする社会の傾向も強まっており、排除や排斥によって人間の尊厳が危機にさらされる事態は深刻化しています。

 教皇フランシスコは、この3年間の感染症の状況の中で、よりよい未来を生み出すためには、連帯こそが不可欠だと主張し続けておられます。とりわけ弱い立場にある人への思いやりの重要性を説き、今年の復活祭には全世界へのメッセージで、次のように祈られました。
「難民、追放された人、政治犯、家を離れざるを得なくなった人、特にもっとも弱くされ、飢餓や貧困、麻薬取引、人身取引、あらゆる種類の奴隷制のひどい影響を被っている人々を慰めてください。主よ、いかなる男女も差別されず、尊厳が傷つけられることはない、と保証するよう、各国の指導者たちを奮い立たせてください。さらに人権と民主主義を完全に尊重することで、これらの社会的な傷が癒されますように。市民の共通善がいつも、それ単独で追求されますように。対話と平和的共存のために必要な安全と条件が保障されますように」。

 

5.キリストの平和を私たちに

 私たち教会は、人間の尊厳を守り、すべての命を大切にする社会の実現を希求し、思いやりと支え合いによる連帯が実現する社会へと変わっていくことを目指しています。
困難な状況にあっても、互いに支え合い、ともに歩む連帯を、具体的な愛の行動で示している多くの方がおられます。誰も取り残されない世界を実現するために行動している方々は、不安と不信の暗闇に輝く希望の光です。

 教皇フランシスコは、先のメッセージを、次のように締めくくっておられます。

 「命の主よ、私たちが自分の旅路を歩む中で、勇気づけてください。そして、あのご復活の晩に弟子たちになさったように、私たちにも繰り返しおっしゃってください。『あなたがたに平和があるように』(ヨハネ福音書20章19、21節)と」。

 私たちも、平和旬間に当たり、一人ひとりの人間の尊厳が守られ、その権利が尊重され、命が守られる平和な世界が実現するよう、「あなたがたに平和があるように」と呼びかけられる主の言葉に、力をいただき、平和の実現のために働き続けましょう。

 

 2023年7月7日 日本カトリック司教協議会会長 カトリック東京大司教 菊地 功

 

(編集「カトリック・あい」=注:談話の原文にある「いのち」「わたし」などの表記は、現代日本社会で一般に使われている当用漢字表記に統一しました。この談話のキーワードである当用漢字表記の「命」は、もともと「令」に「口」を付けた表形文字で、「祈りを捧げる人に神から与えられるもの」を表わすとされています。ひらがな表記では表現されない深い意味がこの一つの言葉にあるのです。また、日本のカトリック、プロテスタントの指導者の下で、専門家の共同作業で作られた最新の聖書訳「聖書協会・共同訳」では、「命」も「私」も当用漢字表記とされています。日本の司教団もこれに倣うことを期待します)

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2023年7月20日