☩「神の前に自由であるようにと、彼は私たちに教えてくれた」-自閉症の少年に

How an autistic boy taught the Pope a lesson

  (Photo: CNS/Max Rossi, Reuters

(2018.11.29 Tablet Christopher Lamb in Rome

 教皇の謁見場にいた人々は昨日、自閉症の立場になって考える機会を得た。

 パウロ6世ホールの教皇フランシスコによる謁見に参加した(注:衛兵も含めた)人々の周りを歩き回る、六歳の自閉症の少年、ヴェンゼル君の振る舞いは、「避けられるべき問題」あるいは「処理すべき問題」というよりも、「学びの時」になった。

 「この男の子は話すことができません。口が利けないのです」と聴衆に語る教皇は、彼の闖入を目の当たりにして、嬉しそうに見えた。「でも、彼はどのようにしたら通じ合えるかを知っています。どのように自分を表現するかを知っています。彼は、私に考えさせるものを持っている」と。

 そして、教皇はされにこう続けた。「彼は自由です。規則に縛られない自由… しかし彼は自由です。そのことが私に考えさせます-自分も、神の前にこのように自由だろうか?と」。

 81歳のイエズス会士の教皇は、世界中から集まった何千人もが参加する毎週恒例の一般謁見の最中のホールの壇上に、ヴェンゼル君が登った後も、話をつづけた。彼は、教皇の前をまっすぐに歩いて、そばに直立不動の姿勢でいるスイス衛兵のところに行き、口を利かないまま、衛兵の手に触れ、中世のままの制服の赤い袖を調べる仕草をした。

 彼の母親、リディアは教皇の故郷であるアルゼンチンからやって来たのだが、息子が週に一度の教皇の大事な行事の場で、壇上に上がったのを見て「恐ろしくて、訳が分からなくなり」、いそいで息子を壇上から下ろそうとした、と新聞記者に語った。

 この出来事は、自閉症の子供を持つ多くの親たちの共感を誘った。ミサや重要な集まりの間、子供たちはじっとしていられず、やかましくする。そういう時に、正常な子供の場合と違って、親たちができることはほとんどないのだ。

 ヴィンゼル君は母親の言うことを聴かず、教皇の前で静かにすることもできない。彼の姉は、彼が教皇の説教を大人しく聞いているように、壇上に上がらないように、懸命に抑えようとしたが、うまくいかなかった。

 それでも教皇は、母親のリディアに「心配しないように」と声をかけた。「自由に走らせましょう」と。教皇に何かを教えたのはヴィンゼル君だったのだ。

 そして教皇は会衆に、「私たちは子供たちのようにならねばならない、とイエスが言われた時、彼は、父の前で振る舞う子供のように自由であるように、と教えられたのです」「私は、ヴィンゼル君が私たち皆に説いてくれたのだ、と思います。この男の子が話すことができる恵みをくださるように願いましょう」

 自閉症の子供を持つ多くの親たちは、絶望的な沈黙にさいなまれている。多くの人が集まる場で、問題を起こさないようにびくびくしている。子供の将来を常に案じ、子供が祈りの邪魔をして教会の信徒たちから嫌なされることに傷ついている…。

 ヴィンゼル君の様子を写した画像は瞬く間に広がり、(注:日本を含む)世界中の視聴者がこれを見て、愛着を感じた。自閉症の問題がこのように前向きな光を当てる形で世界中に報じられたのは、初めてだ。

 そして、教皇の持つ大きな力が、難病や心身の障害は避けたり、隠したりするものでない、ということを世界に示した。それだけでなく、教皇は、そのような苦難にある人々を通して、私たちは神と他への思いやりを学ぶのです、と強く訴えた。

 教皇公邸管理部室長の ゲオルク・ゲンスバイン大司教はヴィンゼル君の側にいて、彼に手を差し伸べた。大司教は前教皇ベネディクト16世の世話役を長く務め、対人的な対応の良さで評判の人物だ。教皇フランシスコに仕えるようになってからは、教皇の即興的な発言や突然の振る舞いに、気が気でない日々を過ごしてきたのだが、昨日は、ヴィンゼル君が行ってしまった後、教皇は大司教に顔を向けて、「彼はアルゼンチン人です。規則に縛られないですね」と冗談を飛ばした。

 この日の出来事の教訓は、苦難は傷つきやすさをもたらし、傷つきやすさは人々とその関係を変えることができる、ということだ。「私が弱い時、私は強い」と聖パウロはコリントの信徒への手紙に書いている。

 自閉症の子供たちは、社会で、一番弱く、一番助けを必要としている者たちの中に入る。昨日、その子供たちの1人が花形となり、重要な教訓を私たちくれたのだ。

(翻訳・「カトリック・あい」南條俊二)

(Tabletはイギリスのイエズス会が発行する世界的権威のカトリック誌です。「カトリック・あい」は同誌の発行者から許可を得て、記事を随時、翻訳、掲載しています。Tabletの記事はhttp://www.thetablet.co.ukでご覧になれます。 “The Tablet: The International Catholic News Weekly. Reproduced with permission of the Publisher”   The Tablet ‘s website address http://www.thetablet.co.uk)

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2018年12月1日