・ロシア政府など、教皇のインタビューで語った”沈黙への弁明”を批判(Crux)

(2022.11.29 Crux Editor  John L. Allen Jr.

 ローマ – 11月28日公開されたイエズス会後援の米誌Americaとのインタビューで、教皇フランシスコは、ロシアと中国が起こしている問題に対して過度に”沈黙”している、との批判に対して自らを弁護する発言をした。バチカンを批評する人たちの中には、このような教皇の姿勢は、ナチス・ドイツのユダヤ人大虐殺を知りながら”沈黙”していた疑いで繰り返し批判されてきたいように、歴史的に否定的な評価をされるかも知れない、と見る向きもある。このインタビューは、そうした問題に対して、なぜ教皇が慎重に考えねばならないか、を説明する機会になった。

 そのインタビューで、教皇は、ロシアのウクライナ軍事侵略で子供たちを含む民間人に多くの死者が出ていることに関して、「軍隊の残酷さについて多くの情報」を得ている、と述べ、さらに、「一般に、おそらく最も残酷なのは、ロシアに属してはいるが、チェチェン人やブリヤート人など、ロシアの伝統に固執していない人々す」と語った。ロシア南西部出身のチェチェン人は、ほとんどがイスラム教徒、ブリヤート人はシベリア東部の先住民族で、伝統的に仏教とシャーマンの信仰に従うモンゴル族だ。

 おそらく、教皇はこのような言い方で、ロシア人そのものはそれほど血に飢えていないかも知れない、という思いをモスクワに伝えたかったのだろう。だが、モスクワの反応は、教皇が考えていたであろうようには、ならなかった。

 

 *「ロシア嫌いの程度を超えている、言語を絶する真実の曲解」と露外務省報道官

 ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は28日、このような教皇のインタビューでの発言を激しく非難し、国営タス通信に「これはもはや Russophobia(ロシア嫌い)の程度を超えている。言葉で表現できないほどの、真実の曲解だ」と語った。さらに、ツイッターの書き込みで、「教皇は、ロシアの軍隊を分断しようとしている」と批判。「私たちは、ブリヤート人、チェチェン人、その他、多民族、多宗教国家であるロシアの一つの家族だ」と強調した。

*ブリヤート共和国首長「ブリヤート人などが残酷、はおかしな言葉。カトリック指導者に戦争の道徳を語れるのか」

 ロシア連邦を構成するブリヤート共和国のアレクセイ・ツィデノフ首長も、教皇発言に反論。「カトリック教会の長が特定の民族、つまりブリヤート人とチェチェン人の残酷さについて話しているのを聞くのは、控えめに言っても、おかしなことだ。私たちの兵士は名誉を持って義務を果たしている」と語り、「十字軍の複雑な歴史を考えれば、カトリックの指導者は、武力紛争における道徳について、他人に教訓を語るべきではない」と批判した。

*チベット仏教指導者も「我々は残酷ではない、ラテン系欧州人には極寒で生活する我々を理解していない」

 ブリヤート人の多くが信仰するチベット仏教の指導者であるダンバ・アユシェフ師も批判の輪に加わり、教皇の言葉を「予想もしていなかった、不親切(な言葉だ)」とし、「欧州のラテン系の人々は、『極寒のシベリアや極東に生活することで、より粘り強く、忍耐強くなり、さまざまな困難に立ち向かうことができる、という私たちのことを理解していないように思う。私たちは残酷ではない。私たちの祖父や父親がそうであったように、ナチズムから祖国を守らなければならないのだ」と述べている。

 

 

*ロシア占領地域で活動する司祭2人の逮捕は教皇発言と関係?

 このような反発を、言葉の上での”コップの中の嵐”としてやり過ごし、他の不都合な真実を期待する衝動に駆られたくなるかもしれない。

 バチカンの援助組織、Aid to the Church in Needが28日に伝えたところによると、ウクライナ南東部、ロシア占領下の港湾都市ベルディアンスクで、 カトリック司祭2人が逮捕された。イヴァン・レヴィツキー神父とボフダン・ヘレタ神父は、現地のギリシャ・カトリックとラテン典礼カトリックの両方の信徒の司牧にあたっている、ロシア占領地で活動を続ける数少ない聖職者たちだ。

 Aid to the Church in Needによると、2 人の逮捕容疑は「テロ攻撃を準備した」というもので、現在、拘置所に入れられ、裁判を待っている。有罪判決が下された場合、理論的には死刑につながる可能性があるが、現地のステパン・メニオク司教は、逮捕を「根拠のない違法行為」し、釈放を求めている。

 2人の逮捕が教皇のインタビューへの仕返しなのか、それともそれ以前に行われたのか明らかではないが、この事件を報道したあるイタリアの新聞は、「フランシスコを黙らせるための脅し」ではないか、とコメントしている。

*ロシア・ウクライナ和平仲介へ影響か?

 いずれにせよ、教皇発言が起こした意外な展開が、二人が置かれた状況を好転させることはありそうにない。それどころか、ロシアとウクライナの和平実現へ仲介の労をとろうとするバチカンの取り組みを後退させる可能性もある。

 振り返ってみると、教皇フランシスコと彼の顧問たちは今、教皇がAmerica”でのインタビューで示した限定的な開示の姿勢さえ後退させることを望んでいる可能性が十分にある。

 このような紛争の状況の中で、なぜ教皇がもっと率直に話さないのか疑問に感じるなら、言葉がもたらした余波に、教皇は個人的に対処してはならない、ということだけ覚えておくことーレヴィツキー神父とボフダン・ヘレタ神父のような人の運命、自分の民をこれ以上、危険にさらすことを強く望むような教皇はいないのだ。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2022年11月30日