♰「”友愛”こそコロナ禍の危機の治療薬-民主主義の危機、信教の自由への影響も指摘」教皇、外交団と会見

Pope Francis addressing members of the diplomatic corps on 8 February 2021Pope Francis addressing members of the diplomatic corps on 8 February 2021  (ANSA

(2021.2.8 Vatican News Robin Gomes)

    教皇フランシスコは8日、新型コロナウイルスの世界的感染の影響で遅れていた新年恒例の在バチカン外交団との会見を持たれた。講話の中で教皇は、ウイルスの世界的大感染が引き起こしている様々な危機や、世界の平和と安定に影響を与えている他の問題を取り上げ、「友愛こそ、真の治療薬」であることを強調された。

 講話で教皇はまず、現在の世界の数多くの危機の中で最も深刻なのは「人間とその卓絶した尊厳について扱う総合人類学的な危機の表明としての『人と人のつながりの危機』」であるとされ、「『友愛』こそ、コロナ大感染とその他の私たちに影響を与えている有害なものに対する治療薬になる、と確信しています。ワクチンとともに、友愛と希望が、今日の世界で私たちが必要としている薬なのです」と語られた。

 そして、開催が延期され、コロナ対策としての「社会的距離」を確保しながら実現した今回の外交団との新年の会合は「希望…家族としての国々が追求すべき密接な助け合いのしるし、を意味するもの」とされ、教皇ご自身が3月にイラクを訪問されることも、その具体的な行動の一つとして示された。

*新型コロナウイルス大感染がもたらしているもの

 次に教皇は、現在の危機のうち、新型コロナウイルスの世界的大感染について具体的に言及。「人として避けることのできないものー病気と死ーに私たちの目を向けさせました。そして、子宮での受胎から死に至るまでの人の命の価値と尊厳を、改めて思い起こさせている」が、残念ながら、世界の現状は「あらゆるレベルで人の命を守る義務からかけ離れていくような法制度が増えています」と指摘した。

 また、コロナ禍は、一人ひとりの人間が尊厳をもって扱われる権利をもち、「一人ひとり、それ自身が目的であり、単に、役に立つかどうかでその価値が計られはならない」ということを、私たちに改めて思い起こさせた、とし、 「私たちの中で最も弱い者の生存権が奪われるとしたら、どうすれば他のすべての権利の保証できるでしょうか?」と問いかけられた。

 そして、政治家や政府の責任者たちに、基本的な健康の確保、医薬品、全ての人が治療を受けられる体制を確保することに最優先で取り組むよう求め、「利益をもとに医療を考えるべきではありません」とし、コロナ・ワクチンも、経済的な基準ではなく、すべての人々に公平な分配されるように要請した。

*環境の危機

 教皇は、コロナ禍は、「地球自体が傷つきやすく、扱いに注意を必要としていることについても、私たちに再認識させている」とし、「天然資源の無差別な開発・消費によって引き起こされている地球の生態学的危機は、コロナよりもずっと複雑で、長く持続するものであり、長期的な解決策を各国協調して進める必要があります… 洪水や干ばつなどの異常気象、人々の栄養失調や呼吸器疾患などの気候変動による影響も同様です」と述べた。

 私たちの”共通の家”のこうした危機を克服するための国際協力の重要性を強調しつつ、コロナ禍で今年11月に開催が延期された地球温暖化対策を話し合う第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が効果的な取り組に成果を上げることに期待を表明。

 地球温暖化の影響の具体的な例として、太平洋の多くの小さな島々が水位上昇で消滅の危機を深めていること、東南アジア、特にベトナムとフィリピンで多くの死者を出す洪水が起こり、オーストラリアと米カリフォルニアで大火災が発生したこと、アフリカで、ブルキナファソ、マリ、ニジェールが昨年、数百万人が飢餓に苦しむ深刻な食糧危機が起こり、南スーダンでは、 100万人以上の子供たちが栄養失調と飢餓の危険に晒されている、と指摘、関係国の当局者に適切な対処を求めた。

*経済的および社会的な危機

 また教皇は、コロナ感染を封じ込めるために、いくつかの国が実施している移動制限は、特に中小企業と零細企業に影響し、雇用に影響し、その結果として、家庭生活、社会の全部門、特に最も脆弱な部門に深刻な影響を与えており、「このような経済的な危機は、私たちの時代の別の病気ー人と天然資源の両方の搾取と浪費に基づく”経済の病気”を浮き彫りにしています」とし、必要なのは、「人に奉仕する経済であって、その逆ではありません。ありうべき経済は、死ではなく生をもたらす経済、包括的で排他的ではない経済、人道的で非人間的ではない経済、人といたわる経済、そして環境を大切にし、損なわない経済です」と言明された。

*隔離と国境閉鎖の犠牲者

 続けて、「コロナ禍によって非公式経済部門の人々が特に深刻な打撃を受け、違法あるいは強制労働、売春、その他、人身売買を含むさまざま犯罪行為を通じた搾取に晒されています。経済の安定は、すべての人にもたらされねばならず、その実現のために、搾取、高利貸し、汚職、その他の不正と戦わねばなりません」と述べ、「コロナ感染防止のための隔離措置の影響でコンピューターや他のメディアと長時間向き合うことによって、特に貧しい人々や失業者は、インターネットを悪用した詐欺、人身売買、売春、児童ポルノなどの”サイバー犯罪”の対象となりやすくなります」と警告した。

 また教皇は、感染拡大防止のための国境の閉鎖が「スーダン、サハラ以南のアフリカ諸国、モザンビーク、イエメン、シリアなど既に経済危機にある国々の状況を悪化させている」とし、こうした国々への経済制裁は、対象国の特に脆弱な地域、分野に影響を与えることから、制裁の緩和、人道援助の強化を図ること、貧困国の債務返済を減免することを希望した。

*移民と難民

 教皇は、移民・難民の増加と国境閉鎖による状況の悪化を取り上げ、人々を移民・難民に追いやる原因の究明、受け入れ国の支援を求めた。また、難民の数が劇的に増加しており、彼らを保護するよう求めるとともに、サハラ砂漠南縁部に広がる半乾燥地域では国内避難民の数が20倍に増えていることを挙げて、国内難民、迫害や暴力、国内紛争や戦争で故郷を捨てることを余儀なくされている人々の保護についても強く求めた。

*政治的、軍事的な危機

 また、コロナ禍の政治的な影響について、ミャンマーなど一部の国で政治危機が悪化していることに言及。とくにミャンマーについて、先の軍事クーデターによって「これまで進められてきた民主主義への道が乱暴に中断された」と嘆き、アウン・サン・スーチー女史ら民主政治指導者が「国益を目指す誠実な対話促進のしるしとして、速やかに釈放されるように」希望された。

 そして、「民主主義のプロセスは、すべての都市と国の市民社会を構成するすべての人、団体、組織の間での、包括的、平和的、建設的で、互いに敬意をもった対話を追求することを求めています」と言明し、「このような政治的、民主主義的な価値の危機は、国際的なレベルでも、多国間システム全体の反動を伴って起きている」と警告。

 同時に、核兵器禁止や軍備削減の分野での国際社会の取り組みが進展していることにも言及した。そして、2021年が、シリア紛争の終結、イスラエルとパレスチナ間の直接対話の再開、レバノンの安定、リビアの平和の年になることに希望を表明する一方、中央アフリカ共和国とラテンアメリカの状況や、朝鮮半島と南コーカサス地域における軍事的緊張について懸念を示した。

*祈りの場さえ襲うテロの激増

 さらに、教皇は、テロ攻撃が過去20年間に激増し、サハラ以南のアフリカ、アジア、そしてヨーロッパにもテロが広がっていること、特に人々の祈りの場がテロに遭っていることに強い悲しみを示し、思想、良心、宗教の自由を守る義務を果たすべきことを、各国政府当局に思い起こさせた。

*人と人とのつながりの危機

 コロナがもたらしたすべての危機のうちで、最も深刻なのは、「人間とその卓越した尊厳の概念そのものを扱う総合人類学的な危機」としての「人と人のつながりの危機」とされ、コロナ禍による人々の隔離は、一人ひとりにとっての人間的なつながりの必要をもたらしている、と指摘。

 そうした中で、大学や小中高などがオンライン教育を導入するにつれて、教育と技術の間に著しいずれが生じており、学校教育の自然なプロセㇲに、多くの学生が後れを取っており、これを一種の「教育の大惨事」」と警告。「あらゆるレベルで社会を巻き込んだ教育への新たな取り組みが必要です。教育は個人主義的な文化と無関心に対する自然の解毒剤になるからです」と強調した。

 最後に教皇は、コロナ禍の影響は、人々の結婚・家庭生活も及んでおり、多くの人が家庭内暴力を経験していること、信教の自由を含む基本的な人権に影響を与え、公開の礼拝や信仰教育、慈善活動も制限を受けていること、などを指摘。 私たちがウイルスの蔓延から人間の生命を守る方法を模索している今でも、「人間の精神的および道徳的な側面よりも、肉体的健康が重要だ、と見なすことはできません」と語った。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2021年2月9日