☩「西欧の民主主義の弱体化を強く懸念」ー教皇、帰国途上の機内会見で

Pope Francis during inflight talk with journalistPope Francis during inflight talk with journalist  (Vatican Media)

(2021.12.6 CRUX  Senior Correspondent Elise Ann Allen)

   実質3日間のキプロス、ギリシャ訪問を終えた教皇フランシスコは6日午前、ローマへ帰還途上の機内で同行記者団と会見され、今回の二か国訪問の感想などを語られた。発言で注目されたのは、西欧でポピュリズムの台頭への強い批判、難民・移民問題への対処、正教会との兄弟的関係の継続的な推進に強い意志を示されたこと。先週のオペティ・パリ大司教の辞任については「ゴシップの犠牲者です」と評された。 

*女性との関係報道で辞任したオペティ・パリ大司教は「ゴシップの犠牲者」

 オペティ前大司教は先週2日、フランスの有力雑誌Le Pointに「ある女性と合意に基づく親密な関係をもっている」と書かれたのを受けて、教皇に辞意を申し出、受理されている。オペティはこの報道に対して、「その女性とは性的な関係は持っていない」と述べる一方、カトリック・ラジオ Notre Dame とのインタビューで、「何度も接触した人との状況をうまく処理できなかった」ことを認めている。

 記者会見でこの問題を聞かれた教皇は、Le Pointの報道について、「オペティがしたことは、大司教を辞任しなければならないほど酷いことだったのでしょうか。教えてください」と問い返し、返事が無かったので、さらに、「報道の内容が正しいかどうか、分からなければ、彼を断罪することはできない。被害者などから)訴えがあれば、調査せねばならないが、断罪するのが”公衆”であってはなりません」と言明された。

 また教皇は「『姦淫してはならない』という教会の掟に、恐らく違反したのでしょうが、オペティの場合、『完全な違反』ではない。少しなでたり、マッサージをしたり…というのが報道の中身ですね。これは罪ですが、一番深刻なものではありません」とされ、「オペティも、そして私自身も、皆が罪人です。ペトロさえも、イエスが十字架につけられる前に彼を否定するという罪を犯しています。私たちはいつも自分が罪人であることを自覚する必要があり、謙虚でなければならない」と語った。

 さらに、「ゴシップがどんどん膨らんで、誰かの名誉を奪うなら、それは不正な行為です。真実のゆえにではなく、偽善のゆえに、私は、オペティの辞任を受け入れました」と辞表の受理が不本意であったことを明らかにした。

*民主主義は文明の宝、ポピュリズムの脅威から守れ

 また、教皇は、ギリシャ訪問中、各界代表との会見で、「ナショナリズムの波の高まりの中で、欧州と西側諸国全域で、民主主義が弱体化している」と警告する発言をされていたが、これに関する質問には、「民主主義は、文明の宝。国々は、自身で、そしてどこにおいても守る必要のある宝です」と改めて強調。

 さらに、「現在の、民主主義に対する脅威には二つあります。一つはポピュリズムであり、今、その”爪”を見せ始めています」とされたうえで、「私は前の世紀のことを考えます。ナチズムーナチズムは、国の価値観を擁護するポピュリズムでした。民主的な暮らしを根こそぎにし、ドイツを独裁国家にしてしまいました。現代においても、どの国の政府も、ポピュリズムに傾斜しないように注意する必要がある」と述べた。

 そして、「Populismは、一国のアイデンティティ、民間伝承、価値観の表明であるpopularismではありません。国の価値を犠牲にし、損ない、国益を超える政府を指向するシステムです。国の利得のためにアイデンティティを損なうべきではありません」と語り、英国のロバート・ヒュー・ベンソン神父が著作「The Lord of the World」で予見した「国際的な政府が、他のすべての国を支配する世界」を挙げて、「このようなことは、超大国が経済的、文化的、社会的価値を支配するときに起こります」と警告した。

 

*難民・移民に”壁”を築く人々は”歴史”を忘れる

 教皇はまた会見で、今回のキプロス、ギリシャ訪問の主要なテーマだった難民・移民の問題に再び触れ、「壁を築く人たちは、”歴史”を忘れます」と、難民・移民の受け入れを拒む傾向の強まりを批判した。

*カトリック教会と正教会は祈りと行為を通し一致に向けて歩む

 カトリック教会と正教会との関係についても言及され、「神学的な論争が時とともに解決されていく中で、祈りと慈善行為を通し、一致に向けて共に歩むことができます」と述べ、モスクワのロシア正教会のキリル総主教との二回目の会談が計画中であることも明らかにしたが、日程など詳細については語らなかった。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

*欧州委員会の多様性に逆行する新ガイドラインは”時代錯誤”

(2021.12.6 バチカン放送)

 6日の機上会見で、教皇フランシスコは、ロシア正教会のキリル総主教との二回目の会見の可能性について、「それほど遠くないうちにキリル総主教と出会う意向がある」と述べ、会見の場所について、キリル総主教がフィンランドに行く可能性に触れると共に、「兄弟との対話のために、自分はいつでもモスクワに行く準備がある」と語られた。

 また、欧州委員会が先に発表した「インクルージョンなコミュニケーションのためのガイドライン」(後に取り下げられた)で、「クリスマス」など特定の宗教を示唆する言葉を用いないよう推奨していること、などへの考えを聞かれた教皇は、「欧州連合は創始者たちの理念を取り戻すべきです… 欧州連合の理念、偉大な理念は、”イデオロギーの植民地化の道”を歩まないよう忠告するものでした。欧州連合は構成国それぞれを尊重すべきであり、個々の国の多様性な在り方に対し、画一化を求めてはなりません」とされた。

 さらに、「それぞれの国が特徴を持ち、それぞれが他の国に対し互いにオープンなのが欧州連合であり、”イデオロギー的植民地主義”の媒介者であってはなりません。そういう意味で、お欧州委員会のガイドラインは時代錯誤です」と言明された。

(編集「カトリック・あい」)

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2021年12月6日