☩「核戦争の脅威、自由侵害の危機に直面する今、改めて平和構築への協力が求められている」外交団との年頭会見で

(2023.1.9  Vatican News  Salvatore Cernuzio)

   教皇フランシスコは9日、年頭恒例の在バチカン外交団との会見で、今年の世界のすべての人に関わる課題を列挙され、特にロシアによるウクライナにおける「無意味な」軍事侵略の即時停止とイランで問題になっている死刑の廃止に各国が努めるよう強く求め、また聖地イスラエルでの紛争、核戦争の脅威を高める(ロシアのプーチン大統領の)核兵器使用をほのめかす言動、中南米や中東での政治・社会的緊張、中絶を認める世界の動きなどを強く批判された。

*”第三次世界大戦”が起きている

 会見での講話で、教皇はまず現在の世界情勢に触れ、5 つの大陸で紛争と緊張が続いている地域に言及。 「今起きているのは、第三次世界大戦の 一形態であり、単に一地域に限定されたものではかく、世界全体を巻き込むもの」と指摘された。

*民主主義が弱体化している

 こうした状況の中で、「政治的、社会的な二極化が進み、多くの国で民主主義が弱体化しています」とされ、「共に平和を築き、民主的な政治、社会が再活性化するように努めましょう」とすべての人に呼びかけた。 また、 ペルー、ハイチ、そしてブラジルで8日に首相府や最高裁判所が暴徒化した人々によって攻撃、破壊されたように、「二極化がもたらす緊張と暴力に満ちた状況」が起きていると指摘。「党派的な考え方を克服し、共通の利益を促進するために働く必要がある」と強調された。

 

*中国協定

 また教皇は、教会内外からも批判が出ているバチカンと中国の、中国国内での司教の選任に関する暫定合意を取り上げ、「互いの敬意と建設的な対話の中で、カトリック教会の活動と中国の人々の生活のために、協力関係が強められることを願っている」と語られた。

*核の脅威

 プーチン露大統領の核兵器使用をほのめかす発言などで核戦争の危機が高まっているが、教皇は、1962年のキューバ危機で高まった核戦争の危機が続いていた1963年に、聖ヨハネ 23 世教皇が発出され、 60 周年を迎える回勅「Pacem in Terris(地上の平和)」を取り上げ、キューバ危機で「対話が可能であることが証明されていなければ、人類は絶滅の一歩手前だったでしょう…悲しいことに、今日も核の脅威が提起され、世界は再び恐怖と恐怖を感じています」と指摘。

 「核兵器の所持は不道徳なこと。ヨハネ23世が語られたように、『大火が何らかの偶然と予期せぬ状況によって開始される可能性』が否定できないからです」と述べ、「核兵器がもたらす危険性と、核戦争がもたらす悲惨な殺戮と破壊」を強く警告された。

 関連して、イランの核合意をめぐる交渉の行き詰まりについて特に懸念を表明し、「より安全な未来を確保するために、速やかな解決を望みます」と語られた。

 

*ウクライナ軍事侵略の即時停止を改めて訴える

 続いて教皇はウクライナ情勢に注目され、ロシア軍による「銃撃や暴力行為だけでなく、飢えや凍えるような寒さによって命を奪う電力、水道、ガズなど民間インフラへの攻撃」を強く非難。「この無意味な戦争の即時終結を改めて訴える義務が私にはある、と感じています。その影響は、世界のエネルギーと食料供給に深刻な影響を与えている」と批判した。

*イランの現状から、改めて死刑制度は容認できない

 教皇は、世界の他の地域にも目を向け、まず、スカーフのかぶり方をめぐり逮捕された女性が死亡したことを受けた全国的な抗議デモに関連して4人が死刑となっているイランに言及。「死刑は、抑止力にならず、被害者に正義をもたらすものでもない。復讐への渇望をあおるだけです。私は常に死刑の廃止を訴えています。イランにとどまらず、世界のすべての国の法律で、人の尊厳を否定する死刑は容認できません。人が最後の瞬間まで悔い改め、変わることができることを無視するわけにはいかない」とされた。

 

*シリア、そしてイスラエルの紛争解決

 また、貧困と経済制裁が続くシリアに注意を向け、「この国の再生は、憲法改正を含む必要な改革を通じて実現されねばなりません」とされた。隣接するイスラエルの聖地エルサレムでのパレスチナ人とイスラエル人の抗争の激化についても. 「エルサレムの現状維持が保証され、尊重されること」を求められ、「イスラエル、パレスチナ両政府が、国連のすべての関連決議と国際法に従って、二国による解決を図るために直接対話する勇気と決意を取り戻すように願っています」と強調された。

*アフリカ、コーカサス、中東における課題

 さらに教皇は、1月末から2月初めにかけて予定しているコンゴ民主共和国、南スーダン訪問に関して、訪問が両国の人々の平和につながるようにとの期待を表明。紛争が続く南コーカサスについても「停戦」を促し、「軍人および民間人の囚人の釈放」を求めた。 イエメンに関しては、停戦にもかかわらず、地雷で民間人に犠牲者が出ている問題を指摘。飢饉など人道危機にあるエチオピアに対しての援助強化を各国に求めた。

 また、スーダン、マリ、チャド、ギニア、ブルキナファソで進行中の平和安定への移行プロセスが「国家の正当な願望を尊重して」行われることを期待して、ブルキナファソ、マリ、ナイジェリアの人々が経験している危機について懸念を表明された。

 アジアについては、「2年にわたって暴力、苦しみ、死を経験している」ミャンマーと、「大きな成果を達成するために善意と協力が求められている朝鮮半島」の情勢に懸念を表明され、韓国、北朝鮮のすべての人々に平和と繁栄があるように願われた。

 

*軍事バランスの論理は正当化されない

 ロシア、中国、そして北朝鮮などで核兵器など軍備の増強の動きが強まり、その脅威から自国を守るための西側諸国などの軍備強化の動きをもたらしているが、教皇は「すべての紛争は、新しく、より洗練された武器の生産に継続的に依存することの致命的な結果であり、軍事力のバランスを確保しなければ平和は保証できない、という論理によって正当化されることがある」と述べ、「”死の道具”が増殖しているところに、平和はあり得ません。軍事バランスの発想を改め、完全な軍縮に向けて動く必要があります」と訴えられた。

 

*女性の尊重

 「平和の糸を新たに織り上げる」ために、教皇は、「真実、正義、自由、連帯から再び出発する」よう促され、 まず第一に、「私たちは人間の生命と身体に対する権利を尊重せねばなりません」とし、 これは特に、今日でも多くの国で「二級市民」と見なされている、あるいは「暴力や虐待を受け、勉強、仕事、才能のある雇用、医療、食事へのアクセスの機会を否定」されている女性に関わる問題です」と指摘。「女性は、社会生活に独自の貢献をし、平和の最初の味方になることができる」と強調された。

*中絶は認められない

 そして、「平和は、私たちに命を守ることを求めます。そして今、小さな命が、妊娠中絶の権利の主張によって、母親の子宮内でさえもしばしば危険にさらされています」と、中絶に強く反対され、「特に無力で完全に無防備な人、最も弱い人々の権利を守り、病者、身体障害者、高齢者にも影響を与える”使い捨て文化”と戦うように」と求められた。

*生命の恐怖

 また、関連して、今、多く人に「生命への恐れ」が生じている、とされ、「これは、子供をこの世に生み出し、家族を作ることへの恐れにつながる。結果として、 イタリアなどでは出生率の危険な低下が起きています。生命への恐れは無知と偏見によって助長され、容易に葛藤へと落ち込みます」と警告された。

*教育は恐怖の解毒剤

 そのような恐怖に対する解毒剤は教育、と教皇は指摘され、「教育においては、その人、その生まれ持った環境に完全な敬意を示すこと、そして混乱した見方を押し付けるの避ける必要があります」と注意された。そして、「アフガニスタンの女性に起こっているように、国民の一部が教育の対象から除外されることは容認できません」とされ、「教育のための公的支出と軍備への支出との間のアンバランスを逆転させる勇気をもっていただきたい」と各国に強く訴えられた。

*信教の自由を守らねばならない

 教皇はまた、信教の自由が世界中で守られるよう強く求められた。「公に信仰を告白したという理由だけで、世界各地で人々が迫害されていることを憂慮しています。キリスト教徒が少数派でない国でも起きている」と述べられた教皇は、「信教の自由は、尊厳のある生活様式の最低限の必要条件の 1 つです。各国政府には、この権利を守り、各人が共通の利益と両立する方法で確実に行動できるようにする義務があります。 公共の場や専門職の遂行においても、自分の良心に従って行動する機会を享受できるようにせねばなりません」と訴えられた。

 そして、「宗教は、さまざまな人々や文化の間の対話と出会いのための真の機会を提供します」とされ、2019 年にアブダビで署名された「人類の友愛に関する文書」を引き合いに出された。

*多国間主義の重要性

 続けて教皇は、「対話とともに、現在の分断された世界が必要としているのは正義であり、それは、ウクライナでの紛争が明らかにしたように危機に瀕している多国間主義につながります」と指摘。「多国間主義が効果的に機能することで、すべての人々の求めていることを真に代表し、一部に重きを置いて他の人に損害を与えるのを避け、”連合”を作るのではなく、すべての人が対話のパートナーになる機会を提供できます」と語られた。

*イデオロギーの植民地化を避けよ

 教皇は、移民・難民の受け入れと軍縮を支持する、あるいは貧困と気候変動と闘う「賞賛に値するイニシアチブ」を取り上げ、「多くの人が力を合わせることで、大きな利益を上げることができます」と強調。

 その一方で、 「最近では、さまざまな国際的な場で二極化が進んでおり、一方的な考え方を押し付けようとする試みが行われています。それによって、対話が妨げられ、物事の見方が異なる人々がわきに追いやられている。 リスクは、”イデオロギー的全体主義”の中に生じています」と指摘され、「そのような動きは、”進歩”の担い手のように見えて、実際には、特定の立場に異議を唱える人々に対する不寛容を助長し、思想の自由と良心の自由を侵害して、人類を破壊することにつながる」と批判された。

 これは、教皇フランシスコがこれまで”イデオロギー的植民地化”と指摘されたもので、「そうした動きを進める者たちは、経済援助の提供とそのようなイデオロギーを受け入れさせることを直接結びつけてしまう。 そして、国際関係に緊張をもたらし、権力の地盤を築いていくのです」と注意された。”イデオロギーの植民地化”の悪については、先に顕在化したカナダにおけるカトリック教会の運営施設での先住民の子弟虐待に関して、教皇は、昨年のカナダ訪問で原住民の人々の痛みを直接体験されている。

 

*移民・難民を助ける連帯の共有を

 講話の最後に教皇は、参加者たちを通して世界の国々に「連帯の共有」を求められ、「新型コロナウイルスの世界的な大感染が私たちに示したように、誰も一人で自分を救うことはできません。私たちは互いに強く結びついた世界に住んでおり、それぞれの行動が結局は、すべての人に影響を及ぼします」 とされた。

 そうした経験をもとに、移民・難民問題についても、より大きく、より焦点を絞った取り組みを行うよう求められた。「移住は、何もせずに進められる問題ではない。地中海で移民・難民の人々の失われた命は”文明の難破”を象徴しています」とされ、「欧州においては、新たな協定を通じて、移民・難民と亡命者の受け入れに関する枠組みを強化し、適切な政策を実施することが急務となっています」と語られた。

*あらゆる形の労働搾取と戦うこと

 また、世界において「ビジネスと仕事において働く人々の尊厳を回復し、労働者を商品として扱うあらゆる形態の搾取と闘うこと」「パキスタンで起きたような気候変動が荒廃をもたらす影響などを考慮し、”共通の家”のために共に働くこと」を訴えられた。

*私たちの隣人、兄弟姉妹

 そして、「平和の構築には、他国の自由、主権、安全を侵害する余地がないようにすることが必要です。平和の構築は、すべての共同体において、隣人を『喜びをもって受け入れる兄弟姉妹』ではなく、『攻撃すべき敵』と見なす”抑圧と攻撃の文化”があたりまえでない場合にのみ可能なのです」と締めくくられた。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2023年1月10日