☩「対話と兄弟愛で世界平和を目指して」新年の外交団へのあいさつで

教皇フランシスコ、バチカン駐在外交団に新年の挨拶 2022年1月10日 教皇フランシスコ、バチカン駐在外交団に新年の挨拶 2022年1月10日   (Vatican Media)

(2022.1.10 バチカン放送)

 教皇フランシスコは10日、バチカン宮殿の祝福の間で、駐在外交団と新年のあいさつを交わされた。

 あいさつで教皇は、現在の世界情勢を視野に置きつつ、新型コロナの世界的大感染、移民・難民、気候変動、紛争と軍縮、教育と労働などの諸課題を幅広く取り上げられた。

*新型コロナの感染の再拡大阻止に全力を 

 コロナ感染については、最近の急激な再拡大の状況をふまえ、「コロナとの戦いには、なお皆さんの多大な努力が必要になっています」とされた。

 そして、大感染が世界中の多くの人の社会的孤立と犠牲を強いる一方で、ワクチンの普及が進んだ地域では感染者の重症化が抑えられている現状を指摘。「人々にできる限り免疫を獲得してもらうために、個人、政治、国際社会のそれぞれのレベルにおける様々な努力が求められます」と強調された。

 また教皇は「人は自分の健康に責任を持つとともに、周りの人の健康をも尊重せねばなりません」とされ、新型コロナへの対応をめぐって、しばしば裏付けのない情報が流され、「そうした情報で築かれたイデオロギーに影響される風潮があるのは、残念なことです」と語られた。

 ワクチンについて「回復のための魔法のような道具ではありませんが、新たに開発された治療法と合わせ、この感染症に対する最も理にかなった解決法です」と語られ、各国政府や国際機関の関係者に「感染防止と免疫獲得のための政策を通して人々を守るように、世界のすべての人が平等に基本的な医療ケアとワクチンにアクセスできるように」と包括的な取り組みに協力して当たるように求められた。

*移民・難民発生の背景にある経済・政治危機への対処を

 教皇は昨年の国家元首・政府首脳らとの出会いや海外訪問などを振り返る中で、昨年7月にバチカンで行われた「レバノンのための考察と祈りの一日」を思い起こされ、レバノンの経済・政治危機克服を祈るとともに、関係国や国際機関などによる支援を改めて願われた。

 昨年3月に訪れたイラクの人々が尊厳と平和のもとに生活できるよう祈られ、9月のハンガリーとスロバキア訪問、12月のキプロスとギリシャ訪問をエキュメニカル・諸宗教対話の機会として示された。

 またギリシャ訪問中の、レスボス島の移民施設での人々との出会いに触れられ、「祖国を離れざるを得なかった移民・難民の人たちを前に、無関心でいたり、壁を築くことはできません」と述べる一方、移民・難民の受け入れと保護の努める政府や市民に感謝を表された。

*気候変動問題で”解決策の断片化”が広がっている

 気候変動問題については「多くの問題が絡み合い、複雑化した課題を前に、”解決策の断片化”が広がっていること」を憂慮されるとともに、「問題解決に向けて対話の窓を開き、兄弟愛の絆を構築する、という”意志の欠如”が見られます… 『一つの人類という家族』としての共通のアイデンティティーの意味を取り戻す必要があります」と強調。世界各国、国際機関などに対して、「共通の解決策を見出し、それを実行に移すための積極的な努力」を望まれた。

 関連して、昨年10月に英グラスゴーで開かれた国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で、適切な方向性においていくつかの進展が見られたことを評価しつつ、「対応すべき課題の重大さに対して、その成果はいまだ少ない」と語られ、2020年以降の地球温暖化対策の国際的な枠組みであるパリ協定の目標達成への道は「長く険しく、残された時間は少ないように見えます… グラスゴー会議での決定事項をいかに強化できるかを見極めながら、今年11月にエジプトで開催予定のCOP27に向けて取り組みを加速するよう、求められた。

 

*紛争克服の本質的要素は「対話と兄弟愛」

 世界各地で紛争が続いていることを憂慮された教皇は、「対話と兄弟愛」を危機を乗り越えるための本質的要素として示される一方、「国家間の建設的対話の努力にもかかわらず、戦争は止むことがありません… 時として代理戦争の様相をも帯びた、終わることのない紛争に解決を見つけることは、国際社会全体にとっての急務」と訴えられた。

 特に内戦が続くシリアについて、「再生をもたらすためには、政治と憲法の改革推進と同時に、経済制裁が国民の日常生活に直接影響を与えないことが大切です」と述べられた。

 また、イエメンにおいて内戦と人道危機の惨状が、メディアで十分に伝えられず、国際社会の無関心の中で静かに進行し、「女性や子どもをはじめ多くの犠牲者を出していることを、忘れてはなりません」とされた。

 イスラエルとパレスチナが二つの国家として、互いを赦し、憎悪と怨恨を持つことなく、平和と安全のもとに共存できるよう、平和プロセスの今後の進展を願われた。

 アフリカのサヘル地域におけるテロリズム、スーダン、南スーダン、エチオピアの内戦にも、和解と平和を願われた。

 また、ウクライナとコーカサスの緊張に対して、早急に解決を見つるけこと、ボスニア・ヘルツェゴビナをはじめとするバルカン地域に新たな危機がもたらされるのを防ぐことの必要を説き、危機の勃発から間もなく1年となるミャンマーに対話と兄弟愛による平和の回復を訴えられた。

 

*「紛争抑止のための武装」は幻想だ

 また、これらの紛争の背景として、大量の武器の供給と、それを流通させる武器商人たちの責任感が欠落した行動を挙げ、「『武装は、紛争抑止の役割を果たすために必要』との考えは幻想です。武器を持つ者はいずれそれを使うことになることを歴史が教えています」と語られた。

 武器の中でも、特に核兵器の拡散・拡大に対して大きな憂慮を示された教皇は、ニューヨークで開催予定だった核拡散防止条約再検討会議が新型コロナ感染の影響で延期されたことに言及。「核兵器のない世界は可能であり、必要です。会議がこの目標を目指す有意義な一歩をしるす機会となるように」と希望された。

 さらに、「21世紀において、核兵器は、安全への脅威に対処する手段として、ふさわしくないものであり、その保有は倫理に反する」とのバチカンの立場を確認された。

 

*教育と労働は「対話と兄弟愛の文化」を促進するはずが・・カトリック校での虐待を憂慮

 教皇は「対話と兄弟愛の文化」を促進する要素として、教育と労働の大切さを強調された。

 そして「教育は人間の統合的発達に最も重要な役割を担い、人を自由で責任ある者とし、対話を育み、文化を創造し、人と人との出会いの橋をかけるもの。カトリック教会は、若者の精神的・道徳的・社会的成長のために、常に教育の役割と価値を認識してきました」とされた。

 だが、そうした認識にもかかわらず、「小教区や学校など教育の場で、未成年者に対する虐待行為が起きている」ことを深刻に受け止められ、「このような犯罪に対しは、真相を解明するとともに、責任を明らかにし、被害者の権利を認め、このような残忍なことが二度と繰り返されないように、断固とした意志をもって対応しなければならなりません」と強調された。

 また、労働については、「自分に与えられた恵みの表現としての労働、同時に義務と努力、他者との協力でもある労働は、平和を築き守るための不可欠な要素であり、私たちがより良い世界への貢献を学ぶ場所でもあります」と語られ、「新型コロナがもたらした危機によって大きな影響を受け、経済的・心理的に不安な状況に置かれた労働者と家族たち」に思いを寄せられた。

 あいさつの最後に教皇は、「生活の中に平和を広げながら、互いに対話と兄弟愛を育み、人の心から心へ、そして世界へと平和を伝えていきましょう」と外交団に呼びかけられた。

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 バチカンの外交団は現在、バチカンと外交関係を持つ183か国と欧州連合、マルタ騎士団で構成されている。

(編集「カトリック・あい」)

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2022年1月11日