☩「ロシアに強制連行されたウクライナの子供たちの帰還実現に努力中」教皇、帰国途上の機中会見で

 

 3日間のハンガリー訪問を終えられた教皇フランシスコは30日夜、ローマへの帰途の機上で同行記者団と会見され、ロシアのウクライナ軍事侵略の即時中止、ロシアに拉致されたウクライナの子供たちの帰国促進のバチカンの努力、教皇ご自身の退院後の健康状態など、多くの質問に答えられた。.

 教皇の記者団との一問一答は以下の通り。(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

*「ハンガリーの人々との最初の体験はブエノスアイレスで」Pope Francis speaks to journalists aboard the papal plane

 

問:アンタル・フバイ=(ハンガリーのテレビ局 Rtl Klub:  ハンガリーの人たちとの出会で、どのような経験をなさいましたか?

教皇:多くのハンガリー人イエズス会士が国外追放された 1960 年代に、私は初めて(ブエノスアイレスで、ハンガリーの人々と)出会いました。  ブエノスアイレスから 20 キロ離れたところに学校があり、月に 2 回通いました。ブエノスアイレスで働いているハンガリー人信徒のコミュニティとも関係がありました。 私はハンガリー語をよく知らなかったのですが、意味がよく分かる言葉が 2 つあります。「Gulash(ハンガリー料理のスープ)」 と「 Tokai(ハンガリーの有名なワインの名)」 です(笑)。 難民であり、家に帰ることができないという彼らの痛みに、私は大きな影響を受けました。 また、1956 年の短い熱狂とその後の落胆も経験しました。

問:アンタル・フバイ: その後、ハンガリーの人々への見方は変わりましたか?

教皇:変わっていません。 私が会ったハンガリー人が素晴らしい文化を楽しんでいる、という意味でより豊かになりました….

 問:ブエノスアイレスで、ハンガリー人とは 何語を話していましたか?

教皇:通常、ドイツ語あるいは英語で話しました。 ハンガリー語はハンガリー国外では話されていません。 それを学ぶには「永遠に時間がかかる」と言われているので、(ハンガリー語で話すことのできるのは)天国だけです(笑)。

問:エリアナ・ルッジェーロ=イタリアのオンライン・ニュース局AG: あなたは私たちの利己主義のドアを貧しい人々、移民、秩序を保っていない人々に開くよう訴えかけました。 ハンガリーのオルバン首相との会談で、彼が閉鎖したバルカン ルートの国境を再開するよう要請なさいましたか? 最近、あなたは(ロシア正教会の前渉外局長で、現在ブダペストおよびハンガリー府主教の)イラリオン主教ともお会いになりました。彼とオルバン首相が、ウクライナの和平プロセスを加速するために、あるいはあなたとプーチン大統領との会談を可能にするために、モスクワに対して開かれたチャネルになることができる、とお考えですか?

*「移民・難民問題は欧州全体で対処すべき、5か国に負担がかかりすぎている」

教皇:「平和は常に(対話の)チャンネルを開くことによって作られる」と私は信じています。 閉鎖によって平和を実現することはできません。 私はすべての人に、関係、友情のチャンネルを開くように勧めます…  これは容易ではありません。 私がいつも言っている事と同じ事を、オルバン首相たち、あるいは誰にでも言いました。

 移民・難民の問題は、欧州全体で対処しなければならない問題だと思います。キプロス、ギリシャ、マルタ、イタリア、スペインの 5 つの国がいちばん苦労しています。 欧州各国が移民・難民を公平に受け入れる責任を負わないと、これらの国々だけに負担がかかり続けます。 欧州諸国は、この問題に対しても「欧州連合なのだ」という意識を人々に与えなければならないと思います。

 移民・難民に関連して別の問題もあります。それは出生率の低い国の問題です。 イタリアやスペインのように子供が少ない国があります。 最近… 昨年、私は家族に関する会議でこの問題について話しました。最近、この二つの政府や他の国の政府もそれについて話すようになっているようです。 イタリアの平均年齢は 46 歳で、スペインの平均年齢はさらに高く、さびれた小さな村もあります。いくつかの国が持っていた移民・難民モデル(たとえば、ラテンアメリカの独裁政権時代のスウェーデンがその一例です)でうまく実施されているプログラムは、出生率の低いこれらの国にも役立つでしょう。

 

*「ロシア正教のキリル総主教とのパイプは繋がっている」

 

 

教皇:質問の最後は… 最後は何だったのでしょうか? ああ、はい、イラリオン主教のことですね。彼は私がとても尊敬している人物で、常に良い関係を築いてきました。 彼は親切にも私に会いに来て、ミサに来てくれました。私も今回、ブタペストの空港で彼に会いました。 彼は知的な人物で、対話が可能です。彼との関係を維持する必要があります。それは、エキュメニズムについて話すとき、私たちはすべての人に手を差し伸べ、彼らの手をつかまなければならないからです。

 (ロシア正教のリーダーである)キリル・モスクワ総主教とは、(ロシアの対ウクライナ)戦争が始まってから一度だけ話しをしました。インターネットのZOOMを使って 40 分間。その後、イラリオン主教の後任の(ロシア正教会の渉外局長の)アントニウス主教が私に会いに来ました。 彼はローマの教区司祭を経験しており、現在の状況をよく理解している。私は彼を通して、常にキリル総主教とつながっています。

 キリル総大主教とは昨年6月か 7 月にエルサレムで会う予定でしたが、戦争のために実現しなかった。間もなく離任される駐バチカンのロシア大使と良い関係を築いています。 彼は 7 年間、バチカンの大使を務め、素晴らしい人物、comme il faut(礼儀正しい)人物、まじめで教養があり、バランスの取れた人物です。 私のロシア人との関係は、主にこの大使との関係です。

 

 

 

*「ウクライナ和平へのミッションが進行中」

 

問:エリアナ・ルッジェーロ: ヒラリオン主教とオルバン首相が、ウクライナでの和平プロセスを加速し、あなたとプーチンの会談を可能にすることが可能でしょうか。彼らは「仲介者として」行動できるでしょうか?

教皇:彼らとの会合で、”赤ずきんちゃん”について話しただけではないことは想像していただけますよね?  私たちはこれらの問題すべてについて話し合いました。 誰もが平和への道に関心を持っており、これについて話し合いました。 私は喜んで、必要なことは何でも喜んでします。 現在進行中のミッションがありますが、まだ公開されていません。 様子を見ましょう… 公開されたらお話しします。

 

問:アウラ・マリア・ヴィスタス・ミゲル= Rádio Renascença: 教皇の次のご目的地はリスボンです。ご 健康についてどう思われますか。先に入院された時は驚きました。気絶されたと聞きましたが、リスボンの「世界青年の日」に参加する気力はおありですか? 新しい世代へのしるしとして、ウクライナとロシアの若者のイベントを希望されますか?

教皇:第一に、健康について。あの時、水曜日の一般謁見の後、突然、具合が悪くなった。 昼食をとる気が起きず、 少し横になりました。 意識を失うことはありませんでしたが、とても熱が高く、午後 3 時に医師が私を病院に連れて行きました。検査で肺の下部に重度の急性肺炎が起きているのが分かったのです。神に感謝します。助かりました。

 リスボン訪問については、今回の旅行の前日に、私はリスボン教区のアメリコ・アギアル補佐司教 と話をしました。 私はリスボンに行きます。それを願っています。 2 年前の具合が悪かった時と違います。 体調が今は良くなっているし、 今のところ、リスボン訪問はキャンセルされていません。それから、フランス・マルセイユ、モンゴル、さらに次の海外訪問があります。

 (ロシアとウクライナの若者に関するイベントについては)アメリコが何か考えています。何かを準備している、と私に言いました。よく準備してくれています。

 

*バチカン美術館の所有物のギリシャへの返還の後は

問:ニコル・ウィンフィールド=AP通信: あなたは最近、信教一致に関してとても強い意思表示をなさいました-バチカン美術館が保有していた、パルテノン神殿の彫刻の 3 つの断片をギリシャに寄贈される、と言う形で。これは、正教会の外の世界でも反響を呼んでいます。それは、まさに今、西欧の多くの美術館が、正義の行為として、植民地時代に(当時の西欧列強諸国が)手に入れた美術品の返還について議論しているからです。 他にも返還を考えておられる品物があるでしょうか。特に、植民地時代に被った損害に対する補償の一環として、カナダの先住民の人々が、バチカン美術館の収蔵品の中で彼らに関わる品の返還を要求していることに対しては。

教皇:モーセの第七の戒めに、(何か)を盗んだ場合、(それを)返さなければならない、とあります。 しかし、世界の歴史を振り返ると、戦争に勝ったり、植民地にしたりして、他の国や人々の所有物を奪うということがありました。パルテノン神殿の品を返すのは正しい行為であり、なされなければなりませんでした。では、 明日、エジプトの方々がオベリスクを返すよう求めてきたらどうするか? 、その場合も、ケース・バイ・ケースで(どう対応すべきか)識別する必要があります。

 返すことができる物、その必要がある物は返す。様々な理由で、それが出来ない場合もありますが、返せるときは、返すべきです。他人のポケットに手を入れるのと当たり前と思わないように。

 カナダの先住民の物品の返還に関しては、現在、進行中です。少なくとも、私たちはそうすることに同意していました。 どこまで進んでいるか、担当者に聞いてみます。カナダでの先住民との経験(昨年7月のカナダ訪問で、教皇は、先住民の人々に会い、かつての彼らの子弟に対する教会の残虐行為を謝罪した)は非常に実り多いものでした。米国でも、イエズス会が彼らとの間で対応していることがあります。イエズス会の総長からそう聞きました。

しかし、返品に戻ります。 返すことができるもの、必要なもの、身振りとして見られるものであれば、やったほうがいいです。 できない場合もあります。 政治的、現実的、具体的な可能性はありません。 でも返せるときは返してください。それは誰にとってもいいことです。 他の人のポケットに手を入れることに慣れないようにせねばなりません。

 

 

*強制連行のウクライナの子供たちの連れ戻しはうまくいくと期待

 

問:エバ・フェルナンデス=スペインのRadio COPE: ウクライナの首相は、ロシアに強制連行された子供たちを連れ戻すためにあなたの助けを求めています。助けることを考えておられますか?

教皇:そう思います。バチカンはこれまでいくつかの捕虜交換の仲介役を大使館を通して行い、うまくいきました。(子供たちを連れ戻すことも)うまくいくと思います。これは大事なことです。正しく、公正であることですから、バチカンは進んで行動します。 これ(ロシアの子供たちの強制連行)が、正当な理由なく、人為的になされたことを確認することに協力しなければなりません。 これは、”戦利品”や戦争によって引き起こされた”移動”の問題である以前に、人道上の問題です。 人間の意思表示としての行為は役に立ちますが、残酷な意思表示の行為は役に立ちません。 人間として出来ることはすべてするべきです。

 イタリア、スペイン、ポーランド、ハンガリーなどの国に、避難してくる女性のことも、私は考えます。子供たちや夫とやって来る非常に多くの女性、そして、戦いに出ている方の妻たち、戦いに出ている女性たちのことも。今、彼女たちは助けを受けていますが、私たちは助ける熱意を失ってはなりません。熱意がさめれば、彼女たちは保護されずに残され、”ハゲタカ”の手に落ちる危険が生まれるからです。 そうならないように注意してください。難民支援に緊張感を持ち続けるようにしましょう。 すべての人がかかわる問題です。

 

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2023年5月1日