*”フェイクニュース”が憎しみを煽り、要人暗殺未遂などを起こしている
会見での講話で教皇は、”フェイクニュース”の絶え間ない作成と拡散 “を慨嘆され、「それは”事実だけでなく認識も歪めてしまっている」と語られた。そして、「この現象は、虚像を生み出し、憎しみを煽る疑惑の風潮を生み、人々の安心感を損ない、市民的共存と国家全体の安定を危うくする」と指摘。そうした目的のために、2週間以内に行われるトランプ氏の大統領就任式を前にした最近の銃撃事件などが起きていることを憂慮された。
昨年一年間のバチカンの外交面での成果として、司教任命に関するバチカンと中国の暫定合意の更新を挙げ、更新期間が従来の2年ではなく4年に延ばされたことは「中国のカトリック教会とすべての中国国民の利益のために、尊敬に満ちた建設的な対話を続けたい、という願いの表れ 」と説明されたが、世界の現状を見ると、ドイツのマグデブルクやニューオリンズでのテロを含む紛争や戦争が続き、各地で社会的・政治的緊張が高まっている、と指摘。
*平和と対話を促進する「希望の外交」を
そうした中で、新しい年、そして聖年が始まり、「外交は平和と対話を促進する上で重要な役割を担っています」とされ、世界の政治指導者たちが共通善を追求し、貧しい人々や虐げられた人々を優先するような『希望の外交』を実践するよう、各国の外交官たちに提唱された。
また、「現代の社会が、ますます富と物質的成長を重視し、子供よりも、ペットを好むようになっており、合理的な議論が失われ、異なる考えを持つ人々への不信感が高まる中で、真実が失われています」と批判。「こうした傾向は、現代のコミュニケーション手段やメディアや人工知能によって増幅され、経済的、政治的、イデオロギー的な目的のために心を操作するために悪用される可能性があります」と警告された。
教皇はまた、科学の進歩がもたらすリスクにも警鐘を鳴らし、「科学の進歩は多くの恩恵をもたらしていますが、反面、特にソーシャルメディアやオンラインゲームの普及が、二極化、偏狭さ、不安、孤立、そして”現実の単純化”を増幅させる原因にもなっています」と語られ、それを克服するための批判的思考と個人の成長を促す「メディア・リテラシー教育」の重要性を強調。
また、多国間主義の重要性と、国際的な場面で意思疎通を図るための共通言語を見つける必要性を指摘。「人々の価値観や信念を踏みにじる分断的なイデオロギーを推進するために、用語の意味を変えたり、人権条約の内容を一方的に解釈し直したりして、多国間の文書を操作しようとする試みは、特に憂慮すべきもの… 慎重に計画されたアジェンダに従って、民族の伝統、歴史、宗教的な結びつきを根こそぎにしようとすることは、真の『イデオロギーによる植民地化』を意味します」と強く警告された。
さらに、「これは、胎児や高齢者を含む弱者に不釣り合いな影響を及ぼす… 人権、特に、生命に対する権利と矛盾する『中絶の権利』が主張されている」現状を挙げ、「すべての命は、受胎から自然死まで、あらゆる瞬間において、保護されねばなりません。高齢者や病人が希望を奪われ、捨てられてはならないのと同様に、どんな子供も、存在することが”間違い”であったり、”罪”であったりしてはならないからです」と訴えられた。
続けて教皇は、「紛争を効果的に解決したり、現代の課題に対応したりする国際機関の能力が低下していること」を指摘しつつ、イラン(の核開発を抑制する)核合意をめぐる交渉の再開など、最近の外交的成功を評価された。
*憎しみと暴力を克服する「赦しの外交」が必要
教皇はまた、「憎しみと暴力を克服し、平和を回復すること」のできる「赦しの外交」を育むことの重要性を強調。(昨年12月の「主の降誕」から始まっている)聖年を踏まえ、「2025年にウクライナとガザでの戦争を終結させるために、国際社会全体が意義ある努力をすること」を希望され、「イスラエル人の人質解放」「長年のイスラエルとパレスチナの紛争に対する二国家間解決の達成」「ガザの”恥ずべき”人道危機からの救済」を提唱された。
そして、改めて「世界的な武器貿易の廃止」を提唱され、「戦争は、すべての関係者にとって失敗。民間人、特に子どもたちが巻き込まれ、インフラが破壊されることは、両者の間で悪だけが勝者となることを意味します」と警告。
さらに、「私たちは、民間人を爆撃したり、彼らの生存に必要なインフラを攻撃したりすることを容認できない。 病院が破壊されたり、国のエネルギー網が攻撃されたりして、子供たちが凍死するような事態を容認できません… 世界の国々が『国際人道法を尊重する』と言いながら、その履行を怠っている」と批判。この聖年を契機に、「侵すことのできない人権が軍事的な必要性のために犠牲にされることのないよう、積極的な措置を講じることを望みます」と訴えられた。
アフリカ各地やミャンマーで起きているさまざまな紛争、中東やハイチ、ベネズエラ、ニカラグアなどの中南米で社会不安が続いていることにも言及された。
*信教の自由を含めた人権を尊重する「自由と正義の外交」も
また、「平和と信教の自由の権利の尊重」も提唱され、世界中で高まる反ユダヤ感情や、アジアやアフリカにおけるテロリスト集団によるキリスト教徒への迫害、また、信者の権利を制限する法規範や行政慣行を通して、西側諸国における信教の自由への”控えめな冒涜”を非難された。
加えて教皇は、世界中で続いている奴隷労働、人身売買、麻薬取引に終止符を打つよう呼びかけ、尊厳ある労働条件と、特に「若者にとって有意義な雇用の促進」を提唱。人身売買という「恐ろしい商業」の撲滅に国際社会が参加し、特に人身売買の被害に遭いやすい移民に配慮する「自由の外交」を呼びかけられた。
また教皇は、「正義の外交 」を呼びかけ、「聖年は、正義を実践し、負債を赦し、囚人の刑を減刑するために、理想的な時期です」とされ、正義を回復できる方法として、「死刑は今日、正当性を見出すことができない」として、すべての国における「死刑を廃止」を改めて呼びかけ、「国家を含め、誰であれ、他人の生命を要求することを許す”負債”など存在しません」と説かれた。
さらに教皇は、「気候危機と闘う、さらなる努力」を世界の国々に求め、裕福な国々に、貧しい国々が社会開発を優先的に取り組めるよう、返済不能な債務を免除するよう求められた。
最後に教皇は、「2025年が、世界にとって、真理、赦し、自由、正義、平和に満ちた、真に恵みの年となるように!」と希望され、講話を締めくくられた。
(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)
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