・バチカンの金融財政運営見直しで、教皇が”新自由主義経済”の崇拝”を批判(Crux)

(2020.10.8  Crux

As Vatican faces financial review, pope condemns ‘idolatry’ of neoliberal economy

Pope Francis delivers his blessing in the Paul VI hall on the occasion of the weekly general audience at the Vatican, Wednesday, Oct. 7, 2020. (Credit: Gregorio Borgia/ AP.)

 ROME –教皇フランシスコは8日、人間よりもお金を優先する風潮を批判するとともに、財政運営の透明性を確保するためにバチカンが取ったいくつかの措置を高く評価した。

 欧州評議会の不正資金洗浄規制機関である「資金洗浄対策・テロ資金供与の評価 に関する専門家委員会(MONEYVAL)は、バチカンにおける過去一年間にわたる財政金銭に関する不祥事を受けて、ローマで年次評価を実施しているが、教皇が同日、その代表者たちと会見して語ったもの。

 教皇は、代表者たちが訪問してくれたことに感謝し、MONEYVALの働きは、「自分にとってとても大切」であり、それは「生命の保護、地球上の人々の平和的共存、そして最も弱く、助けを必要と強いる人々を抑圧しない金融システムと密接に結びついてからです」と語られた。

 そして、「金融システムはすべてと繋がっている」とし、4日に発表した新回勅「 Fratelli Tutti「」を取り上げ、「新型コロナウイルスの大感染で失敗が明らかになった」として、「新自由主義の経済構造」を強く批判。「恐怖、あるいは核兵器、生物化学兵器」にではなく、飢餓をなくし、市民に尊厳ある生活を保障するために貧困国の経済発展に投資する必要性を強調した。

 教皇は、カトリック教会の社会教説は「『経済的秩序と道徳的秩序は完全に異なるため、前者は決して後者に依存しない』という新自由主義の考え方の誤りを強調しています」と指摘。現在の世界の状況を見ると、旧約聖書に出てくる「金製の牛の崇拝」が、「お金の崇拝と、人間の真の目的を見失った非人間的な経済による支配」という、「新たな、冷酷な装いで戻ってきたように思われます。そして、目先の利益を求める金融投機は混乱を引き起こし続けています」と非難した。

 この教皇の発言は、新回勅に述べられた、「多くの国で、さまざまなイデオロギーによって影響された大衆的、国家的な一致の考え方は、国益を守るという口実の下に、新しい形の利己主義と社会的感覚の喪失を生み出している」という見方につながるものだ。

 貧しく弱い立場の人々に対する配慮の欠如は「支配する側が自身の目的のために、そうした人々を搾取するポピュリズム、あるいは権力を持つ人々の経済的利益に役立つ自由主義」と表裏をなしており、どちらの場合も「最も弱い立場の人々を含むすべての人のための場を作り、異なる文化への敬意を示す開かれた世界を考えることを難しくします」と指摘。

 「多くの所で、人間に対するお金の優位性は当然のこと、と考えられているようです… 富を蓄積するため努力するが、富がどこから来るのかについてはほとんど考えない。富を生み出した多かれ少なかれ合法的な活動と、その背後にある可能性のある搾取のメカニズムを考えることがないのです」「したがって、お金に触れると、私たちの手に血ー兄弟姉妹の血ーが流れることになる可能性があるのです」と警告した。

 Moneyvalによるバチカンに対する現地評価は、ここ一年の金融取引を巡る不祥事で、バチカンが国際金融市場で”ブラックリスト”に乗るーつまり、国際金融市場から締め出され、金融取引を続けようとすると極めて高いコストを払わねばならなくなる可能性に強い懸念を持たれる中で、実施されている。

 バチカンは2009年に欧州連合の金融に関する条約に署名し、長年、不祥事にまみれた租税回避地と見なされてきた金融上の汚名返上を目指して、第三者評価をMONEYVALに委ねた。MONEYVALは過去に、バチカンの金融監視機関(AIF)からの数十件の疑わしい取引報告の取り扱いを誤った、とバチカンを批判したことがある。

 この反省からかて、バチカンの検察当局は昨年、バチカン国務省が教皇の慈善団体に寄付された資金を不正流用し、約3億5000万ユーロ(約4億ドル)をロンドンの不動産投資に使った疑いで捜査に着手した。今年初めに教皇フランシスコが布告した新しい金融財政透明化に関する規則にもとずく報告がされなかった、といわれ、捜査の過程で、国務省職員数人が解雇または停職処分となった。

 捜査の一環として、バチカン警察はAIFの事務所から書類を押収し、世界的な国際資金洗浄防止機関であるエグモントグループから、バチカンは一時的に資格を停止された。今年1月に資格停止は解除されが、それより前、昨年11月に、AIFの責任者でスイス人弁護士が職を解かれている。

 さらに、今年9月には、バチカンの列聖省長官で、以前は国務省の次官で教皇の補佐官の立場にあったアンジェロ・ベッチウ枢機卿が、教皇の手で解任されている。ロンドンでの不動産投資がされた際に責任を負う立場にあったことや、本人は否定しているが、自分の兄の会社がバチカン取引できるよう便宜を図ったことなどが、解任の理由とされている。

 MONEYVALの代表者との会見で、教皇は、資金洗浄や金融テロに対抗することを目的とした政策により、「資金の動きを監視し、規則違反ないしは犯罪行為を見つけた際には、これに対処する」と強調。

 イエスが物売りを神殿から追い出した福音書の箇所を引用し、「経済が人間の顔を失うと、私たち自身がお金の僕になる… これは、私たちが道理をわきまえた秩序を再建しようと求められること、お金が支配するのではなく、奉仕せねばならない共通善に訴えることに逆らう『偶像崇拝』の一つの形です」と述べた。教皇はこうした考えのもとに、金融犯罪を防止し、バチカンの財政金融の「透明性を確保する」ためにいくつかの新しい規則を導入し、管理、監視体制を強化したことを説明した。

 また、この会見では言及しなかったが、教皇は今月5日、バチカンの金融財政活動の中で、機密にしておくべき事項を時々で判断する権限を持つ委員会を新設している。

 教皇は8日のMONEYVAL代表との会見を次のような言葉で締めくくった。「皆さんが評価作業をされているバチカンの措置と体制は、清浄な金融活動を促進するために計画されました。”物売り”が”聖なる神殿”で目先の利益を追う危険を冒さないように、創造主の愛の計画に従った、人間らしいものとなるようにです」。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。

Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年10月9日