☩教皇、帰国途上の機上会見で、女性の役割、ヒズボラ攻撃激化、聖職者の性的虐待などについて語る

(2024.9.29 Crux   Senior Correspondent Elise Ann Allen)

 4日間のルクセンブルク・ベルギー訪問を終えられた教皇フランシスコは29日、ローマ帰途の機上で記者会見をされ、ルーベン・カトリック大学を訪問された際の女性に関する発言が反発を受けていること、イスラエスのヒズボラ攻撃の激化、聖職者による性的虐待問題などについて、質問に答えられた。

*教会における女性の役割―「私が保守的だ、という批判は馬鹿げている」

 

 機上会見で教皇は、ベルギー訪問中の女性についての自身の発言に対する批判に関して、「女性を”男性化”することは『キリスト教的』でなく、『誇張されたフェミニズム』の産物です」と反論。アルゼンチンにおける古典的な比喩である「タンゴ」(注:アルゼンチンタンゴがヨーロッパに渡り、全く別の踊りとして変化した、いわゆる”コンチネンタル・タンゴ”を「厄介な友人」の比喩として使う)に言及し、女性やカトリック教会における女性の役割に関して保守的な考え方を持っているという主張は馬鹿げたこと、とほのめかした。

 また教皇が、1990年に中絶を合法化する法律に署名する代わりに1日だけ辞任したベルギーのボードアン元国王に言及し、「彼は『ズボンをはいた政治家』を求めたのです」と元国王の勇気を称えたことも、女性を中心に反発を呼んだ。

教皇はこの機上会見で、「女性を特徴づけるもの、真に女性らしいものは、合意やイデオロギーによって規定されるものではありません。尊厳自体が紙に書かれた法律ではなく、私たちの心に書かれた本来の法律によって保証されるのと同じです」とも語った。そして、「女性らしさには、独自の強さがあります… 女性は、男性よりも重要。なぜなら教会は女性であり、女性はキリストの花嫁だからです」と言明。

「女性たちにとってこれ(私の発言)が保守的に見えるなら、私はカルロ・ガルデルだ」と有名なフランス系アルゼンチンタンゴ・ミュージシャンの名をあげ、そうした考えが馬鹿げていると考えていることを示唆した。さらに、「女性は男性と平等であり、平等なのです… 女性らしさを”男性化”することを望む誇張されたフェミニズムは機能しない。『機能しない男性主義』と『機能しないフェミニズム』があり、機能するのは、司祭の奉仕よりも偉大な女性教会です」と語った。

 

 

*元国王の列福推進―死刑法案への署名拒否、退任は勇気ある行為だった

 

ボードアン元国王の列福を推進するという自身の決断について尋ねられた教皇は、「国王は勇敢でした。死刑法に直面したにもかかわらず、署名せずに辞任したからです。これには勇気が必要だった。これを実行するには、政治家としての自信が必要でした。勇気が必要です」と答えた。この発言は一部から批判を受ける可能性が高い。

*イスラエル軍のヒズボラ攻撃―“均衡”を欠いている、他の戦争を含めて即時停戦を

 また、イスラエル軍が週末にレバノン全土でヒズボラを標的とした数十回の空爆を実施し、ヒズボラの指導者など多数を殺害する事態となっているが、こうした行為を「やりすぎ」と感じているか、との問いに対しては、現在の状況に心を痛めていることを示すように顔に手を当て、「ガザのカトリック教区に毎日電話をかけ、約600人が避難していること、『そこで起きている残酷さ』について説明を受けています」と説明。

「防衛は常に攻撃に比例していなければならない。今の状況は不均衡で、道徳を超えた支配的な傾向が見られます」とし、「軍隊を駆使してこのようなことをこれほどまでに卓越したやり方で行っている国、つまり私が話しているのはどの国でも同じですが、これは不道徳な行為です」と批判され、戦争自体が不道徳だが、戦争のルールは「守られなければならない」道徳を示すものであり、「そのルールが守られない場合、これら行為に『悪意』があることは明らかです」と言明された。

教皇は29日のブリュッセルでの主日のミサ後の正午の祈りでも、この問題に触れ、「寛容と平和共存の地域的メッセージ」として常に称賛されてきたレバノンが、今や「苦悩のメッセージ」となっていると嘆かれ、「この戦争は国民に壊滅的な影響を及ぼしている。中東では毎日、あまりにも多くの人々が亡くなり続けています」として、関係国、組織の指導者に即時停戦を求めている。

 

*聖職者の性的虐待―被害者のケアだけでなく加害者の処罰が必要、司教は隠ぺいしてはならない

 聖職者による性的虐待スキャンダルについて、また28日夜にベルギーの被害者たちと面談し、その際に要請リストを渡されたことについて尋ねられた教皇は、「虐待の被害者の声に耳を傾けることは義務です」と答えた。さらに、「家庭や教育機関と教会の虐待の割合がどうであろうと、私にとって問題ではない… 私たちには虐待を受けた人々の声に耳を傾け、彼らをケアする責任があります。被害者の中には、心理療法が必要な人もいる」とし、「被害者のケアだけでなく、加害者も処罰されなければならない」と強調。

「虐待は、『今日は罪でも、明日は罪ではないかもしれない』というものではない。それは心理的な傾きであり、精神的な病気であり、私たちは、(性的虐待をした)彼らを治療せねばなりません… 教区や学校に責任を負わせながら、虐待した者を普通の生活の中で自由にしておくことはできません」と、主日のミサの説教での言葉からさらに踏み込み、さらに「司祭が告発され有罪判決を受けた後、司教の中には教区や子供たちから離れた図書館で働く任務を与える者もいます。このような行為は改めねばならない。教会の恥は『隠蔽すること』です。私たちは隠蔽してはならない」と強い言葉で司教たちの”隠蔽体質”を批判した。

 

 

*中絶問題―女性には子供たちの命に対する権利がある

 教皇はまた、中絶の問題にも触れ、女性には「生きる権利、自分の命、そして子供たちの命に対する権利があります」と述べた。

これまでも教皇は、中絶を「殺人」と呼び、「人間を殺している」と述べ、中絶を行う医師を「ヒットマン」と呼んているが、会見では、「女性には命を守る権利があります。ただ、『避妊』は別の話です。混同しないでください。今、私は『中絶』についてのみ話しています。これについては議論できません。申し訳ありませんが、これが真実です」と語った。

注*ベルギーでは、聖職者による性的虐待スキャンダルをめぐり、カトリック教会が政府当局から強い批判を受けており、カトリック大学の指導者たちも、女性の司祭叙階やLGBTQ+の人々のさらなる教会行事などへの開放など、進歩的な改革を求めている。

 訪問中、教皇は教会の虐待危機を恥じ、改革を実施する必要性について率直に発言しており、最終日の主日のミサの説教でも、性的虐待とその隠蔽について司教、司祭、一般信徒の区別なく厳しい態度をとるべきことを強調され、参加した信者たちから強い支持を受けた。

 だがその一方で、その日に先立つルーヴァン・カトリック大学での教会における女性の役割についての教皇の言及について、同大学は声明を出し、「理解できず、非難する」としたうえで、教皇の姿勢を「決定論的で単純化している」と批判、「いかなる差別もなしに」さらなる包摂を推進するよう求めた。29日のミサでも、参加した女性の何人かが教皇が女性の司祭叙階を否定していることに対して、白い服を着て抗議している。

注*フランシスコ法王は9月26日から29日までルクセンブルクとベルギーを訪問された。主な目的は、ルーヴェン(Leuven)大学とルーバン( Louvain)大学の創立600周年を祝うこと。ルーヴェン大学とルーバン大学の起源は1425年で、現在のベルギーに1つの大学が法王マルティン5世によって設立されたが、1960年代に分裂し、オランダ語圏のルーン・カトリック大学(KU)とフランス語圏のルーバン・カトリック大学(UCL)という別々の大学となって現在に至っている。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年9月30日