Pope Francis speaks to journalists aboard the papal plane (VATICAN MEDIA Divisione Foto)
(2023.9.4 Crux Senior Correspondent Elise Ann Allen)
モンゴル訪問を終えた教皇フランシスコは4日、ローマへの帰途の機内で記者団と会見された。会見で教皇は、中国とロシア両国の最近の問題行動を教皇が容認しているのではないかとの見方を否定、「バチカンは中国政府と『非常に敬意を抱いた関係』をしており、ロシアは『偉大な素晴らしさと深さ』のある文化を持っている」と語った。また、10月に予定されている世界代表司教会議(シノドス)総会に関して、教皇が以前から「イデオロギー」と呼ぶものの影響を受けることの無いよう警告。今後の自身の海外訪問については、「健康と移動の制限」を考慮して計画が縮小される可能性があることを示唆した。気候変動問題に対しては過激な行動をとるグループと距離を置く考えを示した。
*中国やロシアに関する対応や発言への批判に対して…
歴代教皇の中で初の訪問となったモンゴルは、中国、ロシア両国と国境を接しており、この二つの国が世界の中で、バチカンとの関係で多くの問題を生じている今、今回の訪問での教皇の言動、今後に与える影響が注目されていた。
中国に関しては、バチカンが2018年に同国における司教任命について暫定合意し、2回延長して現在に至っているが、これに批判的な見方を取る関係者は「教皇は、この暫定合意と引き換えに同国内での当局による人権や信教の自由の侵害について沈黙を守っている」と指摘。また、これまで中国側は少なくとも二回、合意に違反して一方的に司教を任命するなど、バチカンを軽視するような行動が目立っている。ウクライナに対する理不尽な軍事侵攻を続ける ロシアに関しては、先日行われたザンクトペテルブルクで開かれたロシア版「カトリック青年の日」にビデオ参加した教皇が、「偉大な母ロシア」の遺産を称賛する発言をし、ウクライナ当局者などの強い反発を招き、ロシアの「帝国主義プロパガンダ」の片棒を担いでいる、と非難の声が上がっている。
記者会見で、これらの問題について質問された教皇は、自身の両国に対してとっている政策と発言を擁護。中国との関係については「非常に敬意を持ったもの… 個人的には、中国文化をとても尊敬している。中国はとてもオープンだ」と述べ、多くのカトリック司祭や知識人が中国の大学で学んでおり、「この意味でオープンさがある」と付け加えた。さらに 「教会が自分たちの文化や価値観を受け入れてくれず、教会が別の外国の力に依存している、と中国の人々に思われないよう、お互いをよりよく理解するために宗教面で前進し続けなければならないと思う」 とも語った。
また、現在約1300万人と推定されている中国のカトリック教徒の存在について、「中国政府の主な懸念材料となってきたこと」を示唆しつつ、中国との関係は「進行中」と述べた。
4日間のモンゴル訪問中も教皇は、中国への配慮を示し、3日の首都ウランバートルでのミサの終わりに、香港から参加した新旧二人の司教を身近に読んで「高貴な中国人」として挨拶し、中国当局の宗教目的の渡航禁止命令を無視して観光ビザで入国しミサに参加した約170人の中国人カトリック教徒に対し、「善良なキリスト教徒であるとともに善良な国民」であるよう促された。
ロシアに関しては、エカテリーナ2世やピョートル大帝など歴史的指導者を称賛する発言が物議を醸していることについて、教皇は、「若者たちには、自分たちの遺産を大切にするよう、いつも言っています。『偉大な母ロシア』は、批判されているような意味で申し上げたのではありません」としたうえで、ドストエフスキーの著作を含むロシアの芸術、音楽、文学の世界に及ぼしている影響について語り、「ロシアの文化には、素晴らしさと深みがあります… ロシアには『暗黒政治の時代』がありましたが、その文化は世界に多くの恩恵をもたらしている」と述べられた。
また教皇は、「政治を理由に、ロシア文化が否定されてはなりません」とされ、 「自分たちのイデオロギーを押し付けようとする帝国主義者もいます。 文化が”蒸留”されてイデオロギーになると、毒になります。 ”蒸留”された文化はイデオロギーになるので、私たちは、区別して対応しなければなりません」と語られた。
*10月のシノドス総会に懸念の声があるが…
10月に予定されているシノドス総会をめぐり欧米の高位聖職者の間などに批判的な声が出ているが、教皇は「カトリック教会内部にもイデオロギーの危険が潜んでいます」とされた。 「シンノダリティ(共働性)」を主題とする今回のシノドス総会に対しては、米国の保守派のリーダー格、レイモンド・バーク枢機卿やジョセフ・ストリックランド司教など少数の司教を含む一部の高位聖職者の間に、この総会が(同性婚への)祝福 、同性愛者の結婚、トランスジェンダーの権利の受け入れ、または他の宗教の正当性の受け入れなどで、教義変更を判断するようなことがあれば、教会の分裂を招く危険がある、と主張している。
このような主張に対して、教皇は、「イデオロギーに基づくもの」と否定。 「イデオロギーは、しばしば教会に取り込まれ、教会を根源から来る振る舞いから切り離してしまいます… イデオロギーが強まり、政治化するとき、通常、それは”独裁制”となり、対話や文化の前進が不可能になります」と批判された。
そして、シノドス総会には、「イデオロギーが入り込む余地はありません」とし、 「人がイデオロギー的な方法で考え始めると、会議は終わってしまう… イデオロギーの入る余地はない。 教会の教義について対話や議論を行う場は、今後、設けられます」と述べた。
また教皇は、シノドスは、歴代の発案で始まったのではなく、「何世紀にもわたって東方カトリック教会に存在していました」とされ、 「1965年にバチカンにシノドス事務局が設置されたのは、西方教会におけるシノドス(共に歩む集まり)としての側面の喪失を危惧した聖パウロ6世教皇が対応されたものでした」と語った。今回のシノドス総会は、「イデオロギーに陥ることなく、キリスト教徒としてシノドスをどのように生かしていくか、をテーマとしたもの。祈りがプロセスの中心であり、このような霊的側面がなければ、政治であり、議会主義になってしまいます」と指摘された。
教皇はこれに関連して、先日、カルメル会の総長から、シノドス総会を心配している、との電話を受けたことを取り上げられた。どうして、と聞くと「教義が変わるのではないかと心配しています」と言うことだったが、「そのような懸念はまったくない。そのような懸念を抱くもとには、”イデオロギー”がある… 人々は多くのことで教会を非難しますが、それでも、決して教会を真実ではない、つまり教会は罪人であると非難することはない。決して『罪人だ』とは言いません。『教義』を擁護しています。だが、それは蒸留水のような、何の味もしない”教義”であり、(ミサの中で繰り返される信仰宣言で表明される)真のカトリックの教義ではありません」と強調。 「(教会における)イデオロギーは、常に”蒸留”されており、決して問題を起こすことはありません」と付け加えられた。
*「これからの海外訪問には制約も
今後の海外訪問の予定について尋ねられた教皇は、予定通り9月末にフランスのマルセイユに行くほか、「ヨーロッパの小国」への再訪問が検討されている、と述べる一方、「今、海外に出かけるのは、(教皇に就任した)最初の頃のように簡単ではないし、歩くこと限界があります」とも語った。教皇は以前、アルゼンチンとインドを訪問する希望を述べられたことがあったが、その計画がまだ生きているかかどうかについては言及されなかった。
*「環境活動家の過激な行動は容認しない」
教皇は、先に2015年に出された環境回勅「ラウダート・シ」の第二部を執筆中であることを明らかにされ、教皇の名であるアッシジの聖フランシスコの祝日、10月4日に発出するとも語られている。これに関連して記者から、「記念碑を汚したり、道路を封鎖したりするなど物議を醸す抗議活動を行う環境活動家を支持しますか」と質問された。 「ラスト・ジェネレーション」というグループは最近、バチカン美術館の有名な彫像に手を接着したとして、3人がバチカン裁判所から数千ユーロの罰金を課せられている。
教皇は 「一般的に言って、私はこうした過激派を容認しません」とされ、 「(環境破壊は)若者たちは自分たちの将来に関連するので、心配しています。若者たちは将来のことを考えています。その意味で、彼らが”善戦”するのはうれしいことですが、その活動にイデオロギーや政治的圧力が存在する場合、役に立ちません」と述べた。また、「第二部」では、パリで開かれた2015年のCOP国連気候変動サミット以降の進展や、現在も存在するその他の問題を取り上げる、とされ、「(地球環境の問題には)まだ解決されていないこともあり、解決が急務です」と語られた。
(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)
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