*戦場が武器をテストする場になっている
教皇はまた、「NATO(北大西洋条約機構)がロシアの”扉”の前で吠えたてた」ことが(ロシアの)怒りが煽った可能性があり、それが、ロシアを「悪い形で反応させ、紛争を解き放ってしまった」との見方を示した。
さらに、「ウクライナ軍に(注:NATO加盟国が)武器を供給するのが正しいかどうかという問いには、どのように答えたらいいのか分かりません。無理です。でも、はっきり言えるのは、その戦場で武器がテストされているということです」と述べた。
そして、「ロシア軍は、自分たちの戦車が(ウクライナ軍を粉砕するのに)あまり役に立たないことを認識し、他の兵器の使用を考えています。戦争が続く理由ーそれは、自分たちが開発した武器をテストするためです。このような商売を止めさせようと戦っている人はほんのわずかしかいませんが、もっと努力すべきです」と指摘。数年前にイタリア最大の港、ジェノバの港湾当局が、イエメンに武器を運ぼうとする輸送船団を止めた実例を紹介された。
*「私はまず、モスクワを訪問する必要がある」
教皇が今、戦闘を止めるための訪問先として希望しておられるのは、キーウではなく、モスクワだ。
教皇は、戦闘継続阻止のためのこれまでの具体的な努力の経験から、「当面、キーウには行かない。まず、モスクワに行く必要があります。まず、プーチンに会わねばなりません。私は司祭でもある。私に出来ることをします。プーチンが扉を開けてくれさせすれば…」と、プーチン大統領がご自分を迎え入れることに強い期待を示された。
*ロシア正教の総主教は”プーチンの祭壇の侍者”にはなれない
さらに教皇は、モスクワでロシア正教会のキリル総主教と直接会い、和平実現に力を合わせることを強く希望された。教皇は3月15日にズームで総主教と40分間にわたって話し合ったものの、総主教はウクライナ侵攻の正当性を主張するのみで終わっているが、教皇はこう語った。
「彼がそのように主張した時、私は彼に言いましたー『そのような主張は全く理解できない。兄弟よ。私たちは国家に所属する聖職者ではありません。私たちには、政治の言葉は使えない。使えるのはイエスの言葉です。私たちは同じ神の聖なる民の牧者ではありませんか。だからこそ、私たちは平和の道を模索し、戦火を止めねばならないのです。あなたは”プーチンの祭壇の侍者”になることはできない』と」。
「私は6月14日にエルサレムで彼との会談を予定していました。直接顔を合わせての二度目会談、戦争とは何の関係もない会談になるはずでした。だが、今も、彼は私に同意しています-『’待ちましょう。それが不確かであっても』」。
*分散化した”第三次世界大戦”、すべてに国家間の利害が絡む
また、教皇は、ウクライナから世界中で起きている戦争ー分散化した“第三次世界大戦”ーにおける人々の生きる権利について語られた。
「シリア、イエメン、イラク、アフリカの各地などで、次々と戦争が起きています。そのすべてに国際的な利害が絡んでいる。自由主義国が自由主義国に戦争を起こすことは考えられない。ウクライナで戦争を起こしたのは、自由主義の国ではないように思われます。ウクライナの人々を『ドンバスで”反応”した』と非難する声がありますが、それは10年前のこと。昔のことです。当然ながら、ウクライナの人々は誇り高い人々です」
*平和実現への出来る限りの努力を続ける
教皇フランシスコは、復活祭にロシアの軍事侵攻開始から三度目のキーウ訪問をしたクラジェフスキー枢機卿との会話について語られた。
「私は、キーウを訪問中の枢機卿に電話した際、彼はこう言いました。『私たちが完全に理解できないとしても、彼らは正しいのです。彼らは沈黙しています。敏感になっています。第二次世界大戦でとても多くの代償を払い、敗北し、隷属させられた、と感じています。あまりにも多くの人が命を落としました。彼らは殉教の民です。そして、今、沿ドニエストル・モルドバ共和国(注:モルドバ東部を流れるドニエストル川とウクライナ国境との間の細長い土地にあり、国連加盟国が承認していない分離国家)で起こりそうなことについて慎重に見守っています』と」。
教皇は、5月9日(第二次世界大戦のロシア戦勝記念日)に、ウクライナにおけるすべての戦いが終わりを迎える可能性に期待し続けており、4月21日にバチカンでハンガリーのオルバーン首相との会見で「ロシア人には計画がある」ことを知らされた、としたうえで、次のように語られた。
「(ロシア軍が)ここ数日、攻勢を強めているのも、そのような文脈から理解することもできるでしょう。現在、ロシア軍はドンバスだけでなく、クリミア、オデーサなど、ウクライナから黒海の諸港を奪い取っています。私は現状を悲観的見てはいますが、戦争を止めるために出来る限りの努力をせねばならないのです」。
(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)