☩「『人新世』の自然や生態系への深刻な影響、AIの負の側面」を警告ーバチカン科学アカデミー総会へ

教皇庁立科学アカデミー本部 バチカン市国・ピオ4世のカシーナ教皇庁立科学アカデミー本部 バチカン市国・ピオ4世のカシーナ 

(2024.9.23   バチカン放送)

 教皇フランシスコが23日、「持続可能な人新世のための科学−イノベーションの機会、課題、リスク」をテーマに25日まで開かれている教皇庁立科学アカデミーの総会にメッセージを託された。

 教皇は軽いエンフルエンザ症状のため、23日朝に予定されていたアカデミー会員らとの出会いを取り消された。バチカン広報局によると、教皇は26日から29日にかけてルクセンブルグ、ベルギー訪問を控えていることもあり、大事をとって公務をお休みになった。

 科学アカデミーの総会参加者に向けて用意された挨拶で教皇は、人類が自然や生態系に与える強い影響をめぐり、ますます深まる恐れがあることに言及。同アカデミー会員だったパウル・クルッツェン教授(1933-2021)が、被造物へのこうした影響を総称して「『人新世(アントロポセン)』の時代」と呼んだことを知った、とされた。

 *注*人新世(じんしんせい、ひとしんせい)とは、ノーベル化学賞受賞者のドイツ人化学者パウル・クルッツェンとアメリカ人生態学者ユージン・ストーマーが提唱した「人類の時代」という意味の新たな時代区分。人類が地球の生態系や気候に大きな影響を及ぼすようになった時代を指し、現在の「完新世(かんしんせい、地質時代の新生代第四紀の後半の時代のこと)」の次の地質時代を意味する。原語の「Anthropocene(アントロポセン)」は、ギリシャ語で「人間」を意味する anthropo-(アントロポ)と「新しい」を意味する -cene(セネ)に由来した造語。

 そして、同アカデミーには「人間の活動が被造物に与える累積的影響をいち早く認識し、それに伴うリスクや問題を研究してきた人々がいる」ことに触れつつ、「『人新世』が自然と人間に対し、とりわけ気候危機と生物多様性の喪失においてもたらしつつある劇的な影響が次第に明らかになっています」と指摘。

 同アカデミーが、「特に貧しい人々や社会から疎外された人々への影響を考慮しながら、これらの問題に関心を注ぎ続けていること」に感謝されるとともに、「科学が、物理的世界を知り理解することの追求において、人間個人と全人類の尊厳を高め、それに奉仕するためにその知識を用いることの大切さを見失うことがないように」と願われた。

 さらに、「世界が深刻な社会的、政治的、環境的課題に直面する今、包括的な公的議論が、多様な科学分野だけでなく、社会を構成するあらゆる人々の参加から情報を得た、より広いコンテキストを必要としていることは明らか」とされ、このような観点から、様々な会議を通し、疎外された人や貧しい人に関心を向け、先住民族と彼らの知恵をその対話に取り入れている同アカデミーの方針を歓迎された。

 続けて教皇は、今総会は、新たな科学とイノベーション、科学と地球の健康のポジティブな関係をもテーマとして扱っているが、特に「AI(人工知能)の進歩が、医療・健康分野での技術革新や、自然環境の保護、気候変動を考慮した資源の持続可能な利用等に役立つこと」を期待された。

 一方で、「AIが一般の人、特に子どもや弱い立場にある人に深刻な悪影響を与える可能性」や、「(誤った)世論を形成し、消費者の選択に影響をおよぼし、選挙プロセスに干渉するために操作的に利用されるリスク」を認識・防止する必要を指摘。

 「全人類の生活の質を向上させることなく、逆に不平等や紛争を悪化させるような技術開発は、決して真の進歩とはいえません」(2024年度「世界平和の日」メッセージ)とされ、「人工知能が個人や国際社会に与える影響をめぐり、より多くの関心と研究の必要」を強調。このような複雑な分野におけるリスクを防ぎ、利点を促進するために、適切な基準の提案に取り組む同アカデミーの関係者たちを励まされた。

(編集「カトリック・あい」)

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2024年9月24日