菅原教授やさしい教会法③教会と教会法  

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第一部 教会の生活 

 教会と教会法

Q カトリック信者には、法律で決められた共通の義務があるのですか?

A あります。教会法の「すべてのキリスト信者の義務及び権利」と題される章にしめされています。     

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 教会法には、中心的な位置を占める「神の民」(第二集)の冒頭に「キリスト信者」という章があり、信者の定義(204~207条)に続いて、「すべての信者の義務と権利」(208~223条)と題される部分があります。ごく一般的な表現の条文ですが、すべてのカトリック信者に共通の権利と義務が示され、信徒(全8条)や聖職者(全17条)に固有の権利と義務がその後に続きます。

最初の条文は、信者が性別、年齢、身分(聖職者、修道者、既婚者など)に関係なく、尊厳と行動において平等であり、それぞれが自分の立場で神の国の建設に協働する(208条)としています。聖職位階の中にも段階があり、奉献生活を送る人にも固有の権利と義務がありますが、最初に、すべての信者が真に平等である、という宣言がなされているわけです。

 すべての信者に共通の義務の第一には、教会と交わりを保つこと(209条)が挙げられています。信者は神との関係だけでなく、公の場でも私生活においても、神の民の交わりを生きる務めがあります。教会全体と交わり、自分が属する教区や小教区で有している義務を果たす(529条2項)ことが含まれます。

 第二は、聖なる生活を送り、教会の発展に尽くすこと(210条)です。聖性への歩みはすべての信者の召し出しで、聖職者や修道者が占有するものでないことが示されています。

 第三の義務は、宣教に努めること(211条)です。これは権利でもあり、宣教者であることは教会自身が持つ特性ですが、信者はそれぞれの生き方と言葉を通して、あらゆる機会に救いのメッセージを伝えることが求められています。

 次に、教会の牧者(司教や主任司祭など)に対して従順を示す務め(212条1項)があります。信者は自分の必要や希望を牧者に表明(同2項)できますが、その一方で、信仰にかかわる教理、誤謬に関する宣言、司牧に関する事柄について、司牧を委ねられた聖職者に従うことが求められます。これは、単なる受動的な従順、外的行為において従う、ということではなく、理解力と意思力のあるキリスト者が信仰と自由に基づいて示す態度、のことです。司牧者が命じることのできる権限の範囲も法律で規定されています。

 また、教会の必要に応じる義務(222条1項)があります。具体的には、礼拝、聖職者や奉仕者の生計の維持、使徒的活動のための経済的な援助にかかわることですが、教会内の事柄だけでなく、社会正義を促進し、貧しい人を援助する務め(同2項)も考えられています。最後の条文には、教会の共通善や他者の権利に考慮する義務(223条1項)が述べられています。

*ひとくちメモ*

 神の恵みにかかわる教会法に「権利」や「義務」という表現が登場することに違和感を持たれるかもしれませんが、教会の長い法制史の中でも、体系的に信者の権利や義務を示したのは現行法が初めてです。神からいただく恵みの上に成り立っている使命と務めを指しており、いわゆる基本的人権とは区別されるものです。

菅原裕二・司祭・教皇庁立グレゴリアン大学・教会法学部長=ドンボスコ新書・「教会法で知るカトリック・ライフQ&A40」より)

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