菅原教授やさしい教会法①

はじめに

 教会法について、ローマなどの教皇庁立大学の教会法学部で専門的な勉強をする人以外は、法典全体や法哲学、国家法との関係などを学ぶ機会が多いとは言えません。聖職を志す人でも、通常、神学課程で法典の全条文に触れることはないでしょう。ここでは、条文の釈義集のような形ではなく、一般の方でも理解できるように、条文に触れながら、カトリック教会の生活について学んでいただくことを目指し、項目ごとの終わりに「一口メモ」を加えました。教会の法制度を理解し、よりよい信仰生活を送るための一助となれば幸いです。

            (教皇庁立グレゴリアン大学・教会法学部長・菅原裕二)

160808バチカン写真3

 

第一部 教会の生活 

 教会と教会法

Q カトリック教会にも法律があるのですか?

A はい、カトリック教会には「教会法」と総称されるたくさんの種類の法律があります。義務の規定も多いのですが、この法規は洗礼を受けた人の権利と教会の秩序を扱うものである、と理解することが大切です。

 ***************************************

 カトリック教会で洗礼を受けた方なら、普段の生活で条文に触れる機会がなくても、教会の法律があることを耳にしたことはあるでしょう。カトリック教会の法律には、たくさんの種類があります。プロテスタントの教会には、全体を規整する法規集がないので、教会法はカトリック教会に特徴的なもの、と言えます。

 「教会法」は、ラテン語の「ius canonicum」を日本語訳した言葉です。「法」と訳されていますが、ラテン語の「ius」には「権利」と「法律」の両方の意味があり、教会法は「洗礼を受けた人々の守られるべき権利と秩序を扱うもの」と理解すると良いと思います。権利があれば当然、義務についての論述もあります。「canon」のほうは「基準・目安」を指す言葉です。

 教会法が信徒にあまり知られていなくても、驚くことではありません。たとえば、電車に乗って隣町まで行く、家を建てる、あるいは小学校には六年間通うなど、私たちが普段行っている多くのことに法律がかかわっています。日常生活のひとつひとつの行いが円滑に運ばれるように全体を規整しているのは、契約や規則あるいは制度、つまり法律です。教会にも同じような性質があり、洗礼を受けることや日曜日にミサに行くことについて、いくつかの決まりごとがあるわけです。

 また、ある人が教員免許を取ろうとする時、あるいは教育問題を深く論じようとする時、教育に関する法律の中身を知ることになります。規則があることは知っていても、資格を取ったり、解決しなければならない問題に出会うことがなければ条文に触れることはないのが、多くの人の体験だと思います。

 教会法の場合も、聖職者になる際や、カトリックの活動に深くかかわりたいと思った時に、教会にはどのような決まりがるのかを知る必要が生じます。信仰を生きる人々にとって法律が問題解決の最良の手段でないことは明らかですが、人間の集まりには約束事が不可欠です。法律ですから、運用には正確な知識が必要です。

 また、教会の問題なので、司牧の経験も求められることがあります。そのため、実際の適用には、法律の専門家の助けが必要とされることが多くなります。

 一口メモ

 ローマには20ほどの教皇庁立の大学・機関がありますが、その多くに神学部や哲学部と並んで、法律を専門に扱う「教会法学部」があります。私が教鞭をとっているグレゴリアン大学にも37か国から170人ほどが法律家になる勉強をしに来ています。学生のほとんどが司祭で、平均年齢は30歳ぐらいですが、信徒の割合も少しずつ増えてきています。カトリック教会の中で弁護士、裁判官、外交官、教会法学の教員になる人々です。

(ドンボスコ新書・菅原裕二著「教会法で知るカトリック・ライフQ&A40」より)

このエントリーをはてなブックマークに追加