・Sr.阿部のバンコク通信(69)「あけぼの会」で、今は亡き戦場カメラマンとの出会い

  ある日、既に始まっていた「あけぼの会」に見覚えのない中年男性が加わり、私の隣に座りました。

 月1度、月刊「あけぼの」(女子パウロ発行)の記事を題材にして、1994年からバンコク市内で始まった集いです。共に読み味い、静かに各自の心に耳を澄ませるひと時の後、1人ずつ感じた事、気づきを分かち合い、皆でひたすら聴く2時間ほどの集い。先月は第264回目になりました。

 年齢層も顔ぶれも豊か、宗旨に拘りない集いで、移動の激しいバンコク、参加者は入れ替わりますが、深みのある豊かな時を共にする出逢いと分かち合いは逸品だと思います。

 それは2002 年3月の集いのこと。中村哲さんの記事を題材に、「あなたが神を感じる時は?心の深いところに聴いてください」との問い掛けで始まった集いでした。しばらくの沈黙の味わいの後、分かち合いが始まりました。

 初参加の男の方の番になったら、「いやー、驚きました」と開口一番。「昼の日中に、いい歳のご婦人達が、こんな真面目な集いをやっているとは」と言ったのです。その日の司会者が「まあ、失礼な」と呟きました。

 「実は、橋田信介という者で」と自己紹介。戦場を取材するカメラマンの体験、ご自分の分かち合いをされました。他の事は覚えていないのですが、橋田さんの声、言葉が、今も鮮明に残っています。

 「取材のため、非常に危険な場所へ命を晒してでも行くことがあります。自分の内から突き動かされる何かによって、躊躇せずに現場に赴く…そういう時、私は神を感じます」と。

 橋田さんの言葉が心に響き、「凄い人だ」と思いました。そしてご自分の著書を残して去られました。

 その2年後の5月27日、甥さんと銃弾に倒れたニュースに胸が痛み、翌月の『あけぼの会』は、橋田記者のことを偲んで、祈り、語らう集いに。テーマは「コルベ神父の人生、戦争は人を狂わせるが、神の声に従う人の示した道は?」でした。

 情報過多で騒がしいコロナ禍の中、時にじっと自分の内に耳を澄ませる機会を、皆さん、共に工夫してみませんか。香ばしい珈琲を満喫する素敵なひととき、人生をリセットし、スッキリさせ、心身の免疫力を高めてくれること請け合いです。

 皆さんファイト!

(阿部羊子=あべ・ようこ=バンコク在住、聖パウロ女子修道会会員)

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2022年7月31日