・Sr.阿部のバンコク通信 ㊻楽々、とは限らないタイの日本人社会

 タイ国には永住者を含め、4万強の日本人社会があります。

 1970年頃からタイ国は観光立国を打出し、高度経済成長を目指し、日本企業も積極的に進出、飛躍的な活躍を見せます。その後の1997年経済危機、タイバーツの暴落、外資系企業が去って行く中で、日本企業は「赤字でもタイ社会で人々と共に危機を乗り切ろう」と頑張りました。

 一般にタイ人は日本製品を好み、日本人に好意を持っています。新しい物に興味、関心を示し、パッと集中します。スマートフォンの普及の勢いには、本当に驚きました。

 タイの人々の中に生活していると、自分との温度差、感性の差に気づきます。なるほどなぁ、と頷き、合点のいくことが結構あります。私よりも自然態で、理屈抜きで、単純簡単、頭に比重がかかる私を軽くしてくれます。

 日本企業の幹部駐在員は、運転手、お手伝いさん付きで結構なマンションに住んでいます。必需品はほとんど何でも揃う便利な環境で数年の駐在期間を送りますが、そうした日本人社会にも、影りが顕著になっています。「親切へのしっぺ返し」に傷つき、孤立し、人間関係のよじれ、辛辣な意地悪に苦しんでいる人々のことを耳にします。

 初めてのタイ駐在は楽々、と言われているそうですが、人間関係の柵から解放される天国ではないのですね。

 人々の苦しみや悲しみ、喜びや感激に心を傾け、この胸いっぱいの思いを「祈りのるつぼ」で熱し、昇華する。無力な私の祈りを受けとめてくださる慈悲深い、全能の神様に委ねるのですーそれが、私が優先する日々の勤めです。

 経済成長の象徴のような近代ビルの谷間、まだ暗い早朝に、裸足の托鉢僧が祈りながら街を歩く姿が今日も見られるタイの日常。バンコクで、ただ1人の日本人修道者の日常もまた、コロナ禍の中で祈りと献身が騒音に消されることなく天に昇れよかし…。

(阿部羊子=あべ・ようこ=バンコク在住、聖パウロ女子修道会会員)

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2020年8月1日