・三輪先生の現代短評③トランプのメキシコ越境阻止計画への疑問

 アメリカの週刊誌TIME(11月19日号)によれば、メキシコとの国境を越えようとする中南米発の米国への移民希望者達を阻止するために、トランプ大統領は1万5千名ものアメリカの正規軍を差し向けようとしている、とのことだ。

 それをラテンアメリカやカリブ海域で軍功があった将軍などが 「とんでもない兵力の投入だ」と批判している。威示行為としてもおかしい、と言う。大統領が”invasion侵略”と呼んでいる移民志願者の大半がいわゆる難民で、しかも女子供がほとんどだというのに、である。

 国境を踏破しようとする者に対して空に向けて発砲したりして威嚇阻止しようとするのであろうか。

 歴史に照らしてみれば、メキシコと国境を接するテキサス、ニューメキシコ、アリゾナ、カリフォルニア、更にはルイジアナなどの諸州は、もとはと言えばメキシコやフランスに帰属していた地域なのである。

 1万5千の兵力とはどんなものか。比較のために世界各地に展開している米軍の規模を見ると、日本(第7艦隊東アジア太平洋地域の洋上要員を含む)5万3660、ドイツ3万5369、韓国2万6045、アフガニスタン1万4千、イラク5200。つまり、イラクに展開している米兵力よりもほとんど1万名も多い兵力、そしてアフガニスタンに展開しているよりも1千名多い兵力を、メキシコ国境封鎖のために派遣しようというのである。

 もし本当にそうすることになれば、今年中だけ2憶ドルもの大金を無駄使いすることになる、というのである。それは、朝鮮半島、アフガニスタン、アラビア海、イラン、イラク、シリアでのコミットメントの重大さを勘案すれば、如何に大きな無駄づかいかが、理解されようというものである。

(2018・11・30記)

(三輪公忠=みわ・きみただ=上智大学名誉教授、元上智大学国際関係研究所長)

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2018年11月30日