・三輪先生の時々の思い⑳老獪プーチンが憲法”改正”で加えた「禁領土割譲」条項

 日本にとっての「北方領土」、つまり1945年夏の敗戦のどさくさに、ロシア-当時のソヴィエト-が軍事占領して以来、営々と実効支配の実績を積み上げてきたプーチンのロシアが、これら国後、択捉、それに歯舞群島と色丹島を日本に返還することなどありえないことだ。

 帝政ロシア以来の領土拡張の歴史をたどれば明白である。私はアメリカに留学中の1955年から56年に、ジョージタウン大学の地政学教室で、その事をしっかりと学んだ。ロシアの拡張主義は「アメーバ方式」という。これはシャーボウィッツ・ベッツァー教授の造語だったらしい。

 北海道大学のスラブ研究所の研究会で、「アメーバ方式」の概念を紹介したことがある。後になって木村洋教授が「『アメーバ方式』、あれいいですね、使わしてもらっています」と言われたことがあった。ロシア研究者の間では知れ渡っている用語だと思っていたが、そうではなかった。それはアメリカの一部の地政学教室で使われていただけだったらしいことを、後で知らされた。

 本題に戻ろう。老獪なるプーチンの対日領土保全政策である。日本の敗戦以来今日まで、しっかりと実効支配してきた、われわれ日本にとっての「北方領土」である国後、択捉と歯舞群島と色丹島を、自国憲法の改正によって、「領土割譲は禁止、国境画定は妨げず」と定めることにした。

 何かといえば憲法の平和条項を根拠にし、軍事力の行使が求められる国際協力に参加してこなかった日本国政府に真似たのであろうか。日本を含む国際社会における対ロシア領土交渉を拒否するのに、この憲法条項が役立つのである。差し当たり、日本にとって、「北方領土」の返還要求交渉は、このロシア憲法によって封じられてしまったはずである。(2020. 7. 25記)

(三輪公忠=みわ・きみただ=上智大学名誉教授、元上智大学国際研究所長、プリンストン大博士)

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2020年7月31日