・(お勧めしたい一冊)「炎の人・加藤マヌエル神父」-ペルー日系人初の司祭の愛と献身の人生

 ペルーの日系人社会で初の司祭となり、一生を奉仕に捧げ、2017年に亡くなった「加藤マヌエル神父」の戦後の混乱の中で人々を精神的に導き、「ペルー日系人社会の至宝」とも讃えられた波乱に満ちた人生を描いた「炎の人-加藤マヌエル神父」(大塚文平著、クレアリー寛子編修・日相出版)が出版された。(Amazon.co.jp kinokuniya.co.jp/などで購入可能)

 加藤マヌエル神父はペルー日系二世のフランシスコ会の神父。生涯を貧しい人々の救済に捧げ、2017年、90才で帰天された。ご自身も困窮を極めた日系移民の家庭で育ち、幾多の艱難を克服しながら、貧しい人たちのために働こうと神父の道を選ばれたが、神父の道を歩む上でも、第二次世界大戦でペルーと日本が敵国同士になったことによる日系人故の特別の壁のほか、様々な苦労を経験された。貧しい人々に愛を与える母親の教えを実践し清貧を貫いた生涯は、ペルー日系社会の至宝とも言われているという。

 神父は、カナダ、日本、ローマなどへの派遣を経、50才でペルーに戻られてから、恵まれない人々の救済事業に本格的に取り組まれた。救済事業は、親に見放された子供のための施設の開設に始まり、貧しい人々のための病院、家族に見捨てられた日系一世を救う老人ホームへと広がっていき、そのための資金集めにも加藤神父は奔走された。

 救済活動を進める過程では 時として周囲の冷たい仕打ちや無理解など、常人であれば挫折してしまいそうな苦境にも遭ったが、全ては神の思し召しと受け止め、「貧しい人たちのために働こう」と司祭を選んだ時の初志を生涯貫き通された。

 「炎の人―加藤マヌエル神父」は、加藤神父へのインタビューのほか、ご自身の書き物や関係者へのインタビューをもとに神父の生涯をまとめた一代記だ。過剰な感情の表出を抑えた行間から、神父の人を思いやる息遣いが感じられ、キリスト教徒でない私にも、こみ上げてくるものを抑えられないこともしばしばだった。現在の混迷の時代に、一人でも多くの方に、この本を通じ、加藤神父の生きざまと心に接して頂ければと思う。

 (公益財団法人中曽根康弘世界平和研究所顧問 佐藤 謙)

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2020年12月24日