・ガブリエルの信仰見聞思 ⑪「人生の本当の悲劇」は何?

 学生であろうと社会人であろうと、私たちは日常生活の様々な場面で、本や文書の中で、蛍光ペンを使って注意したい、覚えておきたい大事なことや情報を、ハイライトし、強調していると思います。それは私たち自身のためだけでなく、目的によっては他人のためでもあります。

 ここ数日、仕事で分量の多い新旧の書類を精査していたとき、久しぶりに連日、立て続けに蛍光ペンを使っていたからかもしれませんが、ちょっと考えさせられることがありました。

 蛍光ペンで文書をハイライトする活用法は、各々の目的や好みによって十人十色なので、それを論じるつもりはありませんが、活用法や目的が何であれ、役に立つようなハイライトには概ね3つの基本的なステップが必要だと思います。まず、内容をよく読むこと。次に、ここで大事なことは何かをよく考え、問うこと。そして最後に、これが本当に大事なことであり、強調すべきことである、と判断し決めることです。

 これは簡単そうで、当たり前のように思えますが、この3つのステップをどのように進めていけばいいのでしょうか。「その質によって、最終的には、何が本当に重要なのか自分でも分からないほど多くのハイライトが表示する」、あるいは「自分の目的に合った適切なハイライトが表示され、自分にとって本当に重要なものは、それを見た誰にでも、すぐに分かるようにする」、のどちらかでしょう。

 考えてみると、私たちが重要だと思っていることは、それに対しての私たちの価値観も表していると思います。それは、各々個人的な知見や経験など、様々な要素の影響を受けながらその判断の基準が形成されているのです。そのため、皆が全く同じ文書を読んでいても、必ずしも、皆が同じことをハイライトして強調するわけではありません。

 しかし、よく考えずに、あまりにも多くのことを重要だ、と決めつけ、無差別のようにハイライトしてしまうと、自分にとって本当に重要なものや価値観を見失うことになってしまうのではないかと思います。

 同じことが、私たちキリスト者にも言えると思います。聖パウロがこう教えてくれます。

 「誰でもキリストにあるなら、その人は新しく造られた者です。古いものは過ぎ去り、まさに新しいものが生じたのです」(コリントの信徒への手紙2・5章17節)、「心の霊において新たにされ、真理に基づく義と清さの内に、神にかたどって造られた新しい人を着なさい」(エフェソの信徒への手紙4章23節~24節)、「新しい人は、造り主のかたちに従ってますます新たにされ、真の知識に達するのです」(コロサイの信徒への手紙3章10節)。

 キリスト者として、主イエス・キリストに属することは、私たちの世界観や価値観、また、現実や人生に対するすべての見方が形作られます。そのため、自分の「人生の本」において問わなければならないことは、「キリスト者としての私にとって、良い人生とはどのようなものなのか」「その中には何がハイライトされているのか」ということだと思います。
聖パウロはそれに対してこのように答えていると思います。

 「生きるにも死ぬにも、私の身によってキリストが崇められることです。私にとって、生きることはキリストであり、死ぬことは益なのです」(フィリピの信徒への手紙1章 20c節~21節)。

 つまり、聖パウロはご自身の「人生の本」において本当に重要なことを、明確にハイライトしています。聖パウロは、「主キリストが最も重要であり、ご自分の人生がどのようになっても、主キリストが崇められるような生き方でいれば、それが良い人生なのだ」と強調しています。また、彼の生き方を見た誰にもすぐに分かるように、矛盾や混乱なくハイライトされているのではないでしょうか。

 少し前に、ある海外の神父様が説教で語った話をインターネットで聞きました。

 神父様の知人である2人の年配の女性信徒は、引退後約20年間も奉仕していた教会の海外福祉活動でアフリカにいました。ある日、その2人が村に医療品を届ける途中で、交通事故に遭い、亡くなりました。2人とも80代の方で、元看護婦と元医師でした。その話を語った後、「とても悲しいことだが、はたしてこれは彼女たちの人生の悲劇でしょうか」と神父様が会衆に問いました。

 神父様は続けて、ある雑誌の記事を読みました。5年前に早期引退を果たし以来、のんびりした日々を楽しく送り、世界中をクルージングしたり、ゴルフ場を巡ったり、美しいビーチで珍しい貝殻を集めたりしている50代のカップルに関する話でした。

 神父様は再び会衆に問いました。「人生の本当の悲劇はどれでしょうか」。

(ガブリエル・ギデオン=シンガポールで生まれて育ち、現在日本に住むカトリック信徒)

(聖書の引用は「聖書協会・共同訳」を使用)

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2020年10月3日