朝8時の時報で、道行く人々がピタッと動きを止めました、パント マイムの一場面の如く。タイに来て初めて出会した時は何事が起こ ったのかと思いました。
タイ全土の街中にタイ王国の国歌が流れ、国民は起立不動の姿勢で 敬意を表するのです。朝8時と夕6時、毎日40秒のこの儀礼の瞬 間を国民が共有する、この国民を結ぶ習慣は、タイ国に長年住んで人 々と共に生きている私も、考えさせられています。この国が、どのような事態になっても、誇りと責任を持って守る… そんな覚悟を感じてなるほどと頷けるのです。
タイの現在のチャクリー(ラマ)王朝は1782年、ラマ1世により現在の首 都バンコクに遷都し建国されました。ラマ9世(プーミポン•アドンヤデート国王・在位70年)が崩御された後、 ワチラロンコン王子が跡を継ぎ、ラマ10世として今に至っています。
ラマ7世下で 、立憲革命により1932年絶対王政から立憲君主制に移行し、19 39年ラマ8世により、国名が「サヤーム(สยาม=Siam)」 から「タイ王国(The Kingdom of Thailand)」 に変えられ、それまで の国王を讃える「国王賛歌」に代わって、現在の「タイ国歌」が採 用され、朝夕、タイ全土に流されることになりました。今も、その時間になると、拡声器などで国歌が流され、国民は「気をつけ」 の姿勢で敬意を表します。国旗台がある所では、午前8時に国歌と共に 国旗が掲揚され、午後6時に国歌が流れる中で降ろされます。
厳かな国王讃歌は、国王に関わる行事、映画、演劇が始まる前にも、流され、観客は外国人も含めて一斉に起立します。私自身も起立し、口ずさむことがあります。自国と国民を思い 、平和を願い、勇気を持って毅然と生きる…国歌の文句を考え「 気をつけ」をしながら、私もタイの国王陛下と国民のために祈りを 捧げます。
祖国日本の為にも、普段の生活の場にこのような機会を作りたいな と思います。日本を偲んで祈り、合掌する手にグッと力が込もって しまうこの頃です。
愛読者の皆さん、残暑厳しき折、お身体を大事にお励みください。
(阿部羊子=あべ・ようこ=バンコク在住、聖パウロ女子修道会会員)