先日久しぶりにムッとする気持ちのまま口をきき、自分でもハッとするきつい言葉を言ってしまい反省。その時、走馬灯の様に思い出されたのが長いタイでの生活、温かい懐かしい記憶にしばし浸りました。どういう関連?読者の皆さんには想像つかないでしょう。
タイ国に宣教に赴いた折、少しでも人々の生活に溶け込む為に、歴史文化、生活習慣を学ぶために本を読みました。マナーの本は今でも印象に残っています。蜘蛛の巣が張るほど忍耐強く待つ人の挿絵、腹を立て短気の不徳の至らなさがタイの人々にとっては最低の人間、忍従して穏やかに怒らないで生きるように、と。仏教に培われた文化ですね。喧しい騒音、うるさく煩わしい人々と気長に付き合う、約束の時間に遅れ待たせられても穏やか、決して人を急がせない。
タイで平素使うใจเย็น ๆ (ใจ=チャイ=心 เย็น=イェン=冷える冷たい ๆ=繰り返しの記号なのでイェンイェンと発音し強調する) と言う言葉があります。チャイイェンイェン、冷静に、慌てないで、ゆっくりね、との声掛けです。タイでの生活でゆったりと受けとめる友人達の豊かな姿に触れ感化され、考え方を意識して変えたほどです。
それまでの6年間は三ノ宮の聖パウロ書院に勤務、尼崎の修道院から通勤。神戸の街を歩く人並を足速にすり抜け、時間を惜しんだ秒刻みの 生活でした。手早い仕事、時間を大切にする実質は変わらないのですが、人との接点に労わり優しさがあることで、潤いができるのですね。さして時間を取るわけでなし、急かさなくても事はうまい具合に行き、人を生きた心地にしてくれます。
タイでの多忙な30年の宣教生活は、人間味ある素敵な余裕の出会いに織りなされていました。労わりと優しさの心の潤滑力をますます発揮して、日本での宣教に励んでいます。ヨハネ福音書によると、鍵がかかっていたのに、イエス様は入って来られ、励ましてくださいました。
「カトリック・あい」愛読者の皆さん、復活なさった主の平和と喜びを、霊に導かれて共に宣べ伝えましょう。
(阿部羊子=あべ・ようこ=聖パウロ女子修道会会員)