・Sr.阿部の「乃木坂の修道院から」⑤人間の全ての営みは、神の創造の業の完成に参与する

  人間に備えられた順応能力の見事さ、現在の時と場に心身共に浸り適合する私自身の姿に、感動、感謝する日々を過ごしています。

 首都バンコクはチャオプラヤー河の肥沃なデルタ地帯に200数十年前築かれました。海抜は1.5メートルと低く、雨と満潮が重なると街は水浸し。それでも平坦で運河が発達し、車時代が到来するまでは、ちょっとしたベニスを偲ばせるのどかな街でした。現在は高層ビル建ち並び、渋滞で悩む大都会です。

 1994 年、タイに行って間もない頃、友人の好意で姉妹達と都心の二階建てに住んで、アサンプションカテドラル、ロザリオ教会に通いながらタイ語の勉強をしていました。ある雨の日ミサに行くと、チャオプラヤー河は地面より高く船が浮き、教会の庭は水浸し、ザブザブ濡れて聖堂に…

 街の人々は椅子や物を机の上に乗せ、水が引くまで呑気に待つ日常茶飯。そんな生活を繰返しながら人々は住み続けているのです。

 水浸しであれ、何であれ、人々の真似をしながら、時刻表のないバス停に文句言わずに延々と待ち、何事にも腹を立てず忍耐を美徳とするタイ文化に浸り、人々と喜苦共々30年。それまで三宮の聖パウロ書院に勤務し、分刻みで効率良くバリバリ生きていた人間が、一気に移り住んだのでした。

 東京の交通網は恐ろしい程。日本列島を縦横無尽に敷かれる交通網見事ですね。今はこの大都会に戻り、道行く人に教えてもらいながら何処へでも出かけています。

 元来、じっと同じ所で地味な仕事を黙々とする生き方を好む私の素性はちっとも変わっていませんが、奉献生活を志し、誓願を立ててからは、請われ望まれる所に赴き即任務に当たる、聖パウロに倣い会の敏速温順の精神で福音宣教に投じた人生、自分でも驚きです。環境に順応して突然変異を起こす遺伝子が備わっているのでしょうか、人間に与えられている賜物、順応力…創造主に脱帽です。

 神の創造の業は、私たちの日々の営みによって続けられ完成に向かう。敬愛するティヤール•ド• シャルダンのこの信念は、苦境にあってもいつも私を励ましてくれました。炊事、掃除、学問、編集、耕作、ハイテク操作…人間の全ての営みは、神の創造の業の完成に参与する。字を書いている今、この手で天地創造が続けられている…感動しますよね。  パリの教壇から左遷され、中国大陸で発掘作業をしながら、考古学者で北京原人の発掘者シャルダンは、深い信仰を持って、ツルハシを振るいながら、創造主を賛美しました。

 AI-デジタル時代の裡に、授かった創造順応能力を活かし輝かせて、人間の真心と愛を通わせ脈打たせる歴史を築きたいですね。身近な人々、読者の皆さんと、今日出会い共に生きる身近な人々との関わりで、まず❣️

(阿部羊子=あべ・ようこ=聖パウロ女子修道会会員)

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2024年10月10日