「この世」で一番美味しいワインは
現実世界にはグラス一杯で1万円以上するワインがあるが、そのような高価なワインは飲みたくない。食事を美味しくしてくれる脇役がワインだと考えると、料理よりも高いワインには眉をひそめる。しかし、「このワインなら是非飲んでみたい」というのが、今回紹介する奇跡である。
新約聖書に出てくる、イエス・キリストが水をワインに変えた奇跡は、キリスト自身が望んで起こしたものではない。母である聖母マリアに促され、図らずも、ご自身の生涯最初の奇跡となった。ヨハネ福音書2章1-11節の「カナでの婚礼」として知られる奇跡は、次のように記述されている。
場面は結婚式である。イエス・キリストとその母マリア、そして弟子たちが結婚式に招かれていた。宴たけなわとなった時、肝心のワインが飲み尽くされていることにマリアは気づいた。そこで、息子のイエスのところに行って、「ぶどう酒がありません」と告げた。この時のイエスの答え方が妙である—「女よ、私とどんな関わりがあるのです。私の時はまだ来ていません」。
聖母は構わず、周りにいた召使いたちに言われた—「この人が言いつける通りにしてください」。マリアは、奇跡を起こして欲しいと望んでおられたのであろうか。思うに、既に世に打って出る前から、イエスは家庭の中で、幾たびか奇跡を起こしておられたのではないかと考える。
イエスは観念し、召使いたちに言った。「水がめに水をいっぱいに入れなさい… 宴会の世話役のところへ持って行きなさい」。召使いたちは言われた通りに、かめの縁まで水を満たし、世話役のところに持って行った。恐らく、持って行く途中で、水がワインに変わったのに気がついたのであろうか。世話役のところに持って行ったら、彼はそれを一口飲んで、恐ろしく美味しいワインであることに気がつき、花婿を呼んでこう言った—「誰でも初めに良いぶどう酒を出し、酔いが回った頃に劣ったものを出すものですが、あなたは良いぶどう酒を今まで取っておかれました」。
召使いたちは口をつぐんでいたが、イエスの弟子たちは、一部始終を見ていたであろう。「我らが親分、イエスは、ただ者では無い」と初めて知ったのではなかろうか。イエスが水からワインに変えたそのワインを、是非飲んでみたいものである。「この世界」ではない、「この世」で一番美味しいワインであろうから。
(森川海守:横浜教区信徒)HP:https//www.morikawa12.com
*聖書の引用は、「聖書協会・共同訳」に統一しています(「カトリック・あい」)。