この4月21日、フラシスコ教皇が亡くなれた。第1代目の教皇が聖ペトロだから、優に2000年続く第266代目の教皇であった。
以下、新約聖書のルカ福音書第4章から引用する。
初代教皇となった聖ペトロ、この男の生涯は奇跡に彩られている。イエスとの最初の出会いは、漁をしていた時である。夜通し漁をしたのに一匹も釣れずくたくたになって浜辺に戻ってきて、網の手入れをしていた時であった。そこへ、病気を治し、悪霊を追い払うことで評判を呼んでいたイエスを慕って大勢の人々が、浜辺にやってきていた。イエスは、当時シモンと呼ばれていたこの男に船を借り、船の上から群衆に説教をした。説教が終わった後、イエスは、シモンに言った。「沖に漕ぎ出して網を降ろし、漁をしなさい」と。たった今しがた、夜通し漁をして帰ってきたところであった。恐らく疲れていただろ
うと思う。しかし、シモンは言った。「先生、私たちは、夜通し苦労しましたが、何も獲れませんでした。しかし、お言葉ですから、網を降ろしてみましょう」と。これが運の付き初めであった。漁をしてみたら、なんと一網で網が破れそうになる程の沢山の魚が取れ、船が沈みそうになったのである。驚いたのはシモンである。なにしろ、一晩くたくたになる程、何度も網を下ろしたのに一匹も捕れなかったのである。「この方はただ者ではない」と思ったのであろう。仲間の船に応援を頼んで、浜辺に戻ってきたシモン・ペトロは、イエスの足もとにひれ伏して言った。「主よ、私から離れてください。私は罪深い者なのです」と。イエスはシモンに言われた。「恐れることはない。今から後、あなたは人間をとる漁師になる。」と。以来、ペトロは、漁師仲間ヤコブとヨハネとともにイエスの12弟子の一人となったのである。
マタイによる福音書第16章では、元漁師だったペトロが初代教皇となったいきさつが記述されている。そこでは、イエスは、シモンにこのように言っている。「あなたはペトロ。私はこの岩の上に私の教会を建てる。陰府の力もこれに対抗できない。私はあなたに天の国の鍵を授ける。あなたが地上でつなぐことは、天上でもつながれる。あなたが地上で解くことは、天上でも解かれる」と。このイエスの言葉により、十二人の弟子の長として初代教皇となったのである。
ペトロについては、多くの話しが聖書の中に出てくるが、この話はペトロの勇敢さを現していると筆者は思う。
マタイによる福音書第14章によると、事の次第はこうである。
イエスは、群衆を帰らせた後、12人の弟子を船に乗せて、先に対岸に行かせ、自分は山に登り祈りを捧げた。船の方はと言えば、逆風のために波に翻弄されていた。イエスは、翌朝、船に乗ろうと、なんと湖の上を歩いていった。驚いたのは、船の上に乗っている十二人の弟子たちだ。「幽霊だ」と言っておびえ、恐怖のあまり叫び声をあげた。「安心しなさい。私だ。恐れることはない」。 すると、ペトロが答えた。「主よ、あなたでしたら、私に命令して、水の上を歩いてそちらに行かせてください」。 イエスが「来なさい」と言われたので、ペトロは舟から降りて水の上を歩き、イエスの方へ進んだ。しかし、強い風に気がついて怖くなり、沈みかけたので、「主よ、助けてください」と叫んだ。イエスはすぐに手を伸ばして捕まえ、「信仰の薄い者よ、なぜ疑ったのか」と言われた。
聖書の記述が本当であれば、水の上を歩いた人は、人類史上、後にも先にも、ペトロただ一人である。信仰はともかく、勇気とイエスへの熱き信頼が無ければ、水の上を歩くなどというのは、できる話しではないのではないか。
ペトロの最後については、ローマ人による激しいキリスト教徒への迫害の中で、詳しいことは分かっていないが、弟子の自分がイエスの十字架に習うのは不遜として、頭を下にした逆十字架で殉教した、と言われている。
横浜教区信徒 森川海守 (ホームページ https://mori27.com)