・「新回勅は『世界が危機に瀕している』と警告している」と教皇側近の枢機卿(Crux)

(2020.10.6 ROME BUREAU CHIEF Inés San Martín

     教皇フランシスコの側近の一人、バチカン人間開発省次官のマイケル・チェルニー枢機卿は5日、米国の ジョージタウン大学が開いたオンライン・シンポジウムで発言し、教皇フランシスコが現在の世界は、キューバのミサイル危機、第二次世界大戦、あるいは3万人近い死傷者を出したイスラム過激派による米国での同時多発テロに匹敵する危機的状況にあると見、それに対応するメッセージが求められている、とお考えになっている、と述べ、4日に発表された教皇の新回勅『Fratelli Tutti』を十分に理解するためには、「私たちが危機の瀬戸際にある」ことを認識する必要がある、と強調した。

 枢機卿は「第二次世界大戦中にピオ十二世教皇がクリスマスのメッセージを聞いた時、どう感じましたか?ヨハネ23世教皇が(1963年に)回勅「Pacem in Terris(地上の平和)」を出された時は?2001年の米国での同時多発テロ、2007年に始まった世界金融危機は?新回勅を理解するためには、その時の思いを全身で、心の底から思い起こさねばなりません」と語った。

 そして、2015年に教皇が出された被造物へのいたわりを強調した環境回勅「 Laudato Si’」が私たちに「すべてのものが、つながっている」ことを教えているとすれば、今回の回勅「Fratelli Tutti」は「すべての人が、つながっている」ことを教えている、と指摘。「私たちが”共通の家”と兄弟姉妹に責任を負うなら、私たちに良い機会が与えられるでしょう。そして希望を再び燃え立たせ、根気強く、もっと多くのことをするように促されるでしょう」と述べた。

 また新回勅で「教皇は、ほとんどの人が、自分たちのしていることを認識しないまま同意するような見解を強く批判されたうえで、いくつかの大きな問題を、私たち一人一人に提起しておられます… 私たちは、神を創造主として認識せず、自分が誰の助けも必要としない自立した存在であり、繁栄し、すべてのものを所有し消費するに値する存在だと思い込んでいますが、実際は、”孤児”であり、つながりを断ち切られ、完全に”自由”で、一人ぼっちなのです」。

 そして、教皇がご自身で作られた言葉は、新回勅では使われていないが、その言葉は、回勅が何を言おうとし、回勅がそれを読む人たちをどこに導こうとしているのか、理解するのに役に立つ、とし、その言葉を紹介したー「真実、それは自我自尊の、冨を謳歌する”孤児”であることとは、正反対です」。

 シンポジウムにはチェルニー枢機卿とともに、女子修道会指導者会議前議長のシスター、ナンシー・シュレックや、シカゴの移民保護活動家で Bread for the Worldの理事のエディス・アビラ・オレア氏、 Religion News Service バチカン特派員のクレア・ジアングレーブ氏も参加した。

 その中で、シスター・シュレックは「現在、多くの人々が希望を失い、次々と起こる悲劇に恐怖を抱いていますが、私たちを支配する文化風潮は、もっともっと懸命に働き、同じことをするように言っている… 新回勅で私がとても勇気づけられるのは、教皇フランシスコが私たちの生活の中で何が起きているかを調べる方法を提供してくださり、今この瞬間にも、新しいことが起きる可能性があることです」と回勅を評価。新回勅は、「お互いを、人間関係を築く隣人、友人」と見るよう招いており、世界が政治的に分裂していると感じる今、その傷を癒すのに役立つ、と指摘した。

 また、フランシスコ会の一員として、十字軍のイスラムとの戦いの最中にスルタン・アル・マリク・アル・カミルを訪れた聖フランシスコについて取り上げ、「当時の支配的な考えは人を殺すことでしたが、聖人が同行した人々に命じたのは、『話すのではなく、聞くこと』でした。そして、二人は出会いの結果、互いの関係を築きました。そして聖人はアッシジに戻り、彼とフランシスコ会の兄弟たちの生活に、『祈りの呼びかけ』など、イスラム教徒のいくつかの習慣を取り入れました」と語った。

 そして、ここから得られる教訓は、「私たちは、敵と考える人の所に行くかも知れない、私たちの文化風潮が敵を呼び寄せるかもしれない、ということです、そして、私たちは関係を築くことができるかもしれません」と述べ、「私たちはそのことを、新回勅のあらあゆる箇所から学びます」とした。

 シスターはまた、新回勅の経済の観点から見て優れた点は、「私の隣人は誰なのか、貧しい人々を生み出すシステムで捨てられた人々をどのように扱うか」について言及していること、とし、「世界の多くの地域で、私たちの現在の金融モデルは、多くの人々を排除あるいは破壊することで、少数の人々が恩恵をもたらしています… それを改めるために、資源を持つ人と持たない人の間に関係の絆を築き続けねばなりません。私たちの思考を導くのは『関係』です」と強調した。

 これに関連して、チェルニー枢機卿は「経済や政治をどのように運営するかを教えることは、教会の指導者の役割でも、教皇の役割でもない」としたうえで、「教皇は世界を特定の価値観に導くことができる。これは教皇が新回勅でなさっていることです」と述べた。

 またアビラ氏は、生後8か月のときに家族と一緒にアメリカに移住した自己の経験をもとに、「私は移民として、普通の人とは違う立場にいます。なぜなら、移民であることで生じる困難を避けられないからです。私は不確実性を抱えて生きています。メディアやインターネットで耳にする絶え間ない反移民の言動など、絶え間ない脅威からもたらされる悪夢とともに生き、それから逃れることはできません」。

 だが、そうした中で、新回勅は「安らぎへの招き、希望を持ち続けることへの招き、十字架は苦難に満ちているが、その後に復活があることを思い起こす招き… カトリック教徒として、社会に貢献し、社会をより良くするための招き」と受け止めている、と語った。さらに、教皇がご自身も移民として、自分に話しかけていることを感じ、「さまざまに混ざり合った状態にある家族で育った者は、理解したり、対処したりするのが容易でない課題を抱えています。ですが、教会がここにあり、バチカンから遠く離れているにもかかわらず、米国の移民コミュニティの一員としての私の痛みと苦しみを聞いてくださっていると感じと、とても感動しました」と語った。

 ジアングレーブ氏は、「大学生の時に、カフェで同世代の人たちと、国境や財産、そして個々の人間の権利、どのようにさまざまな宗教が一緒になれるか、最も弱い立場にある貧しい人々の利益を考えた対話と政治をどのように実際に行うことができるか、などについて議論したことを覚えています」としたうえで、自分にとって、教皇フランシスコがたびたび語る「年配者は夢を見、若者はする」を”感じる”のは楽しかったが、「それを実際に経験したことは一度もなかった。私の知っている年配者は、夢を多くは見ていない。過ぎ去った時について思い出し、考えることでとても忙しそうでした」と述べた。

 そして、「ところが、(注:年配者である)教皇フランシスコは、この回勅の中で夢を語っておられます。それは、若者としての私を、そして他の多くの若い人たちを、奮い立たせ、多分、無知だからかもしれませんが、この世の中でされているやり方でないことについて興奮させます」と語った。

 

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2020年10月17日