・香港国家安全維持法38条で「中国政府を正当に批判する外国人も逮捕される」(BW)

Stanley Prison, one of six maximum security prisons in Hong Kong.
スタンレー刑務所-香港に6つある”重犯罪者刑務所”。我々はここで一生を終えさせられるのか? (Credits)

 中国返還から23年となる7月1日、香港での反政府的な動きを取り締まる中国の「香港国家安全維持法」が施行された。

 香港に、中国本土の“出店”である国家安全保障局(维护国家安全公署)が設置され、この役所に容疑をかけられた人は中国本土で裁かれ、最高刑は無期懲役とされることなどは、以前から問題にされているが、あまり注意が払われていないのが、同法38条の規定だ。

 第38条には「本法は、香港に永住権を持たない者が、香港以外から、香港特別行政区に対して行った犯罪行為に適用される」と規定している。この条項は、分かった、と言うまえに、もう一度、読み返す必要がある。この条項が本当に言おうとしているのは、中国政府、いやむしろ中国共産党が、この地球ーそしておそらくは他の惑星もーに住む、すべての人間に対して「司法・裁判権」を持つ、ということなのだ。

 筆者は香港に永住権を持っていないが、この条項によって、毎日のように犯罪者とされるのではないか、と心配している。筆者は、香港、チベット、新疆ウイグルに住む人々歴史的、文化的、宗教的独自性を維持する権利を支持する記事をいつも書いているから、この法律の20条にある「分離主義」として処罰の対象となる可能性があり、下手をすれば、「重大な性質」の犯罪として、無期懲役になりかねない。

 中国共産党の絶対的な権力とイデオロギーに基づいて構築された「中華人民共和国の基本的な制度」を批判し、したがって「弱体化」を狙っているから、筆者はしばしばこの法律の第21条に違反することになる。同条にはこのような「系統だった重大な犯罪」については、無期懲役に処する、とあるからだ。

 さらに悪いことには、筆者は同法29条にも引っかかるかも知れない。29条を根拠に、一般的にどこでも知られていないような、中国の「国家の安全保障」を損なうような情報を、BitterWinterで入手、公開した罪に問われ、これも最高で終身刑にされてしまうかも知れない。

 常識的な人であれば、「香港問題で何を発信しようと、イタリアの市民で、欧州から記事を発信している筆者が、中国の国内法について心配することはありませんよ」と言うだろう。だが、そのような”常識”は通用しない。先の38条には、「香港の永住権を持たない」すべての者に適用することが明記されているのだ。

 このことは、私がいるイタリアに、中国共産党がやってきて裁こうとするのを、意味するのだろうか? 多分、そうではなかろう。

 だが、中国の法律に詳しい有力専門家、ジョージワシントン大学のドナルト・クラーク教授はこう書いているー38条は「中国本土の刑法よりも広範囲で適用されるとしている。中国本土の刑法のもとでは、中国でなされた、あるいは結果をもたらすものでないかぎり、外国人が罪に問われることはない、としているが『香港国家安全維持法』には、そのような適用制限の定めはない」。

 具体的には、「中国のチベット支配は非合法」と批判した米国の新聞のコラムニスト、あるいは、どのような理由であれ、「中国や香港の当局者の気分を害した」外国人は、38条の規定の対象になり得る。つまり、本人が香港に足を踏み入れた途端に、逮捕される可能性がある、という。

 それだけではない。 「あなたが中国のやることを批判する記事を書く新聞コラムニストで、香港ではなく、北京に旅行するとしまように要請したらどうなるか?本土側は、要請に応じるでしょう」と教授は警告する。しかも、「中国の領土」には、中国および香港が管理・運行する航空機(しょう。中国の刑法ではなく、香港国家安全維持法に基づいて違法行為者とされ、香港当局が中国本土の司法当局にあなたを逮捕して、香港に身柄送致する新法で明示的に言及されている)と世界中の中国大使館が含まれまることを、忘れてはならない。

 海外に司法管轄権が及ぶ、という新法は、明確に世界的な常識を欠いており、国際法に違反している。だが、そのようなことを言っても無益なことだ。38条は、中国共産党を批判する人が、(注:香港も含めた)中国の領土に足を踏み入れた瞬間にも逮捕される可能性がある、という事を意味しているのだ。

 「そんなことは、実際には起きない」と考えるなら、カナダ人の「二人のマイケル」(注:スパイ容疑で中国当局に逮捕され、一年以上拘留されているマイケル・コブリッグ、マイケル・スパボル両氏のこと。カナダの検察当局が、米国の要請を受け、対イラン経済制裁に違反して金融機関を不正操作した容疑で、中国ファーウエイの副会長、孟 晩舟を逮捕し、米国に引き渡そうとした直前に、中国国内にいる所を”報復”的に逮捕された)の事件をみれば、ありえないことでないのが理解できるだろう。個々のケースで具体的な逮捕容疑などは違っても、同じ論理だ。

 「香港と新疆ウイグルで基本的人権が侵犯されている」との英国の国連人権理事会での声明を支持、共同提案に署名した国がわずか27か国(このほか国際人権規約に署名していない米国も支持)のみにとどまっているのは、恥ずべきことだ。一方で、国名が公表されていない53か国は、中国を支持するキューバが起草した声明に署名することで、”恥の枢軸”のメンバーになってさえいる。

 自由と人権を支持して署名した国の名前は公表する価値がある。その国は、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ベリーズ、カナダ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、アイスランド、アイルランド、ドイツ、日本、ラトビア、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルグ、マーシャル諸島、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、パラオ、スロバキア、スロベニア、スウェーデン、スイス、イギリスだ。

 賢明なBitter Winterの読者は、民主主義国といわれている国の中で、どの国がこのリストに入っていないのか、なぜなのか、をご存じだろう。そうした国も、自分の国民が中国で捕まり始めたら、おそらく、立場を変えるだろう。

 

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2020年7月3日