・暫定合意の更新決定直後に、中国で教皇任命の司教が辞任

Chinese bishop's resignation seen as result of Sino-Vatican pact

(2020.11.1 カトリック・あい)

 中国国内の司教任命に関するバチカンと中国の暫定合意が10月に2年延長することで更新されたが、その決定直後に中国のカトリック司教が辞任していることが分かった。

 中国国内の状況に精通し、以前からバチカンの安易な中国との妥協を強く批判して来た香港の名誉教区長、陳日君枢機卿が再三警告している「”地下教会”のカトリック司祭、信徒の切り捨て」が、これを機にさらに大きく進むことが懸念される。(写真は郭司教)

 アジアを拠点とする有力カトリック・メディアUcanewsによると、司教を辞任したのは、中国南東部・福建省閩東(Mindong)教区の郭希錦(Vincent Guo Xijin)司教(61)。

 郭司教は、教皇から任命され、教皇に忠誠を誓って司牧を続けてきたが、中国・政府共産党がカトリックを含めた宗教団体の活動に対する統制を強める中で、その指示に従わなかったことから、当局によって逮捕、監禁されるなど様々な圧力を受けてきた。

 二年前の暫定合意で、教皇の認可を受けず、中国当局が一方的に司教に任命し、バチカンから一時破門されていた8人が、破門解除され、教皇から認可を受けた際、閩東教区の司教だった郭師は、バチカンの指示で補佐司教に格下げされ、破門解除の 張思潞(Zhan Silu)師に司教ポストを委譲させられていた。

 司教は、政府・共産党の管理・統制を受け入れた中国天主愛国協会への加盟を拒否し、迫害を受ける”地下教会”の信徒たちを助けてきたが、当局からの妨害や圧力は増す一方で、今回の暫定合意の更新・延長を機に、バチカンからの支援もなく、やむなく辞任したものと受け取られている。

 Ucanewsによると、郭司教の名前でインターネットで回覧されている本人の署名無しの手紙は「中国の教会、特に閩東教区に新しい時代をもたらすこと」を考慮して辞任したとし、「中国の教会の歴史の中で、このように色彩のあふれた瞬間に、時代に遅れずについていくために、そして時代をリードするために、時代感覚に優れた素晴らしい才能、知恵、美徳、そして大学の知識を持った聡明な人物が求められている」と張司教を称え、郭司教本人については「本質的に愚かで、古風で無知な、チベット西部の貧しい村で生まれた牧夫であり、才能も美徳も知恵も能力も知識もない」と、第三者が読めば、明らかに本人を貶めるために、流された”作文”と分かる書き方になっている。

 Ucanewsの取材の答えた教会関係者は、郭司教の今回のの辞任は、明らかに、10月の更新・延長されたバチカン・中国暫定合意と関連しており、「彼は、バチカンの中国の教会に対する一貫性を欠く指示のために、辞任に追い込まれた。閩東教区の指導者だった司教は、二年前の暫定合意で、司教としての権力を事実上奪われ、”地下教会”を守ることができなくなっていた」が、今回、辞任に追い込まれたことで、”地下教会”の聖職者たちは、中国当局だけでなく、バチカンからも、中国天主愛国協会への加盟を強制されるなることを懸念している。

 中国当局は、外務省報道官が暫定合意更新直前の9月下旬、同合意は「教会が共産主義の国でより健全に発展するのを助けている」と”効果”を強調したが、実体はこれと裏腹に、当局の統制下に入ることを嫌い、信仰を守り続けようとする地下教会の司祭や信徒たちに対する当局の迫害は、聖堂の閉鎖、集会の禁止、逮捕・監禁など一段と激しさを強めている、と伝えられている。

 ちなみに、中国における宗教団体、活動の監視・統制は2年ほど前に、日本の政府に当たる国務院の宗教担当部局から、中国共産党・統一戦線工作部にすべて移管され、宗教の”中国化”が強力に推進されている。バチカンとの暫定合意の交渉は国務院の外交部(日本の外務省に相当)が担当しているが、はるかに”格上”の統一戦線工作部とは、どのような連携がとられているのか不明だ。つまり、外交部がバチカンと仮に「信仰の自由の厳守」を約束したとしても、それを履行する権限が外交部にはないし、統一戦線工作部がそうした約束の履行を保証した、という話も聞かない。このような中国内部での実態をバチカンの国務長官初め交渉担当者がどこまで理解しているのか、極めて疑問だ。

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2020年11月1日