・新香港司教でバチカンは”対中バランス”人事ーと専門家(Crux)

(2021.5.22 Cruxx  SENIOR CORRESPONDENT Elise Ann Allen

2021年5月18日、香港のカトリック教区センターで会見する周守仁・新司教(予定)(Credit:Robi Gallardo )China-watcher says new Hong Kong prelate embodies ‘balance’ on Beijing

ローマ発=教皇フランシスコが香港司教にイエズス会士、周守仁神父を選んだことについて、中国問題の専門家でAsiaNewsの責任者、ベルナルド・セルベラ師は、複雑で急速に変化する香港情勢、バチカン・中国関係に適切に対処するための、”バランスのとれた人事”と評価している。

 周師について、セルベラ師は「教会の基本的権利を守るが、(注:中国政府・共産党やその配下にある香港政庁など)対話にもオープンなように思われる…香港には、急進的な反中・民主派と過激な親中・反民主派の両極の間に中間派がおり、彼は中間派を代表する人物」であり、「教会の価値観と原則は堅持するが、一方的なイデオロギーや反中的な立場をとることはない」と語る。 周師の香港司教任命は5月17日に発表されたが、正式なポスト就任は12月4日までないようだ。

 62歳になる周師は2019年に亡くなったマイケル・ヨン司教の後を継ぐことになるが、大規模な民主化反対運動と中国政府・共産党の力による介入で引き起こされた香港情勢の急激な変化の中で生じた香港教会のリーダーシップの2年間の空白を埋めるのは容易なことではない。 特に、昨年6月に施行された国家安全維持法で中国政府・共産党が香港支配・民主運動撲滅の姿勢を明確にして以来、教会内でも民主派と親中派の対立が一段と深刻になる中で、バランス感覚に優れたリーダーを見つけるのは容易でなかった。

 セルベラ師にとって、周師の第一印象は、「そうした条件を満たしているように思われる」だ。中国政府・共産党幹部が、この人事をどう受け止めているのか、まだ分からないが、香港の多くの司祭からは「教皇の選択にとても満足している」という声を聞いているという。 米国とアイルランドで学んだ周師は、 2018年以来、イエズス会の中国管区長として、中国本土、マカオ、台湾でのイエズス会士の活動を監督する立場にあり、香港のイエズス会経営の九龍華仁書院の監督者でもある。

 バチカンから司教任命が発表された翌日の18日に会見した周師は、記者たちに、(注:教会の司祭、信徒たちの)一致の必要性を強調し、「一致を達成する具体的な計画はこれからですが、神は私たちに一致をお求めになっておられると確信しています」と語る一方、「一致は、”画一化”ではありません。学校で私はいつも『多様性における一致』を尊重しなければならない、と生徒たちに教えてきました。私たちは、多様性を尊重することを学ぶべきです」と強調した。

 そして、自分が担当した学校という小さな共同体社会においてさえも、最近香港で起きて来たことについて見解が分かれている、としたうえで、「大きな問題は、どのようにしたら傷を癒やせるのか、です。長い取り組みが必要ですし、私がそれに成功したとは言いませんが、最善を尽くしています。共感を持って相手の話を聴くことがは非常に重要であり、それが基本です」と述べた。

 実は、周師は、1年前に香港司教になるよう求められ、断っていた。だがその後、教皇フランシスコから、司教になるように、との私信を受け取り、受諾した。

 セルベラ師は「香港は厳しい状況にある。移行の時期にあるからです。香港は、法の支配と信教の自由のある”リベラルな国”ですが、国家安全維持法、つまり”縄張り法”、”領土法”に支配される国になりつつある」とし、「この新法は、法の支配を重大な危機に陥れ、香港の一部の司祭のみるところによれば、信教の自由を危機に陥れることに繋がる」ことを強く懸念している。

 周師は記者会見で宗教の自由の問題にも触れ、「宗教の自由は私たちの基本的権利です。私たちは香港政府と話しをし、それを忘れないようにしたい。信教の自由が認められることは重要です。カトリックだけでなく、どのような宗教も自由であるべきです」と強調した。

 そして、中国との話し合いの出発点は、信仰の立場からでなければならないが、「北京(注:中国政府・共産党)は“敵”とみなされるべきではありません」と述べ、「カトリック教会と中国当局は、対話を通してお互いをより良く理解することができる」という希望を表明。 さらに、「物議を醸す問題や政治的な問題について話すことを恐れているわけではありません。ただし、『慎重さは美徳』であると思います」と語った。

 セルベラ師によると、周・新司教が取り組む重要課題の一つは「カトリック教会と若者たちとの関係の再構築」だと言う。「香港において最も不利な立場に立たされ、社会的観点、雇用、仕事の観点から罰せられ、教会によって不利な立場に置かれたのは、若者たち」であり、「民主政治回復を求める活動家の一部は暴力的になりましたが、その大部分は若者が(非暴力の運動を)主導していた。新しい国家安全維持法の下で、香港における民主主義を守ろう声を上げ、中国当局を批判したために投獄された」にもかかわらず、教会は彼らへの関心を失ったように見で、彼らから失望された。だから、「香港のカトリック教会が若者との関係を再構築することが必要なのです」と述べた。

 また同師は、周・新司教が「信教の自由」と「教育の自由」の問題を真剣に受け止める、と信じている。香港で国家安全維持法が施行された時、司祭たちの中には、「学校で教えられたいくつかのテーマが、新法で騒乱罪とされる可能性がある」など、この法律が、遅かれ早かれ、香港における信教の自由と教育の自由に脅威を与えることを懸念する声が出ていた。

 香港には300近くの学校があり、カトリック教会は「教育の自由を守るため」に、中国当局と話をする重要な主体だ。この点から、周師の、これまでの教育の分野での長く、幅広い経験を生かすことが可能だ。香港だけでなく、中国の複雑さについての奥深い知識が「香港司教としての使命を果たしていくための利点となる」とセルベラ師は、周・新司教に期待をかけている。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2021年5月23日