(2020.6.26 Vatican News)
カトリック教会の援助機関であるカリタス・バングラデシュ・が、同国コックス・バザールのロヒンギア難民キャンプが新型コロナウイルスの世界的感染の中で、深刻な危機に陥っている、として、救援を訴えている。
バングラデシュのロヒンギア難民キャンプでは、新型コロナウイルスの感染が5月14日に初めて確認され、現在、少なくとも46人が陽性、うち5人の死亡が確認されているが、キャンプの劣悪な環境からみても、実際にはそれよりもはるかに多い感染者が出ていてもおかしくない状況にある。
カリタス・バングラデシュのロヒンギア難民対策班のイマヌエル・チャヤン・ビスワス氏は「新型コロナウイルスの感染防止の重要な対策の一つが、”社会的距離”を置くことですが、大勢の人がひしめく難民キャンプでは、そのようなスペースは確保できません」と語った。
*新型ウイルス以外にも様々な災害
バングラデシュのロヒンギア難民キャンプのうち最大規模、数十万人を収容すると言われるコックス・バザールでは、1部屋に10人以上が生活を余儀なくされており、共同トイレや給水施設、食料を受け取るスペースも十分にない。このため、新型ウイルス感染に対して、効果的な予防措置をとることも、保健衛生上の措置も満足に取れない。
彼らが被害を受けているのはそれだけではない。ミャンマー国内の自分たちの故郷を暴力的に追い出されたことによる深い心の傷、新型コロナウイルス以前に赤痢や水痘などの感染症に悩まされ続け、さらにサイクロンなどの自然災害にも繰り返し襲われている。そうした脆弱な状態の中での、新型ウイルスの”襲撃”だ。
*110万人のロヒンギャ難民に対して医療・衛生環境は…
バングラデシュには推定110万人のロヒンギャ難民がいる。その大半が、故郷のミャンマー・ラカイン州で武装勢力による攻撃を受け、国境を超えて非難を余儀なくされた人々だ。彼らは、イスラム教徒の少数民族で、1982年以来、ミャンマーでの市民権を否定され、仏教徒が大多数を占めるミャンマーで差別を受け続けてきた。
ビスワス氏は、難民キャンプの医療施設がこのような人々の数に対して、まったく不十分だ、と言う。「以前は、新型ウイルスに感染して危篤状態になった難民は、ウヒヤ総合病院やコックスバザール医科大学に収容してもらえました。しかし、バングラデシュ国内の感染拡大の中で、バングラデシュの国籍を持った人に受け入れが限定されてしまった」。
さらに、基本的な問題として、新型ウイルスについての正確な情報を持っている人が極めて少ないことがある。カリタス・バングラデシュは、各地の難民キャンプで、数万人に予防対策を指導し、数千人の家庭に石鹸と衛生キットを提供。また、公共の場やトイレの近くに手洗いステーションを設置するなど、感染防止拡大防止のための具体的な対応を進めているが、キャンプ内の貧弱な給水設備や衛生設備の抜本的な改善までなかなか手が回らない。
モンスーン
バングラデシュはこれからが本格的なモンスーンに季節だ。豪雨による地滑りや洪水が、難民キャンプを襲う危険も高まる。キャンプ内の道路が分断されれば、人々が特定の地域に密集し、感染拡大の危険や、暴力被害などの危険も高くなる。
「国際社会は、ロヒンギャ難民の窮状にもっと注意を払う必要があります。彼らにも、尊厳をもって生きる権利があるのです。私たちは、彼らの苦しみに終わりが見えるようにするために、あらゆるレベルで取り組む必要があります」とビスワス氏は訴えている。
(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)