・「外交的”成功”をなぜ望むのか」-香港の陳枢機卿、改めてバチカンの対中国政策を批判

(2019.12.4 Crux  senior correspondent Elise Harris)

   香港名誉司教の陳日君・枢機卿が、「New Bloom Magazine」のインタビューに応じ、バチカンの中国への対応について改めて強く批判した。NBMは台湾を拠点にアジア太平洋地域の政治・社会問題の報道を続けているオンライン・マガジン。

 陳枢機卿は、バチカンと中国政府が昨年9月に中国国内での司教任命などについて暫定合意したことについて、「(中国政府・共産党の管理・統制に服すのを拒否する)”地下教会”を見捨てる行為」として一貫して批判。ローマに飛び、教皇フランシスコに直接、合意を再考するよう訴えてきた。

 このインタビューで枢機卿はまず、民主化運動が激しさを加え、これが中国政府・軍の弾圧を招きかねない状況に深い懸念を示した。そのうえで、中国本土においても、政府・党の管理・統制を拒否するカトリックなど諸教会がひどい弾圧を受けている実情を憂慮するとともに、「バチカンかこれまで、彼らを助けるために、ほとんど何もしてこなかった」と批判した。

 陳枢機卿は、上海生まれで、12歳で上海のサレジオ会の修道院に入り、中国共産党が政権を取り、修道院が閉鎖された後、香港の修道院に移り、イタリア・トリノのサレジオ大学で学んだあと、1961年に司祭叙階。マカオ・サレジオ中学校長、香港仔工業学校の院長などを経て、1996年に香港教区協働司教、2002年に香港司教となり、2006年にベネディクト16世により枢機卿に。2009年に香港名誉司教となった。

 バチカンの対中国政策について、枢機卿は、2001年まで福音宣教省の長官を務めたヨゼフ・トムコ枢機卿は「非常にバランスの取れた人で、中国政府と非公式の接触を始めたのは彼だったが、その一方で、中国国内の教会を迫害から守るため、厳しい路線をとった」と評価したうえで、トムコ枢機卿が定年で長官を退いた後、後任となったクレセンツォ・セぺ枢機卿につについては「彼は、何もせず、むしろ、前任者が敷いた路線を引き継ぐことに消極的でした」と批判。

 さらにその後任のイヴァン・ディアス枢機卿については、長官就任当初、司教と外交官の両方の経験を積んでいたことから、対中国でも期待されたが、「彼は、共産主義国との対話を進める”東方外交”の信奉者だったアゴスティーノ・カサロリ元国務長官の”弟子”でした」とし、ディアス長官の下で親中国政府への舵が切られたとの見方を示した。

 そして、当時、彼の下でバチカンと中国政府の交渉を担当していたのが現在、国務長官のピエトロ・パロリン枢機卿であり、外交政策を担当する国務長官の手で、昨年秋の中国政府との暫定合意となったが、「(中国と合意することで)パロリン枢機卿が何を望んでいるのか、誰も分からない… 中国と共産党について全て知っている教会の人間が、どうして今やっているようなことができるのか、全くの謎です」とし、「彼の動機に対する唯一の説明は、『信仰』ではない。外交上の成功を収めること。虚栄心を満たすことでしょう」と強く批判した。

 また、教皇フランシスコのこの問題への対応についても疑問を呈し、「教皇は前任者たち(ヨハネ・パウロ2世、ベネディクト16世)への敬意の払い方が足りません… お二人が(対中国政策で)なさったことを全て差し止めてしまった。お二人の路線を継承しておられる、と言う人がいたら、それはリップ・サービス。お二人への侮辱です」と言い切った。

 陳枢機卿によれば、ディアス、パロリンの2人は2010年に、中国との合意内容の草案を当時の教皇、ベネディクト16世に提出したが、署名されることは無かった。「これは、教皇が文書に署名することを拒否されたのだと思うが、それを裏付ける証拠はない」と述べた。

 また昨年9月の暫定合意については、「自分は中国(香港も中国に属する)のカトリック教会の2人の枢機卿のうちの1人であり、合意のうわさが出始めた昨年初めから3度にわたってローマに出かけたが、暫定合意の中身も文言も見たことがない」。教皇フランシスコとは、バチカン訪問の際に食事を一緒にしたり、個人的には良好な関係を続けているが、(対中国政策や暫定合意について)見直すように、との私の訴えに対する返事はなく、これまでの中国国内の動きをみると、私の訴えとは反対の方向に事態が動いているように見えます」と批判した。

 そして、バチカンと中国政府の暫定合意で実現したのは、中国側が一方的に叙階し、バチカンが破門していた7人の司教全員をバチカンが承認したことで、一方で中国政府・共産党に服従する中国天主愛国協会への加盟を拒否する”地下教会”の「抹殺」が進められている、と改めて警告。

 「自分自身を欺くことはできない。共産主義者たちを欺くこともできません。(中国との協力を進めようとしている)あなた方は、世界を欺いているのです… なぜなら、中国天主愛国協会の一員となることは、中国共産党の支配下にある教会の一員となるのを受け入れることになるからです」と強調した。

 また、教皇は9月にマダガスカルから帰国途上の機内会見で、「分裂は望みませんが、それを恐れてもいない」と話されたことを挙げ、「機会があれば、教皇にまたお会いしてこう言います-『あなたは、教会の分離を奨励しています。中国における分離教会を合法化しようとしているのです』と」と述べた。そして、共産党が支配する中国で、信仰が「自主独立して、平和的に」なされるなら、カトリック教会のグローバル化の中で、「希望がない、まったく希望がない」ことになる、と断言した。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2019年12月8日