・「事態を逆戻りさせる制裁はしないで」-ミャンマーの枢機卿、国際社会に理解を訴え(Crux)

(2019.12.25 Crux contributor Nirmala Carvalho)

 インド、ムンバイ発-ミャンマーのボー枢機卿は今週初めに出したクリスマス・メッセージで、少数民族、イスラム教徒のロヒンギャの人々の問題を取り上げ、彼らへの迫害に対してミャンマーへの国際的な批判の高まりに強い懸念を示した。

 ハーグの国際司法裁判所は現在、ロヒンギア難民に対するミャンマー軍の対応について、大量虐殺の疑いがあるとして調査をしており、その一環として、今月初めに同国の事実上の代表者である、ノーベル賞受賞者、アウン・サン・スー・チー氏を召喚している。

 ボー枢機卿は、これまでもしばしばスーチー氏を擁護し、軍事独裁から民主主義政体の国への漸進的な移行を成功させるために、女史を支援する必要がある、と訴えてきたが、メッセージでは「ミャンマーは、この国の歴史のどの時代よりも平和と和解を求めており、今、岐路に立っています」とし、ミャンマーのすべての市民が「平和と和解の大使」になるように求められている、と述べた。

 「国と国際社会はそれぞれの役割を果たすことができます。クリスマスは、平和をもたらすために私たちが役割を果たすように呼びかけています。(注:キリストが生まれた)この静かな夜に、平和のメッセージは、権力者たち、王と金持ちたちには伝えられませんでした。素朴で、無力な羊飼いに伝えられたのです。(注:幼子が誕生した)最初のクリスマスのメッセージを心から聞いてみましょう」と呼びかけた。

ミャンマーのカトリック教徒は約70万人、人口の2パーセントに満たない。だが、ミャンマーの教会は小さいにもかかわらず、非常に多様で、同国の少数民族の間で傑出した存在だ。司教区は16あり、民族別にみると、4教区がカレン族、3教区がカチン族、4教区がチン族、3教区がカヤ族、2つが複数の民族のそれぞれ信徒で構成されている。そして、仏教を信仰する多数派のビルマ人の多くが彼らを差別し、疑いの目で見る傾向が続いてきた。

 枢機卿は「このような現在の状況は、クリスマスの物語と共通点がありま… キリストは、ユダヤ人の歴史の中で最も困難な時期にお生まれになりました。誕生は、癒しの瞬間でした。ユダヤ人は、さまざまな部族、さまざまな支配者を和解させられる救世主を探していました。戦いと征服に運命づけられる中で」と述べ、「ミャンマーも同じように、歴史の岐路に立っています… 多くの課題に直面しています。慢性的な戦いがあり、数千人の若者の大規模な移動、危険な移住、気候変動。さまざまな人々の間の和解が求められています」と指摘。

 そして、「神は、ミャンマーにとても寛大です。すべての部族の率直な人々、豊富な天然資源、精神的な豊かさ。これらすべては他の人々が羨むものです… このようなすばらしい祝福を受けているにもかかわらず、ミャンマーは今日、誤った理由で世界で知られている… 国際法廷に引きずり出され、大げさな言葉が使われています」としたうえで、「クリスマスには、回心と悔い改めをする必要があります。憎しみから回心し、神や仲間の人間に対するあらゆる種類の罪を、悔い改めねばなりません」と訴えた。

 さらに「ミャンマーは、国内で苦しんでいる人々に対する世界の思いを理解する必要があります… 問題の平和的解決と被害を受けた人々が故郷に戻ることが必要です」とする一方、「世界も、ミャンマーについて、もっと深く理解する必要があります… 国家としてのミャンマーには、安全を守る正当な理由があります。世界中の国々が自国の安全対策を講じているのと同じです。世界は、ミャンマーで民主主義が直面している苦闘を理解する必要があります。国際社会は、”駆け出し”の民主主義国に寄り添う必要があります」と国際社会の理解を強く求めた。

 そして、ミャンマーに対する制裁は「素直に生きている人々に悪影響を与えてしまいます」とのべ、いかなる制裁にも反対することを表明した。

 米国政府は今月10日に、同国の軍高官に制裁を課したが、「国際社会はミャンマーが多くの幸せに恵まれることを願っており、平和で民主的な国になる夢の実現を助けねばなりません… ミャンマーの人々には、これ以上の悪夢を買う余裕はありません。彼らは心にいっぱいの夢を抱いています。クリスマスは、より良い未来の夢についての物語です。その夢を、今日のミャンマーで現実のものとしましょう」と強く訴えた。

 また、「今日のミャンマーに関連した(注:制裁や国際裁判など)国際的な出来事は、この国に悪い状態への逆戻りを強いる可能性があります。滑りやすい岩での希望を打ち砕かれるような旅の再現です」と危険を指摘したうえで、「ミャンマーの国民は、国際社会の理解と助言を求めています。非難ではありません。一般の人々の幸せを考慮しないどのような制裁も、ミャンマーの人々に対する世界の懸念の悲しむべき解釈になるでしょう」と改めて国際社会の理解を求めた。

 そして、ミャンマーの指導者たちに対して、国際社会と関わることを要求。「人は島ではない。国は島ではない。ミャンマーには、もっと国際的な友人が必要です。ミャンマーの人々のことを思う多くの国があるのです」と訴えた。

 枢機卿はメッセ―ジの最後に、「キリストは平和の王子でした。素朴な飼い葉おけでの誕生は、憎しみと紛争の暗黒の中に、強い希望の光をもたらしました。私たちは今、そのような状況にあります。息が詰まるような暗闇の長い夜は、輝かしい夜明けに終わります。ミャンマーに、希望と和解の新たな夜明けを迎えさせましょう」とミャンマーと世界の人々に呼びかけた。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2019年12月26日