・「中国との正式合意には多くの課題」「タグレ新長官の手腕に期待」-バチカンの専門家語る(Crux)

( 2019.12.10 Crux SeniorCorrespondent Elise Harris)

 ローマ発-バチカンの教皇庁科学アカデミーの副総裁、マルセロ・サンチェス・ソロンド司教は、バチカンと中国の関係の次のステップは正式な外交関係の確立だ、との見方を示すとともに、教皇の中国訪問についても言及した。司教が先週末、環球時報(中国共産党の機関紙『人民日報』の系列紙)のインタビューを受けて語ったもの。この発言は中国政府からは歓迎されているが、アジア問題に関する何人かの専門家は「中国との正式な関係は、特に教皇フランシスのもとでバチカンが強く望んでいるものだが、すぐには実現しないだろう」と語っている。

 「ソロンド司教が言ったことは”現実”よりも”希望”だ」とAsia News代表で中国問題の専門家、ベルナルド・セルベレラ神父は語った。「彼の発言は”外交儀礼”によるもので、発言のようなことがすぐに起こる可能性を示す兆候は見えません… 正式な外交関係を結ぶうえで、(中国政府・共産党の監督・統制下にある)中国愛国天主協会のあり方、教皇にのみに忠誠を誓う”地下教会”の役割など、まだ、問題が多い」と指摘した。 さらに、「教会が正義と平和の構築を目的とした活動を活発にする場をどのように確保するか、などについも、議論する必要があります… ソロンド司教は、多くの課題について、中国側を少しばかりプッシュしているのです」と述べた。

 同じ様に、Fides Newsのアジア部門の責任者であるパオロ・アファタートも、「私は、(外交関係の確立)がすぐになされる、とは見ていない… バチカンと中国の関係には多くの”勇気づけられる兆候”があったし、現在起こっていることは、前進すればするほど、外交関係について話すことができるようになる、ということです」。そして「あまり先を見るべきではありません… 大事なのは、中国のカトリック教徒の”日常生活の質”です。それは小さなステップの積み重ねで達成されるものですが、改善されている、と信じています」と語った。

 ソロンド司教は現在、中国雲南省の首都昆明で開催中の「臓器提供および移植会議」に参加するために中国に滞在しているが、環球時報によると、司教は会議中に「教皇フランシスコは中国に対して愛と自信を持っている… 中国も教皇を信頼している」と語り、「こうした流れの中で、次のステップは外交関係(の確立の合意)です」と述べ、さらに、教皇の中国訪問と中国幹部のバチカン訪問の可能性についても楽観的な見通しを示した、とされている。

 司教の発言は、将来の可能性について全くあり得ないことではないが、彼は昨年、 Vatican Insiderのインタビューで「中国は貧困問題で重大な問題を抱えてはいない、中国政府は人権を守る先頭に立っている」などと発言して、専門家たちとの間で物議をかもしている。また、2013年に教皇フランシスコが就任して以来、論争を招く才を発揮しており、米国のバーニー・サンダース上院議員など民主党の関係者をバチカンの様々な会議に招待するなど、科学アカデミーの幹部の立場から偏った動きを繰り返してもいる。

 一方、教皇フランシスコはこれまでも、中国訪問の希望をたびたび、もらしており、先日、日本からの帰国途上の機内会見でも「私は中国を愛しています」と訪問に前向きの姿勢を示した。この会見では、香港での民主化運動の激化と中国の圧力についての質問に直接は答えず、「ラテンアメリカなど他の地域での問題」に注意を向け、これらの国々の平和を求め、対話を促すことにとどめていた。

 アファタートによると、教皇フランシスコの中国との関係についての努力は、前任者を受けたもので、中国におけるカトリック信徒の生活改善によって判断されるように「前向きな実りをもたらしている」という見方をとっている。だが、アファタート自身は、バチカンと中国の関係は、昨年秋に中国国内の司教任命について”秘密”合意して以後も、進展はなく、カトリック信徒をめぐる状況はむしろ悪化していると見ているが、それでも、中国政府幹部のバチカン公式訪問は、「バチカンはどのような人物の訪問も拒まない」ので可能だ、としている。

 また、中国政府・共産党の内部では、教皇フランシスコとカトリック教会への対応で異なった意見-中国におけるカトリック教会の存続は管理・統制に従う限り可能とする、という意見と、全に排除すべきだとする意見ーの対立が続いており、さらにその対立は激しくなる可能性がある、と見ている。それでも、教皇フランシスコが中国政府・共産党幹部をバチカンに招こうとするのは、「カトリック教会のトップとしてではなく、バチカンの長、という立場でなされることは可能だ」とも語った。

 また、先日、マニラ大司教のアントニオ・タグレ枢機卿が、教皇庁の福音宣教省の長官に任命されたことについては、アファタート、セルベラの二人とも、中国との今後の交渉の進展に寄与する、との見方をとっている。福音宣教省は、中国を含めた宣教地域の教会の管理、指導を担当しているが、タグレ枢機卿の母方の祖父は子供の時に中国からフィリピンに移住しており、中国系フィリピン人だ。

 アファタートは「枢機卿の出自と、アジア地域が直面している問題について彼が持つ知識から判断して、「より開かれた扉」を提供できる可能性があります… 問題の一つは、この地域では、キリスト教徒が特定の地域に集中し、全体として少数派だ、ということ。この意味で、この地域で宣教して来たタグレ枢機卿は、中国の現実を受け入れることができるでしょう」と述べた。

 セルべレラは、枢機卿の出自よりも、「知性と姿勢」が、バチカンと中国の関係の前進に寄与するとの見方をとり、「アジアの教会の役割は、世界の中で重要… タグレ枢機卿には、能力があるだけでなく、物事を実現する経験があります」と強調している。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2019年12月11日