・陳枢機卿逮捕で緊張するバチカン・中国関係-教皇のメッセージは(LaCroix)

( 2022.5.24 LaCroix  Loup Besmond de Senneville | Vatican City)

 4月下旬のある午後、ローマのティベル島にある聖バルトロメオ大聖堂で、明の時代に中国で宣教活動を行ったイエズス会士、マテオ・リッチの友人、明代の著名な学者でキリスト教徒の徐光啓に関する新刊の発表会が開かれ、ジャーナリストと外交官たちが集まった。関係者の間で多くの議論を呼んだのは、その集まりの最前列に座ったのが、駐イタリア・中国大使館の代表者だったことである。中国はバチカンと外交関係を持っていない。

 そして5月12日、 香港で、中国政府・共産党による直接、間接の民主勢力弾圧に強く抗議してきた陳日君・枢機卿が、当局に逮捕された。枢機卿は間もなく保釈されたものの、犯罪者として法廷に立たされる。このことは、バチカンで極めて深刻に受け止められ、関係者の間に衝撃波が走った。枢機卿逮捕は、カトリック教会に対してだけでなく、枢機卿本人に対するメッセージと受け取られた。

 バチカンと中国の話し合いは中断されている。そして、もう一つの難題がテーブルの上に載せられた。バチカンと中国は2018年秋に、中国国内の司教選任で暫定合意し、多くの教会関係者から批判を浴びつつ、2年後に更新したが、来年10月に延長期限が切れる。バチカンは再延長を望みつつ、合意の内容に変更を加えることを考えて言われるというが、中国政府は、新型コロナウイルス感染の再拡大を理由に、予定していた話し合いを先延ばしにしている。

 そして、バチカンのある関係者は「バチカン側には、30年の努力が失敗に終わるのではないか、という深刻な懸念がある」とし、中国問題に精通しているある外交官は「バチカンは、中国を失うことはできない」とバチカン関係者の心理を説明する。

*ベネディクト15世の1919年の使徒的書簡

 徐光啓に関する新刊発表会には、講演者の1人として、福音宣教省長官のアントニオ・タグル枢機卿が参加した。枢機卿の講演はもちろん徐光啓をテーマにしたものだったが、現在の中国指導者に対するメッセージを含めだものとなった。

 講演の中で彼は、ベネディクト15世が宣教活動を復活させるために1919年に出した使徒的書簡「Maximumillud」を引用して、「福音宣教活動は、”西欧教会”の延長として行われたのではなく、普遍的な教会の表現なのです」と述べ、さらに、「福音宣教」と「西欧の植民地主義の関心」は全く別問題だということを強調した。

 そして、1659年にバチカンが出した指針を取り上げて、「フランス、スペイン、イタリア、あるいは欧州の他の国を中国に”移植”するよりも馬鹿げたことがあるでしょうか?」と問いかけ、「他地域にもたらすべきは、そのようなことではありません。いかなる人たちの儀礼や慣習を否定したり、害したりせず、それを守り、固める『信仰」です」と訴えた。

 中国との関係は、バチカン外交にとって、現在も優先事項であり、教皇フランシスコが直接、指揮を執っている。

 22日の正午の祈りの際、教皇は、中国のカトリック教徒に対する霊的な寄り添いを改めて確認され、「中国の信徒と司牧者たちの、時として”複雑”な生活と出来事を関心をもって見守り、毎日、彼らのために祈っています」と話され、「中国の教会が自由と平穏のうちに、世界の普遍教会との具体的な一致を生き、福音を皆に告げるその使命を行い、社会の精神的・物的発展に前向きな寄与ができるように祈りましょう」と世界のすべての信徒に促された。

 慎重な言い回しで、北京の当局者たちに対して、ご自身が常に重大な関心を持っていることを、はっきりと伝えた言葉だった。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2022年5月26日