・第16回 日中共同世論調査 結果-日本人の対中印象大幅悪化ー尖閣、南シナ海、一党支配…

(2020.11.17 言論NPOニュース)

 言論NPOは11月17日、16回目となる日中共同世論調査結果を公表しました。

*日本人の対中意識は悪化し、中国人対日意識は改善傾向が足踏み状態に

 今回の調査では、日本人の対中印象は、尖閣諸島を巡る対立で悪化した2014年調査から、徐々に改善を始めていたものの、一転悪化しました。一方、中国人の対日意識は日本のように悪化せずに、「良い」印象はこれまで続いた改善傾向は足踏みする形になっています。

 日本人がこの一年で中国への印象を悪化させたのは、中国が南シナ海や尖閣周辺、さらに国際社会で取っている行動や、軍事力の増強や政治体制の違いをその理由とする日本人が昨年よりそれぞれ大幅に増加するなど、中国の最近の行動への違和感を持っていることが挙げられます。

*中国人が「米国」と「日本」を切り分けて判断する傾向がみられる

 軍事的な脅威を感じる国が「ある」と回答した中国人は半数を超え、その8割を超える人が「米国」と回答しており、昨年から10ポイントも増加している。一方で、「日本」を軍事的脅威の国だとする中国人は5割を切り、昨年から30ポイント近くも減少しました。

 その理由については、「日本が米国と連携して中国を包囲している」が最多となり、これまで日本と米国は一体として中国側に評価される傾向があったものの、今回は、中国人が米国と日本を分けて判断するという、これまではなかった傾向を示しています。

 また、東アジアで紛争や衝突が起こり得る切迫した状況か、と尋ねたところ、中国人では「そう思わない」との回答が、「そう思う」を上回りました。ただ、中国人が最も危険な東アジアの地域として選んだのは「台湾海峡」の35.6%で突出しており、「南シナ海」、「朝鮮半島」が続きます。

*米中対立では米中どちらにもつかず、世界の協力発展に努力すべきとの日本人が半数近くに

 また、米中対立下での日中協力の在り方について約4割の日本人が、「米中対立の影響を最小限に管理して日中間の協力を促進する」と回答し、「米中対立とは無関係に日中の協力を発展させる」を加えると、日本人の半数近くが、米中対立の中でも日中協力を進めるべきだと回答しています。
さらに、米中対立下で日本の立ち位置について、「日本は米中のいずれにもつかずに世界の協力発展のために努力すべき」と考える日本人が半数を超え、「米国の関係を重視すべき」を大きく上回っていることが明らかになりました。

 この調査は、言論NPOと中国の国際出版集団が2005年から16年間継続して毎年共同で実施しているものです。日本側の世論調査は全国の18歳以上の男女を対象に9月12日から10月4日にかけて訪問留置回収法により実施され、有効回収標本数は1000。中国側の世論調査は北京・上海・広州・成都・瀋陽・武漢・南京・西安・青島・鄭州の10都市で18歳以上の男女を対象に9月15日から10月16日にかけて調査員による面接聴取法により実施され、有効回収標本は1571。

【言論NPO・中国の国際出版集団 第16回 日中共同世論調査 結果 全文】 2020年11月17日

 

序文

言論NPOが、中国と共同で日中の世論調査を開始してから16年になる。両国間には様々な深刻な困難が存在したが、この間、一度も中断せずに調査は行われている。今では、中国国内で継続的に行われる世論調査は、世界でもこの調査しか存在しない。

この一年は、米中対立が深刻化し、世界で分極化の動きが強まっている。また、中国で発生した新型コロナ感染はその後、世界に波及し、その封じ込めに世界は成功していない。

中国はその中で都市封鎖を実行し、先端的なデジタルテクノロジーを活用し、世界の最先端でその出口に向かっている。各国の対策はそれぞれの国内事情で制約を受けるが、様々な取り組みが生まれ、こうした各国の努力に伴うベストプラクティスを共有する余裕もないまま世界は内向きになり、本来、人命への脅威として、世界が協力するべき課題が米中対立の中で語られている。米中の対立は東アジアで紛争の危険性を高めている。
これらの課題は、ほとんどが日中両国の世論調査の設問に反映されている、そのため、今年の調査の設問数は56問にまで膨らんでいる。

今回の日中共同世論調査は、言論NPOと中国の国際出版集団の共同で行われたもので今回が16回目の調査となる。調査手法や調査地点、さらには標本数や採取の方法は過去15回の方法を踏襲している。そのため、私たちが公表する調査結果は日中両国民の意識の経年変化を把握できる世界でも唯一の資料となっている。

今回の日中共同の世論調査は9月から10月にかけて日中両国で同時に行われている。米国の大統領選の投票日前だが、米中対立が深刻化し、中国の行動への批判や東アジアでの安全保障面での懸念が高まり、世界が感染の新しい波に遭遇しつつある中で行われたものである。

その影響が両国民の意識にどのような影響をもたらしているのか、こうした困難の局面で日中関係に対する両国民の意識の変化はどのようなものなのか。特に中国国民の意識の変化を明らかにする点ではこの世論調査は世界で初めての試みになる。

今回の調査では米中対立に対する日中両国民の意識や、日本と中国のお互いに対する意識の変化を明らかにし、それらが両国の安全保障や経済協力などの両国民の意識にどのような影響をもたらしたのか、日中関係に問われる課題や日中関係の今後に関する両国民の現時点での意識を明らかにしている。

言論NPO代表 工藤泰志

調査の概要

 

日本の言論NPOと中国国際出版集団は、日中の両国民を対象とした共同世論調査を今年9月から10月にかけて実施した。この調査は、最も日中関係が深刻な状況だった2005年から毎年継続的に行われているものであり、今回で16回目となる。調査の目的は、日中両国民の相互理解・相互認識の状況やその変化を継続的に把握することにある。

日本側の世論調査は全国の18歳以上の男女を対象に9月12日から10月4日にかけて訪問留置回収法により実施され、有効回収標本数は1000である。回答者の性別は男性48.6%、女性51.4%。年齢は20歳未満が2.5%、20~29歳が11.8%、30~39歳が14.9%、40~49歳が17.4%、50~59歳が14.6%、60歳以上が38.8%。最終学歴は中学校以下が6.6%、高校卒が47.5%、短大・高専卒が21.3%、大学卒が22.3%、大学院卒が0.9%である。

これに対して、中国側の世論調査は北京・上海・広州・成都・瀋陽・武漢・南京・西安・青島・鄭州の10都市で18歳以上の男女を対象に9月15日から10月16日にかけて調査員による面接聴取法により実施された。有効回収標本は1571である。回答者の性別は男性49.6%、女性50.4%。年齢は20歳未満が2.7%、20~29歳が21.8%、30~39歳が28%、40~49歳が24.3%、50~59歳が12.3%、60歳以上が10.8%。最終学歴は中学校以下が11.3%、高校・職業高校卒が27.1%、専門学校卒が32.5%、大学卒が26.1%、ダブルディグリーが0.5%、大学院卒が2.2%である。
※ここでの数値は小数点第二位以下を四捨五入しており、また無回答を除いているため、合計が100%にならない場合がある。


 

1.日中両国民の相手国に対する印象

日中両国民の相手国に対する印象

日本人では、中国に「良くない」という印象を持っている人は、この間の改善傾向から一転して悪化に向かい、昨年から5ポイント増の89.7%と9割近くになっている。中国に「良い」印象を持っている人も5ポイント減の10%である。

これに対して、日本の印象を「良い」とする中国人は45.2%となり、調査開始以降で最も高い数値となった昨年とほぼ同水準を維持している。日本のように悪化はしておらず、足踏み状態と言える。

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相手国に対する印象の理由

 

日本人が中国に「良い」印象を持つ理由で最も多いのは、「中国古来の文化や歴史に関心があるから」(30%)であり、昨年最も多かった「観光客の増加や、民間の様々な交流により中国人の存在が身近になったから」が昨年の40%から29%に減少し、これに続いている。

中国人が日本に「良い」印象を持つ理由は、「日本人は礼儀があり、マナーを重んじ、民度が高いから」が56.8%で突出し、昨年の44.6%を大きく上回った。

一方、日本人が中国に「良くない」印象を持つ最も大きな理由は、「尖閣諸島周辺の侵犯」の57.4%、「中国が南シナ海などでとっている行動」の47.3%などの最近の中国の行動を挙げる人や、「共産党の一党支配という政治体制に違和感」の47%が上位にあり、それぞれが昨年を上回っている。

中国人が日本に「良くない」印象を持つ理由は、「侵略した歴史をきちんと謝罪し反省していないから」で7割超と突出し、これに「魚釣島国有化」が、続く構図は昨年同様である。

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1_5_良くない印象の理由中国世論.png

この一年間での相手国に対する印象の変化

 

この一年の印象の変化では、日本人は54.9%と半数を超える人が、この一年間で中国に対する印象は「特に変化していない」と回答している。ただ、「悪くなった」が37%になり、昨年の22.8%から14.2ポイント増加している。

中国人は、この一年間での日本に対する印象の変化について、74%と7割超が「特に変化していない」と回答している。

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2.日中関係の現在と将来

日中関係の現在と将来

現在の日中関係を「悪い」と判断している日本人は54.1%と半数を超えており、昨年からさらに9.3ポイント増えている。これに対し、中国人では「どちらともいえない」という判断が半数を超えており、「悪い」も35.6%から22.6%に減少するなど、日本人とは異なる認識傾向を示している。

この一年間の日中関係を「特に変化していない」とする日本人は41.7%と最も多いが、日中関係が「悪くなった」と考える日本人は39.7%と迫っており、昨年の31.8%から8ポイントも増えている。「良くなった」は2%に過ぎない。中国人では、「特に変化していない」が57.9%と6割近くとなり、で昨年の47.3%から10ポイント増えたが、「良くなった」との判断も昨年よりもわずかに減少したとはいえ20.6%と2割存在しており、ここでも日本人との認識の相違が浮き彫りとなっている。

今後の日中関係の見通しについては、日本人では現状のまま「変わらない」との見方が41.7%で最も多いが、「悪くなっていく」という悲観的な見方も28.7%と3割近い。中国人では「良くなっていく」との見方が38.2%と4割近い。「悪くなっていく」という見方は9.6%に過ぎず、昨年から半減しており、ここでも日本人との認識の違いは顕著である。

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日中関係の発展を妨げるもの

 

日中関係の発展を妨げるものとして、依然として「領土をめぐる対立」を挙げる人が日中両国で突出している。

日本人でそれに続くのは、「日中両国政府の間に政治的信頼関係がないこと」で、昨年同様約4割みられる。また、「両国民間に信頼関係ができていない」も32%で昨年よりも増加している。

中国人で二番目に多い回答は、「米中対立の行方」で、昨年の10%から27.8%へと16.8ポイント増加している。

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3.日中関係の重要性

日中関係の重要性をどう見ているか

日中関係を「重要」だと考える日本人は、64.2%と調査開始以来初めて7割を切った。一方、中国人では「重要」との見方が67%から74.7%へと増加している。

「重要」と考える理由では、日本人で最も多いのは「重要な貿易相手だから」の63.4%で、「アジアの平和と発展には日中両国の共同の協力が必要だから」が44.9%で続いている。中国人では「隣国同士だから」という一般的な認識が69.3%で最も多く、「重要な貿易相手だから」が、50.7%で半数を超えている。ただ、「アジアの平和と発展」を選んだ中国人は2割に過ぎない。

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日中関係と対米関係の重要性、親近感

 

日中関係と対米関係の重要性を比較すると、日本人の49.6%、中国人の52.4%が「どちらも同程度に重要」と答え、それぞれ最も多い回答となった。特に中国人では昨年から13ポイント増加している。ただ、中国人では「中米関係の方が日中関係よりも重要」が昨年から13.6ポイント減少して22.2%となるなど、対米関係のみを重視する人が減少している。

日中関係の方が対米関係よりも重要と考える人は日本人で4.4%、中国人で14.8%に過ぎず、昨年と比べ大きな変化はなかった。

日中双方と米国の親近感を比較すると、日本人では「米国により親近感」を覚える人が51.8%と半数を超えているが、中国人では日米の「どちらにも親近感を感じない」という人が半数近い。中国に「より親近感」を感じる日本人は2.8%に過ぎないが、日本に「より親近感」を感じる中国人は昨年の12.3%から今年は22.7%へと10.4ポイント増加している。

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日中関係と対韓関係の重要性、親近感

 

日中関係と対韓関係の重要性を比較すると、両国民ともに「どちらも同程度に重要」が半数程度で最も多い。日本人では昨年と大きな変動はないが、中国人では、「中韓関係がより重要」が22.7%から11.5%へとほぼ半減するとともに、「中日関係がより重要」が28.2%と、3割近くになっている。

親近感の比較では、日本では「どちらにも親近感を感じない」という人が昨年同様に4割程度で最も多いが、中国人では「韓国により親近感を感じる」という人が昨年よりも10ポイント以上増え37.7%と4割近くになり、これが最も多い。

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日中両国にとって世界の中で最も重要な国

 

自国の将来を考える上で、世界の中で最も重要な国であると判断したのは、日本人では「アメリカ」が6割を超えて突出している。中国人は「ロシア」が昨年から13ポイント増えて39.6%となり、昨年最も多かった「アメリカ」の23.6%を上回った。日本人で「中国」を選んだ人は8.9%、中国人で「日本」を選んだ人は10.9%で、それぞれ三番手に付けている。

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4.新たな日中協力の展開

日中関係向上のために有効なこと

日本人が、日中関係向上のために最も有効だと考えているのは、「両国政府間の信頼向上」(34.6%)であり、これに「首脳間交流の活発化」(15%)を加えると半数近くの人が政府レベルでの関係強化を期待していることになる。

中国人でも同様の傾向があり、この二つを加えると77.4%と8割近い。特に「首脳間交流の活発化」は45.4%と昨年比で22.5ポイント増となっている。

日本人では「世界のルールに基づく自由貿易体制の推進や多国間の国際協力など国際課題の解決に向けた協力」が、19.8ポイント増の30.5%となるなど、国際協力が有効と考えている人が増えているが、中国人でこれを選んだのは3.4%に過ぎず、両国民間で意識の違いも見られる。

首脳間の相互訪問の可否については、両国ともに「新型コロナウイルス感染拡大が収束した後」に行うべきとの見方が最も多いが、中国人では、「両国間に様々な懸案がある困難な今だからこそ、なるべく早く首脳の相互訪問を実現すべき」との見方も3割を超え、日本人よりも早期での再開を期待している。

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日中は世界経済の安定した発展と東アジアの平和のため、新たな協力関係を構築すべきか

 

世界経済の安定した発展と東アジアの平和を実現するために、日中両国はより強い新たな協力関係を構築すべきだと考えている中国人は75.2%となり、昨年から13ポイント増加している。

日本人も「思う」と回答している人は44.6%と最も多い回答となったが、昨年の52.5%から減少している。また、「どちらともいえない」、「わからない」と判断しかねている人も4割以上いる。

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5.日中間の基礎的理解

相手国の社会・政治体制に対する理解

日本人の中国への基礎的な理解では、中国を依然として「社会主義・共産主義」と見ている人が53.4%で最も多く、これに「全体主義(一党独裁)」が34.4%で続く構図は例年と同様である。

中国人では日本を「資本主義」、「民族主義」、「軍国主義」と認識している人がそれぞれ3割程度ある。この一年では「軍国主義」との見方が後退し、「民族主義」が増えている。「平和主義」が8.4%から22.5%と大幅に増加しているのが目立つ。ただ、日本を「民主主義」の国と考える人は1割程度である。

5_1_相手国の社会・政治体制に対する理解.png

相手国の政治家の認知度

 

日本人の中では依然として「毛沢東」が知名度が高く、88%と9割近くが知っているが、「習近平」が83%でこれに並びかけてきている。「李克強」は1割台にとどまっている。前首相の「安倍晋三」を知っている中国人は8割近い。

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6.民間交流

相手国への訪問についての認識

中国へ「行きたくない」という日本人は、昨年の67.4%から10.1ポイント増加して77.5%と8割近くになっている。これに対し、中国人では45.9%が日本へ「行きたい」と答えている。

訪問を希望する理由としては、日本人、中国人ともに「景勝地や観光地への訪問」など観光に関するものを挙げる人が最も多い。

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民間交流に関する日中両国民の意識

 

この一年の日中の民間交流の評価について、日本人の4割、中国人の半数以上が「活発ではなかった」と判断し、「活発だった」との見方を大きく上回っている。

この民間交流が日中関係の発展や改善にとって「重要である」(「重要」と「どちらかといえば重要」の合計)と考える人は、日本人では51.5%と半数を超えているが、昨年からは10.8ポイント減少している。一方、中国人では、75.5%が民間交流の重要性を認識している。特に「重要」だと、強く重要性を認識している人が昨年から16.5ポイント増の36.7%となり、日本人と対照的な結果になっている。

民間交流を進めるべき分野としては、日本人では「文化交流」、「留学生の相互受け入れ」、「民間対話」の順となっている。中国人では「メディア間の交流」と「留学生の相互受け入れ」、「民間対話」の順となっている。

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7.日中両国と歴史問題

日中関係と歴史問題の関係

日本人の半数超、中国人の8割近くが、歴史問題は日中関係において今なお大きな問題だと考えている。ただ中国人で、「ほとんど解決しておらず決定的な問題」と考える人が昨年の47.4%から、今年は37.1%に大幅に減少し、「ある程度解決したが依然大きな問題」という見方の方が40.2%と上回っている。

解決すべき歴史問題として、日本人では「中国の反日教育や教科書」を問題視する人が65.5%と6割を超えているが、「日本の戦争賠償、慰安婦、強制労働などの問題」が30.4%と日本自身の問題を選択する人も少なくない。中国人では、日本側の「侵略戦争に対する認識」が68.7%と7割近い。これに「日本の歴史教科書問題」が15.1ポイント増の55.7%で続いている。

日中関係と歴史問題の関係については、日本人、中国人共に「日中関係が発展するにつれ、歴史問題は徐々に解決する」という楽観的な見方と、「歴史問題が解決しなけば日中関係は発展しない」、あるいは「日中関係の状況に関わらず、歴史問題を解決することは困難」という悲観的な見方が拮抗している。

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8.東アジアの安全保障

軍事的脅威に関する認識

自国にとっての軍事的脅威を感じる国が「ある」と感じている人は、日本人では71.6%と7割を超えている。一方、中国人では軍事的脅威を感じる国が「ある」と感じている人は50.8%と半数程度で、それぞれ昨年よりも下回っている。

軍事的脅威を感じている人にその具体的な国を挙げてもらうと、日本人の81%と8割超が依然として「北朝鮮」を挙げている。これに「中国」63.4%が続くのは昨年と同様である。ただ、中国への脅威感は昨年の57.8%から増えている。

これに対し、中国人では、「米国」が昨年から9.9ポイント増加して84.1%と8割を超えた。一方、昨年調査では最も多かった「日本」は、75.3%から47.9%へと27.4%ポイントも減少している。また、「インド」が16.7%から27.2%へと10.5ポイント増加している。

日本人が中国に対して軍事的脅威を感じる理由では、「日本の領海侵犯」が昨年の58.8%から71.6%へと12.8ポイント増加して突出している。また、「尖閣諸島や海洋資源で紛争があること」、「中国の軍事力が強大」、「南シナ海での強引な姿勢」であることを挙げる人も5割前後存在している。

これに対して、中国人が日本に対して軍事的脅威を感じる理由では、「日本は米国と連携し軍事的に中国を包囲しているから」を挙げる人が64.9%で、昨年同様最も多い。
日本が中国を仮想敵国にしたり、領土問題の存在を認めないなどといった日本独自の理由は軒並み昨年よりも減少した。

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日中間での領土をめぐる軍事紛争の可能性

 

日中間での尖閣諸島をめぐる軍事紛争について、日本人では「起こる」との見方と、「起こらない」との見方が3割前後で拮抗している。一方、中国人では、「起こらない」が、11.4ポイント増の45.7%となり、昨年の48.3%から10.4ポイントも減の37.7%となった「起こる」を上回った。

日中両国の領土をめぐる対立に関して、日本人では「両国間ですみやかに交渉して平和的解決を目指す」べきと考える人が37.8%で最も多い。一方、中国人では「外交交渉を通じて日本に領土問題の存在を認めさせるべき」が48.1%で最も多い。「領土を守るため、中国側の実質的なコントロールを強化すべき」という強硬姿勢は、44.8%と4割あるが、昨年からは15.3ポイント減となった。

2018年6月から運用が開始された「海空連絡メカニズム」については、偶発的軍事衝突を避けるために、この措置だけで「十分だと思う」と積極的な評価をしている人は日本人では3.8%に過ぎず、「不十分だと思う」だという評価が38%と4割近い。ただ、日本人の6割は「わからない」と回答している。中国人では「十分だと思う」と積極的な評価をしている人は40.4%と4割を超え、「不十分だと思う」の36%を上回っている。

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東アジアの軍事紛争

 

現在の東アジア地域は、紛争や衝突が起こりうる切迫した状況にあると「思う」と考えている日本人は18.6%と1割台だった。一方、中国人で「思う」という人は34.4%となり、日本人とはやや温度差がみられる。

東アジア地域で軍事紛争勃発の危険性がある具体的な地域としては、日本人では「朝鮮半島」が29.3%で突出している。これに対し中国人では、「台湾海峡」が35.6%で突出している。日本人で「台湾海峡」を選んだのは6.6%しかない。

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北東アジア安全保障の多国間枠組み

 

北東アジアの紛争防止や持続的な平和を実現するための多国間協議の枠組みの必要性について、日本人の42.6%、中国人の68.2%が「必要である」と考えているが、日本人ではその割合は昨年から減少している。

その参加国については、日本人では「日中韓」が参加すべきと考えている人が約8割から9割いる。さらに、米国、北朝鮮、ロシアが5割から6割で続いており、日本人は「日中韓」を軸に朝鮮半島の六者会合までを幅広くイメージしている。中国人では、昨年から19.5ポイント増の「日本」と「中国」が約8割で並び、昨年の「日米中」から「日中」の構図に変わっている。そのほか5割台以下では「韓国」、「ロシア」、「北朝鮮」がそれぞれ昨年から大幅増となり、今年58.6%(昨年は62.7%)の「米国」と並び始めている。日中を軸に、六者会合の枠組みに近づき始めている。

北東アジアの持続的平和のために周辺国で合意すべき原則については、「平和共存」が最も必要という点で、両国民の認識は一致している。中国では「反覇権」と「事故防止」、日本では「非核」と「不戦」がそれに続いている。

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朝鮮半島非核化に向けた外交努力の評価

 

外交交渉が停滞する中での北朝鮮非核化実現の見通しについて、日本人の半数以上は、「実現しない」と考えている。これに対し、中国人では7割超がまだ実現の可能性はあると見ており、両国民の認識は対照的な結果となっている。

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9.新型コロナウイルス

各国政府の対応評価と信頼の変化

新型コロナウイルスのパンデミックに関して、日本人では自国日本が「適切な対応をしたと思う」と評価する人が6割いる。ただ、「適切な対応はできていない」も3割を超える。日本政府に対する信頼が「向上した」とする人は1割に過ぎず、信頼は「変わらない」という人が6割で最も多い。

中国人は、自国の対応について、97.7%とほぼ全員が「適切な対応をしたと思う」と評価している。そして、中国政府に対して、「信頼が向上した」という中国人は70.5%と7割を超えている。

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“ポストコロナ”における WHOのあり方

 

“ポストコロナ”における WHOのあり方については、日本人では「抜本的な改革をすべき」という人が32.8%で最も多いが、中国人で最も多いのは、「WHOのリーダーシップを強化する」の64.1%である。このリーダーシップ強化を選んだ日本人は23.3%であり、日中両国民の認識に違いがみられる。

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国際課題における世界的な協力

 

世界的な課題に関する国際協調の必要性について尋ねたところ、日本人の72%、中国人の88%が「必要だと思う」と回答しており、両国民共に強くその必要性を認識している。

新型コロナウイルス蔓延の勢いを抑えるために、各国はどのような対策で世界的な協力を行うべきかと尋ねたところ、日本人の80.1%、中国人の73.3%が「ワクチンの公平な普及や、国際的な移動での防疫協力」を選んでおり、両国民の認識は一致している。

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10.米中対立

米中対立をどう見るか

深刻化する米中対立の原因について、日本人の54.8%は「米中双方」に原因があると考えており、中国が原因だとする見方も23.2%あるが、中国人では86.2%と9割近くが「米国」に原因があると回答している。

対立の今後については、日本人は37.5%と4割近くが「現時点で予測はつかない」と答え、この回答が最も多い。「双方の歩み寄りによって、対立はやがて解消される」という楽観的な見方は、6.1%と1割に満たない。「対立は今後も続いて長期化し、解消の目途が見えない」(22.2%)、「”新冷戦”とも見られる状態まで深刻化する」(14%)の二つを合計すると、36.2%が悲観的な見方となっている。

中国人では悲観的な見方は、「対立は今後も続いて長期化し、解消の目途が見えない」(32.7%)、「”新冷戦”とも見られる状態まで深刻化する」(15.2%)の二つを合計すると、47.9%と半数近くなる。ただ、「双方の歩み寄りによって、対立はやがて解消される」との見方は、中国人では22.1%あり、これが6.1%だった日本人よりは楽観的見通しが多い。

対立の行方が世界秩序に及ぼす影響について、日本人では「中米対立は今後も続くが、共通したルールの中で互いに共存はしていく」という見方の38.6%と「わからない」の36.6%で並んでいる。中国人ではこの「共存」が30.3%で最も多く、「両国は協力関係を回復させ、世界秩序が安定化する」(22.2%)を合わせると、楽観的な見通しが半数を超えている。ただ、「部分的な分断が起こり、対立が長期化する」や、「世界経済の分断」といった悲観的な見方も合わせると25.3%存在する。

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米中対立と日中協力関係

 

米中対立の影響が日中関係にも及ぶ中での日中協力のあり方について、日本人の37.1%、中国人の53.5%が「米中対立の影響を最小限に管理し、日中間の協力を促進する」と回答している。これに、「米中対立と無関係に日中の協力関係を発展させる」を選んだ人を加えると、半数近くの日本人、7割超の中国人が米中対立下でも日中協力を促進すべき、と考えている。

また、日本側調査のみ米中対立下における日本の立ち位置について質問したところ、日本人の58.4%と6割近くが「どちらかにつくのではなく、世界の協力発展のために努力すべき」と回答している。

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米中貿易戦争が日中関係に及ぼす影響

 

現在、貿易やデジタル技術における米中両国間の摩擦が激化しているが、日本人の4割超はこの米中貿易紛争は「日中関係に悪い影響を与える」と懸念している。中国人でも同様に、日中関係への悪影響を懸念する見方が半数を超えている。


 

11.日中両国の経済関係

日中両国の経済関係

日本と中国の経済関係について、日本人では昨年と同様に中国と「win-winの関係を築くことは難しい」との見方が多い。逆に、中国人では日本と「win-winの関係を築くことができる」との見方が昨年から17.3ポイント増の78.1%と8割近くになっている。

日中の経済・貿易関係の今後については、日本人では今後も「減少する」との悲観的な見通しが昨年の16.8%から32%へとほぼ倍増している。中国人では、「増加する」との見方が47.1%で相対的に多いが、昨年の59.3%からは12.2ポイント減である。また、「減少する」との見方は12.7%で昨年からそれほど大きな変化はない。

日本と中国との経済協力は、自国の将来にとってこれからも「大切だと思う」と回答した人は、日本人では67.8%、中国人では86.1%と9割近くに上っている。

日中の経済・貿易関係をさらに発展させるために必要なことについては、日本人の63.3%、中国人の58.8%が「政府間関係の改善」と回答しており、これが最優先課題であるという点で両国民の認識は一致している。

11_1_日中の経済関係.png

11_2_日中経済関係の今後.png


 

12.世界の経済秩序や貿易をめぐる問題

自由貿易や開かれた経済秩序、多国間主義

日本人の7割、中国人の9割近くがルールに基づく自由貿易や開かれた経済秩序、多国間主義は、今後の世界経済にとって「重要」だと判断している。

世界の経済秩序の今後については、日本人の4割超、中国人の6割超が、一部の制限はあっても今後も世界の経済秩序においてはルールに基づく「自由で開かれた」秩序が基調になると考えている。

12_1_ルールに基づく自由貿易や開かれた経済秩序、多国間主義の重要性.png


 

13.日中両国の将来とアジアにおける協力関係

東アジアが目指すべき価値観として最も重要なもの

東アジアが目指すべき価値観として、日本人では56%が「平和」、36%が「協力発展」を重要であると考えている。中国人でも同様で、この二つの価値を重視する点で日中両国民の認識は一致している。中国人では特に、「平和」が63.5%と昨年から19.9ポイント増、「協力発展」が50.7%と昨年から8.2ポイント増と、この二つの価値観を目指すべきと考える人が増加傾向にある。

13_1_【東アジアが目指すべき価値観.png

両国間やアジア・世界の課題における協力

 

日中両国やアジア地域に存在する課題の解決に向けて、日中両国が協力を進めることについて、日本人の58.4%、中国人の84.6%が「賛成」している。特に中国人では、昨年から15.3ポイント増加している。

その協力すべき課題の分野では、日本人では「北東アジアの紛争回避や持続的な平和に向けた取り組み」、「北朝鮮と朝鮮半島の完全な非核化」、「大気汚染や水質汚濁などの環境問題」の三つがそれぞれ5割前後で並んでいる。中国人では、突出した分野はなく、2割から3割前後の間に様々な分野が入っている。特に多いのは「北朝鮮と朝鮮半島の完全な非核化」の32.4%で、続いて昨年よりも17.7ポイントも増加した「日中間における海空の危機管理に向けた協力」が24.5%で選ばれている。日中間で傾向の違いが顕著だったのは、「公衆衛生・疾病の対策」で、中国人では昨年の7.8%から23.5%に増加するなど、課題として重視し始めているが、日本人では逆に22.8%から16.6%に減少している。

世界の課題の中で特に懸念しているものとしては、両国で「コロナウイルスなど感染症の脅威」を選択した人が突出している。日本人では7.3%から57.1%へ、中国人では11.6%から64.6%へと、それぞれ約50ポイント増加している。

中国では続いて「世界の経済格差と貧困」(27.5%)、「米中対立の深刻化」(18.8%)が選ば、日本では「気候変動と異常気象」(40.6%)、「世界の経済格差と貧困」(24.9%)が続いている。

13_2_両国間やアジアの課題における日中協力.png

13_3_協力すべき両国間やアジアの課題日本世論.png

13_4_協力すべき両国間やアジアの課題中国世論.png

13_5_特に懸念している世界の課題.png


 

14.今後10年間の各国の影響力の変化、世界をリードすべき国

今後10年間のアジアにおける各国の影響力の変化

今後10年間のアジアにおける「日本」の影響力については、日本人の半数近く、中国人の4割が「変わらない」と見ているが、中国人では「減少する」という見方が増えている。

「中国」のアジアでの影響力については、中国人の9割が「増大する」と見ている。日本人でも6割が「増大する」と見ているが、昨年からは10ポイント減少している。

「米国」の影響力は、日本人では「増大する」、「変わらない」ともに3割台で昨年から大きな変化はないが、中国人では「減少する」との見方が16.2%から44.6%へと28.4ポイント増えている。

「韓国」の影響力は、日本人の4割、中国人の半数が「変わらない」との見方を示している。

「ロシア」の影響力は、日本人では「変わらない」が45.8%で突出しているが、中国人では「増大する」(43.5%)と「変わらない」(38.6%)が拮抗しているなど、両国で見方が異なっている。

「インド」の影響力については、日本人では「増大する」が39.6%から31%に減り、「変わらない」(33.3%)と並んでいる。中国人では「変わらない」が53.2%から35.4%に減るとともに、「増大する」が20%から10.9%へとほぼ半減している。

14_2_今後-10-年間のアジアにおける各国の影響力の変化.png


 

15.両国のメディア報道とインターネット世論の評価

日中関係とメディアの評価

中国人の85.2%が、中国メディアは日中関係の改善や両国民間の相互理解を促進していくことに「貢献している」と考えている。一方、日本では自国メディアが「貢献している」との見方は21.5%に過ぎない。

また、中国メディアの日中関係に関する報道を「客観的で公平」と感じている中国人は74.2%と7割を超える高水準である。これに対して、日本人で日本メディアの日中関係に関する報道を「客観的で公平」と感じている人は13.6%と1割程度で、「客観的で公平とは思わない」の29.3%を下回っている。

15_1.png

ネット世論は民意を反映しているか

 

日本人の31.8%は、日中関係に関するインターネット上の世論は民意を「適切に反映していない」と見ており、「適切に反映している」の22.8%を上回っている。ただ、「わからない」という人も4割超いる。

これに対し、中国人では、「適切に反映している」という見方が78.4%と8割近い。

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認定NPO法人 言論NPO
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第16回 日中共同世論調査 結果

2020年11月17日

序文

言論NPOが、中国と共同で日中の世論調査を開始してから16年になる。両国間には様々な深刻な困難が存在したが、この間、一度も中断せずに調査は行われている。今では、中国国内で継続的に行われる世論調査は、世界でもこの調査しか存在しない。

この一年は、米中対立が深刻化し、世界で分極化の動きが強まっている。また、中国で発生した新型コロナ感染はその後、世界に波及し、その封じ込めに世界は成功していない。

中国はその中で都市封鎖を実行し、先端的なデジタルテクノロジーを活用し、世界の最先端でその出口に向かっている。各国の対策はそれぞれの国内事情で制約を受けるが、様々な取り組みが生まれ、こうした各国の努力に伴うベストプラクティスを共有する余裕もないまま世界は内向きになり、本来、人命への脅威として、世界が協力するべき課題が米中対立の中で語られている。米中の対立は東アジアで紛争の危険性を高めている。
これらの課題は、ほとんどが日中両国の世論調査の設問に反映されている、そのため、今年の調査の設問数は56問にまで膨らんでいる。

今回の日中共同世論調査は、言論NPOと中国の国際出版集団の共同で行われたもので今回が16回目の調査となる。調査手法や調査地点、さらには標本数や採取の方法は過去15回の方法を踏襲している。そのため、私たちが公表する調査結果は日中両国民の意識の経年変化を把握できる世界でも唯一の資料となっている。

今回の日中共同の世論調査は9月から10月にかけて日中両国で同時に行われている。米国の大統領選の投票日前だが、米中対立が深刻化し、中国の行動への批判や東アジアでの安全保障面での懸念が高まり、世界が感染の新しい波に遭遇しつつある中で行われたものである。

その影響が両国民の意識にどのような影響をもたらしているのか、こうした困難の局面で日中関係に対する両国民の意識の変化はどのようなものなのか。特に中国国民の意識の変化を明らかにする点ではこの世論調査は世界で初めての試みになる。

今回の調査では米中対立に対する日中両国民の意識や、日本と中国のお互いに対する意識の変化を明らかにし、それらが両国の安全保障や経済協力などの両国民の意識にどのような影響をもたらしたのか、日中関係に問われる課題や日中関係の今後に関する両国民の現時点での意識を明らかにしている。

言論NPO代表 工藤泰志

調査の概要

 

日本の言論NPOと中国国際出版集団は、日中の両国民を対象とした共同世論調査を今年9月から10月にかけて実施した。この調査は、最も日中関係が深刻な状況だった2005年から毎年継続的に行われているものであり、今回で16回目となる。調査の目的は、日中両国民の相互理解・相互認識の状況やその変化を継続的に把握することにある。

日本側の世論調査は全国の18歳以上の男女を対象に9月12日から10月4日にかけて訪問留置回収法により実施され、有効回収標本数は1000である。回答者の性別は男性48.6%、女性51.4%。年齢は20歳未満が2.5%、20~29歳が11.8%、30~39歳が14.9%、40~49歳が17.4%、50~59歳が14.6%、60歳以上が38.8%。最終学歴は中学校以下が6.6%、高校卒が47.5%、短大・高専卒が21.3%、大学卒が22.3%、大学院卒が0.9%である。

これに対して、中国側の世論調査は北京・上海・広州・成都・瀋陽・武漢・南京・西安・青島・鄭州の10都市で18歳以上の男女を対象に9月15日から10月16日にかけて調査員による面接聴取法により実施された。有効回収標本は1571である。回答者の性別は男性49.6%、女性50.4%。年齢は20歳未満が2.7%、20~29歳が21.8%、30~39歳が28%、40~49歳が24.3%、50~59歳が12.3%、60歳以上が10.8%。最終学歴は中学校以下が11.3%、高校・職業高校卒が27.1%、専門学校卒が32.5%、大学卒が26.1%、ダブルディグリーが0.5%、大学院卒が2.2%である。
※ここでの数値は小数点第二位以下を四捨五入しており、また無回答を除いているため、合計が100%にならない場合がある。


 

1.日中両国民の相手国に対する印象

日中両国民の相手国に対する印象

日本人では、中国に「良くない」という印象を持っている人は、この間の改善傾向から一転して悪化に向かい、昨年から5ポイント増の89.7%と9割近くになっている。中国に「良い」印象を持っている人も5ポイント減の10%である。

これに対して、日本の印象を「良い」とする中国人は45.2%となり、調査開始以降で最も高い数値となった昨年とほぼ同水準を維持している。日本のように悪化はしておらず、足踏み状態と言える。

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相手国に対する印象の理由

 

日本人が中国に「良い」印象を持つ理由で最も多いのは、「中国古来の文化や歴史に関心があるから」(30%)であり、昨年最も多かった「観光客の増加や、民間の様々な交流により中国人の存在が身近になったから」が昨年の40%から29%に減少し、これに続いている。

中国人が日本に「良い」印象を持つ理由は、「日本人は礼儀があり、マナーを重んじ、民度が高いから」が56.8%で突出し、昨年の44.6%を大きく上回った。

一方、日本人が中国に「良くない」印象を持つ最も大きな理由は、「尖閣諸島周辺の侵犯」の57.4%、「中国が南シナ海などでとっている行動」の47.3%などの最近の中国の行動を挙げる人や、「共産党の一党支配という政治体制に違和感」の47%が上位にあり、それぞれが昨年を上回っている。

中国人が日本に「良くない」印象を持つ理由は、「侵略した歴史をきちんと謝罪し反省していないから」で7割超と突出し、これに「魚釣島国有化」が、続く構図は昨年同様である。

1_2_良い印象の理由日本世論.png

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1_4_良くない印象の理由日本世論.png

1_5_良くない印象の理由中国世論.png

この一年間での相手国に対する印象の変化

 

この一年の印象の変化では、日本人は54.9%と半数を超える人が、この一年間で中国に対する印象は「特に変化していない」と回答している。ただ、「悪くなった」が37%になり、昨年の22.8%から14.2ポイント増加している。

中国人は、この一年間での日本に対する印象の変化について、74%と7割超が「特に変化していない」と回答している。

1_6_この一年間での相手国に対する印象の変化.png


 

2.日中関係の現在と将来

日中関係の現在と将来

現在の日中関係を「悪い」と判断している日本人は54.1%と半数を超えており、昨年からさらに9.3ポイント増えている。これに対し、中国人では「どちらともいえない」という判断が半数を超えており、「悪い」も35.6%から22.6%に減少するなど、日本人とは異なる認識傾向を示している。

この一年間の日中関係を「特に変化していない」とする日本人は41.7%と最も多いが、日中関係が「悪くなった」と考える日本人は39.7%と迫っており、昨年の31.8%から8ポイントも増えている。「良くなった」は2%に過ぎない。中国人では、「特に変化していない」が57.9%と6割近くとなり、で昨年の47.3%から10ポイント増えたが、「良くなった」との判断も昨年よりもわずかに減少したとはいえ20.6%と2割存在しており、ここでも日本人との認識の相違が浮き彫りとなっている。

今後の日中関係の見通しについては、日本人では現状のまま「変わらない」との見方が41.7%で最も多いが、「悪くなっていく」という悲観的な見方も28.7%と3割近い。中国人では「良くなっていく」との見方が38.2%と4割近い。「悪くなっていく」という見方は9.6%に過ぎず、昨年から半減しており、ここでも日本人との認識の違いは顕著である。

2_1_現在の日中関係.png

日中関係の発展を妨げるもの

 

日中関係の発展を妨げるものとして、依然として「領土をめぐる対立」を挙げる人が日中両国で突出している。

日本人でそれに続くのは、「日中両国政府の間に政治的信頼関係がないこと」で、昨年同様約4割みられる。また、「両国民間に信頼関係ができていない」も32%で昨年よりも増加している。

中国人で二番目に多い回答は、「米中対立の行方」で、昨年の10%から27.8%へと16.8ポイント増加している。

2_2_日中関係の発展を妨げるもの.png


 

3.日中関係の重要性

日中関係の重要性をどう見ているか

日中関係を「重要」だと考える日本人は、64.2%と調査開始以来初めて7割を切った。一方、中国人では「重要」との見方が67%から74.7%へと増加している。

「重要」と考える理由では、日本人で最も多いのは「重要な貿易相手だから」の63.4%で、「アジアの平和と発展には日中両国の共同の協力が必要だから」が44.9%で続いている。中国人では「隣国同士だから」という一般的な認識が69.3%で最も多く、「重要な貿易相手だから」が、50.7%で半数を超えている。ただ、「アジアの平和と発展」を選んだ中国人は2割に過ぎない。

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日中関係と対米関係の重要性、親近感

 

日中関係と対米関係の重要性を比較すると、日本人の49.6%、中国人の52.4%が「どちらも同程度に重要」と答え、それぞれ最も多い回答となった。特に中国人では昨年から13ポイント増加している。ただ、中国人では「中米関係の方が日中関係よりも重要」が昨年から13.6ポイント減少して22.2%となるなど、対米関係のみを重視する人が減少している。

日中関係の方が対米関係よりも重要と考える人は日本人で4.4%、中国人で14.8%に過ぎず、昨年と比べ大きな変化はなかった。

日中双方と米国の親近感を比較すると、日本人では「米国により親近感」を覚える人が51.8%と半数を超えているが、中国人では日米の「どちらにも親近感を感じない」という人が半数近い。中国に「より親近感」を感じる日本人は2.8%に過ぎないが、日本に「より親近感」を感じる中国人は昨年の12.3%から今年は22.7%へと10.4ポイント増加している。

3_2_日中関係と対米関係の重要性.png

日中関係と対韓関係の重要性、親近感

 

日中関係と対韓関係の重要性を比較すると、両国民ともに「どちらも同程度に重要」が半数程度で最も多い。日本人では昨年と大きな変動はないが、中国人では、「中韓関係がより重要」が22.7%から11.5%へとほぼ半減するとともに、「中日関係がより重要」が28.2%と、3割近くになっている。

親近感の比較では、日本では「どちらにも親近感を感じない」という人が昨年同様に4割程度で最も多いが、中国人では「韓国により親近感を感じる」という人が昨年よりも10ポイント以上増え37.7%と4割近くになり、これが最も多い。

3_3_日中関係と対韓関係の重要性.png

日中両国にとって世界の中で最も重要な国

 

自国の将来を考える上で、世界の中で最も重要な国であると判断したのは、日本人では「アメリカ」が6割を超えて突出している。中国人は「ロシア」が昨年から13ポイント増えて39.6%となり、昨年最も多かった「アメリカ」の23.6%を上回った。日本人で「中国」を選んだ人は8.9%、中国人で「日本」を選んだ人は10.9%で、それぞれ三番手に付けている。

3_4_日中両国にとって世界の中で最も重要な国.png


 

4.新たな日中協力の展開

日中関係向上のために有効なこと

日本人が、日中関係向上のために最も有効だと考えているのは、「両国政府間の信頼向上」(34.6%)であり、これに「首脳間交流の活発化」(15%)を加えると半数近くの人が政府レベルでの関係強化を期待していることになる。

中国人でも同様の傾向があり、この二つを加えると77.4%と8割近い。特に「首脳間交流の活発化」は45.4%と昨年比で22.5ポイント増となっている。

日本人では「世界のルールに基づく自由貿易体制の推進や多国間の国際協力など国際課題の解決に向けた協力」が、19.8ポイント増の30.5%となるなど、国際協力が有効と考えている人が増えているが、中国人でこれを選んだのは3.4%に過ぎず、両国民間で意識の違いも見られる。

首脳間の相互訪問の可否については、両国ともに「新型コロナウイルス感染拡大が収束した後」に行うべきとの見方が最も多いが、中国人では、「両国間に様々な懸案がある困難な今だからこそ、なるべく早く首脳の相互訪問を実現すべき」との見方も3割を超え、日本人よりも早期での再開を期待している。

4_1_日本関係向上のために有効なこと.png

日中は世界経済の安定した発展と東アジアの平和のため、新たな協力関係を構築すべきか

 

世界経済の安定した発展と東アジアの平和を実現するために、日中両国はより強い新たな協力関係を構築すべきだと考えている中国人は75.2%となり、昨年から13ポイント増加している。

日本人も「思う」と回答している人は44.6%と最も多い回答となったが、昨年の52.5%から減少している。また、「どちらともいえない」、「わからない」と判断しかねている人も4割以上いる。

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5.日中間の基礎的理解

相手国の社会・政治体制に対する理解

日本人の中国への基礎的な理解では、中国を依然として「社会主義・共産主義」と見ている人が53.4%で最も多く、これに「全体主義(一党独裁)」が34.4%で続く構図は例年と同様である。

中国人では日本を「資本主義」、「民族主義」、「軍国主義」と認識している人がそれぞれ3割程度ある。この一年では「軍国主義」との見方が後退し、「民族主義」が増えている。「平和主義」が8.4%から22.5%と大幅に増加しているのが目立つ。ただ、日本を「民主主義」の国と考える人は1割程度である。

5_1_相手国の社会・政治体制に対する理解.png

相手国の政治家の認知度

 

日本人の中では依然として「毛沢東」が知名度が高く、88%と9割近くが知っているが、「習近平」が83%でこれに並びかけてきている。「李克強」は1割台にとどまっている。前首相の「安倍晋三」を知っている中国人は8割近い。

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6.民間交流

相手国への訪問についての認識

中国へ「行きたくない」という日本人は、昨年の67.4%から10.1ポイント増加して77.5%と8割近くになっている。これに対し、中国人では45.9%が日本へ「行きたい」と答えている。

訪問を希望する理由としては、日本人、中国人ともに「景勝地や観光地への訪問」など観光に関するものを挙げる人が最も多い。

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民間交流に関する日中両国民の意識

 

この一年の日中の民間交流の評価について、日本人の4割、中国人の半数以上が「活発ではなかった」と判断し、「活発だった」との見方を大きく上回っている。

この民間交流が日中関係の発展や改善にとって「重要である」(「重要」と「どちらかといえば重要」の合計)と考える人は、日本人では51.5%と半数を超えているが、昨年からは10.8ポイント減少している。一方、中国人では、75.5%が民間交流の重要性を認識している。特に「重要」だと、強く重要性を認識している人が昨年から16.5ポイント増の36.7%となり、日本人と対照的な結果になっている。

民間交流を進めるべき分野としては、日本人では「文化交流」、「留学生の相互受け入れ」、「民間対話」の順となっている。中国人では「メディア間の交流」と「留学生の相互受け入れ」、「民間対話」の順となっている。

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7.日中両国と歴史問題

日中関係と歴史問題の関係

日本人の半数超、中国人の8割近くが、歴史問題は日中関係において今なお大きな問題だと考えている。ただ中国人で、「ほとんど解決しておらず決定的な問題」と考える人が昨年の47.4%から、今年は37.1%に大幅に減少し、「ある程度解決したが依然大きな問題」という見方の方が40.2%と上回っている。

解決すべき歴史問題として、日本人では「中国の反日教育や教科書」を問題視する人が65.5%と6割を超えているが、「日本の戦争賠償、慰安婦、強制労働などの問題」が30.4%と日本自身の問題を選択する人も少なくない。中国人では、日本側の「侵略戦争に対する認識」が68.7%と7割近い。これに「日本の歴史教科書問題」が15.1ポイント増の55.7%で続いている。

日中関係と歴史問題の関係については、日本人、中国人共に「日中関係が発展するにつれ、歴史問題は徐々に解決する」という楽観的な見方と、「歴史問題が解決しなけば日中関係は発展しない」、あるいは「日中関係の状況に関わらず、歴史問題を解決することは困難」という悲観的な見方が拮抗している。

7_1_歴史問題は日中関係の障害か.png

7_2_歴史問題で解決すべき問題.png

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8.東アジアの安全保障

軍事的脅威に関する認識

自国にとっての軍事的脅威を感じる国が「ある」と感じている人は、日本人では71.6%と7割を超えている。一方、中国人では軍事的脅威を感じる国が「ある」と感じている人は50.8%と半数程度で、それぞれ昨年よりも下回っている。

軍事的脅威を感じている人にその具体的な国を挙げてもらうと、日本人の81%と8割超が依然として「北朝鮮」を挙げている。これに「中国」63.4%が続くのは昨年と同様である。ただ、中国への脅威感は昨年の57.8%から増えている。

これに対し、中国人では、「米国」が昨年から9.9ポイント増加して84.1%と8割を超えた。一方、昨年調査では最も多かった「日本」は、75.3%から47.9%へと27.4%ポイントも減少している。また、「インド」が16.7%から27.2%へと10.5ポイント増加している。

日本人が中国に対して軍事的脅威を感じる理由では、「日本の領海侵犯」が昨年の58.8%から71.6%へと12.8ポイント増加して突出している。また、「尖閣諸島や海洋資源で紛争があること」、「中国の軍事力が強大」、「南シナ海での強引な姿勢」であることを挙げる人も5割前後存在している。

これに対して、中国人が日本に対して軍事的脅威を感じる理由では、「日本は米国と連携し軍事的に中国を包囲しているから」を挙げる人が64.9%で、昨年同様最も多い。
日本が中国を仮想敵国にしたり、領土問題の存在を認めないなどといった日本独自の理由は軒並み昨年よりも減少した。

8_1_軍事的な脅威だと感じる国・地域はあるか.png

8_2_軍事的脅威を感じる国・地域.png

日中間での領土をめぐる軍事紛争の可能性

 

日中間での尖閣諸島をめぐる軍事紛争について、日本人では「起こる」との見方と、「起こらない」との見方が3割前後で拮抗している。一方、中国人では、「起こらない」が、11.4ポイント増の45.7%となり、昨年の48.3%から10.4ポイントも減の37.7%となった「起こる」を上回った。

日中両国の領土をめぐる対立に関して、日本人では「両国間ですみやかに交渉して平和的解決を目指す」べきと考える人が37.8%で最も多い。一方、中国人では「外交交渉を通じて日本に領土問題の存在を認めさせるべき」が48.1%で最も多い。「領土を守るため、中国側の実質的なコントロールを強化すべき」という強硬姿勢は、44.8%と4割あるが、昨年からは15.3ポイント減となった。

2018年6月から運用が開始された「海空連絡メカニズム」については、偶発的軍事衝突を避けるために、この措置だけで「十分だと思う」と積極的な評価をしている人は日本人では3.8%に過ぎず、「不十分だと思う」だという評価が38%と4割近い。ただ、日本人の6割は「わからない」と回答している。中国人では「十分だと思う」と積極的な評価をしている人は40.4%と4割を超え、「不十分だと思う」の36%を上回っている。

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東アジアの軍事紛争

 

現在の東アジア地域は、紛争や衝突が起こりうる切迫した状況にあると「思う」と考えている日本人は18.6%と1割台だった。一方、中国人で「思う」という人は34.4%となり、日本人とはやや温度差がみられる。

東アジア地域で軍事紛争勃発の危険性がある具体的な地域としては、日本人では「朝鮮半島」が29.3%で突出している。これに対し中国人では、「台湾海峡」が35.6%で突出している。日本人で「台湾海峡」を選んだのは6.6%しかない。

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北東アジア安全保障の多国間枠組み

 

北東アジアの紛争防止や持続的な平和を実現するための多国間協議の枠組みの必要性について、日本人の42.6%、中国人の68.2%が「必要である」と考えているが、日本人ではその割合は昨年から減少している。

その参加国については、日本人では「日中韓」が参加すべきと考えている人が約8割から9割いる。さらに、米国、北朝鮮、ロシアが5割から6割で続いており、日本人は「日中韓」を軸に朝鮮半島の六者会合までを幅広くイメージしている。中国人では、昨年から19.5ポイント増の「日本」と「中国」が約8割で並び、昨年の「日米中」から「日中」の構図に変わっている。そのほか5割台以下では「韓国」、「ロシア」、「北朝鮮」がそれぞれ昨年から大幅増となり、今年58.6%(昨年は62.7%)の「米国」と並び始めている。日中を軸に、六者会合の枠組みに近づき始めている。

北東アジアの持続的平和のために周辺国で合意すべき原則については、「平和共存」が最も必要という点で、両国民の認識は一致している。中国では「反覇権」と「事故防止」、日本では「非核」と「不戦」がそれに続いている。

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8_6_北東アジア安全保障の多国間枠組みの参加国.png

朝鮮半島非核化に向けた外交努力の評価

 

外交交渉が停滞する中での北朝鮮非核化実現の見通しについて、日本人の半数以上は、「実現しない」と考えている。これに対し、中国人では7割超がまだ実現の可能性はあると見ており、両国民の認識は対照的な結果となっている。

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9.新型コロナウイルス

各国政府の対応評価と信頼の変化

新型コロナウイルスのパンデミックに関して、日本人では自国日本が「適切な対応をしたと思う」と評価する人が6割いる。ただ、「適切な対応はできていない」も3割を超える。日本政府に対する信頼が「向上した」とする人は1割に過ぎず、信頼は「変わらない」という人が6割で最も多い。

中国人は、自国の対応について、97.7%とほぼ全員が「適切な対応をしたと思う」と評価している。そして、中国政府に対して、「信頼が向上した」という中国人は70.5%と7割を超えている。

9_1_新型コロナウイルスのパンデミックに対する日中韓各国の対応をどう評価するか.png

“ポストコロナ”における WHOのあり方

 

“ポストコロナ”における WHOのあり方については、日本人では「抜本的な改革をすべき」という人が32.8%で最も多いが、中国人で最も多いのは、「WHOのリーダーシップを強化する」の64.1%である。このリーダーシップ強化を選んだ日本人は23.3%であり、日中両国民の認識に違いがみられる。

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国際課題における世界的な協力

 

世界的な課題に関する国際協調の必要性について尋ねたところ、日本人の72%、中国人の88%が「必要だと思う」と回答しており、両国民共に強くその必要性を認識している。

新型コロナウイルス蔓延の勢いを抑えるために、各国はどのような対策で世界的な協力を行うべきかと尋ねたところ、日本人の80.1%、中国人の73.3%が「ワクチンの公平な普及や、国際的な移動での防疫協力」を選んでおり、両国民の認識は一致している。

9_3_国際協調は今後も必要か.png

9_4_感染拡大抑制のために必要な世界的協力.png


 

10.米中対立

米中対立をどう見るか

深刻化する米中対立の原因について、日本人の54.8%は「米中双方」に原因があると考えており、中国が原因だとする見方も23.2%あるが、中国人では86.2%と9割近くが「米国」に原因があると回答している。

対立の今後については、日本人は37.5%と4割近くが「現時点で予測はつかない」と答え、この回答が最も多い。「双方の歩み寄りによって、対立はやがて解消される」という楽観的な見方は、6.1%と1割に満たない。「対立は今後も続いて長期化し、解消の目途が見えない」(22.2%)、「”新冷戦”とも見られる状態まで深刻化する」(14%)の二つを合計すると、36.2%が悲観的な見方となっている。

中国人では悲観的な見方は、「対立は今後も続いて長期化し、解消の目途が見えない」(32.7%)、「”新冷戦”とも見られる状態まで深刻化する」(15.2%)の二つを合計すると、47.9%と半数近くなる。ただ、「双方の歩み寄りによって、対立はやがて解消される」との見方は、中国人では22.1%あり、これが6.1%だった日本人よりは楽観的見通しが多い。

対立の行方が世界秩序に及ぼす影響について、日本人では「中米対立は今後も続くが、共通したルールの中で互いに共存はしていく」という見方の38.6%と「わからない」の36.6%で並んでいる。中国人ではこの「共存」が30.3%で最も多く、「両国は協力関係を回復させ、世界秩序が安定化する」(22.2%)を合わせると、楽観的な見通しが半数を超えている。ただ、「部分的な分断が起こり、対立が長期化する」や、「世界経済の分断」といった悲観的な見方も合わせると25.3%存在する。

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米中対立と日中協力関係

 

米中対立の影響が日中関係にも及ぶ中での日中協力のあり方について、日本人の37.1%、中国人の53.5%が「米中対立の影響を最小限に管理し、日中間の協力を促進する」と回答している。これに、「米中対立と無関係に日中の協力関係を発展させる」を選んだ人を加えると、半数近くの日本人、7割超の中国人が米中対立下でも日中協力を促進すべき、と考えている。

また、日本側調査のみ米中対立下における日本の立ち位置について質問したところ、日本人の58.4%と6割近くが「どちらかにつくのではなく、世界の協力発展のために努力すべき」と回答している。

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米中貿易戦争が日中関係に及ぼす影響

 

現在、貿易やデジタル技術における米中両国間の摩擦が激化しているが、日本人の4割超はこの米中貿易紛争は「日中関係に悪い影響を与える」と懸念している。中国人でも同様に、日中関係への悪影響を懸念する見方が半数を超えている。


 

11.日中両国の経済関係

日中両国の経済関係

日本と中国の経済関係について、日本人では昨年と同様に中国と「win-winの関係を築くことは難しい」との見方が多い。逆に、中国人では日本と「win-winの関係を築くことができる」との見方が昨年から17.3ポイント増の78.1%と8割近くになっている。

日中の経済・貿易関係の今後については、日本人では今後も「減少する」との悲観的な見通しが昨年の16.8%から32%へとほぼ倍増している。中国人では、「増加する」との見方が47.1%で相対的に多いが、昨年の59.3%からは12.2ポイント減である。また、「減少する」との見方は12.7%で昨年からそれほど大きな変化はない。

日本と中国との経済協力は、自国の将来にとってこれからも「大切だと思う」と回答した人は、日本人では67.8%、中国人では86.1%と9割近くに上っている。

日中の経済・貿易関係をさらに発展させるために必要なことについては、日本人の63.3%、中国人の58.8%が「政府間関係の改善」と回答しており、これが最優先課題であるという点で両国民の認識は一致している。

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12.世界の経済秩序や貿易をめぐる問題

自由貿易や開かれた経済秩序、多国間主義

日本人の7割、中国人の9割近くがルールに基づく自由貿易や開かれた経済秩序、多国間主義は、今後の世界経済にとって「重要」だと判断している。

世界の経済秩序の今後については、日本人の4割超、中国人の6割超が、一部の制限はあっても今後も世界の経済秩序においてはルールに基づく「自由で開かれた」秩序が基調になると考えている。

12_1_ルールに基づく自由貿易や開かれた経済秩序、多国間主義の重要性.png


 

13.日中両国の将来とアジアにおける協力関係

東アジアが目指すべき価値観として最も重要なもの

東アジアが目指すべき価値観として、日本人では56%が「平和」、36%が「協力発展」を重要であると考えている。中国人でも同様で、この二つの価値を重視する点で日中両国民の認識は一致している。中国人では特に、「平和」が63.5%と昨年から19.9ポイント増、「協力発展」が50.7%と昨年から8.2ポイント増と、この二つの価値観を目指すべきと考える人が増加傾向にある。

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両国間やアジア・世界の課題における協力

 

日中両国やアジア地域に存在する課題の解決に向けて、日中両国が協力を進めることについて、日本人の58.4%、中国人の84.6%が「賛成」している。特に中国人では、昨年から15.3ポイント増加している。

その協力すべき課題の分野では、日本人では「北東アジアの紛争回避や持続的な平和に向けた取り組み」、「北朝鮮と朝鮮半島の完全な非核化」、「大気汚染や水質汚濁などの環境問題」の三つがそれぞれ5割前後で並んでいる。中国人では、突出した分野はなく、2割から3割前後の間に様々な分野が入っている。特に多いのは「北朝鮮と朝鮮半島の完全な非核化」の32.4%で、続いて昨年よりも17.7ポイントも増加した「日中間における海空の危機管理に向けた協力」が24.5%で選ばれている。日中間で傾向の違いが顕著だったのは、「公衆衛生・疾病の対策」で、中国人では昨年の7.8%から23.5%に増加するなど、課題として重視し始めているが、日本人では逆に22.8%から16.6%に減少している。

世界の課題の中で特に懸念しているものとしては、両国で「コロナウイルスなど感染症の脅威」を選択した人が突出している。日本人では7.3%から57.1%へ、中国人では11.6%から64.6%へと、それぞれ約50ポイント増加している。

中国では続いて「世界の経済格差と貧困」(27.5%)、「米中対立の深刻化」(18.8%)が選ば、日本では「気候変動と異常気象」(40.6%)、「世界の経済格差と貧困」(24.9%)が続いている。

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13_3_協力すべき両国間やアジアの課題日本世論.png

13_4_協力すべき両国間やアジアの課題中国世論.png

13_5_特に懸念している世界の課題.png


 

14.今後10年間の各国の影響力の変化、世界をリードすべき国

今後10年間のアジアにおける各国の影響力の変化

今後10年間のアジアにおける「日本」の影響力については、日本人の半数近く、中国人の4割が「変わらない」と見ているが、中国人では「減少する」という見方が増えている。

「中国」のアジアでの影響力については、中国人の9割が「増大する」と見ている。日本人でも6割が「増大する」と見ているが、昨年からは10ポイント減少している。

「米国」の影響力は、日本人では「増大する」、「変わらない」ともに3割台で昨年から大きな変化はないが、中国人では「減少する」との見方が16.2%から44.6%へと28.4ポイント増えている。

「韓国」の影響力は、日本人の4割、中国人の半数が「変わらない」との見方を示している。

「ロシア」の影響力は、日本人では「変わらない」が45.8%で突出しているが、中国人では「増大する」(43.5%)と「変わらない」(38.6%)が拮抗しているなど、両国で見方が異なっている。

「インド」の影響力については、日本人では「増大する」が39.6%から31%に減り、「変わらない」(33.3%)と並んでいる。中国人では「変わらない」が53.2%から35.4%に減るとともに、「増大する」が20%から10.9%へとほぼ半減している。

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15.両国のメディア報道とインターネット世論の評価

日中関係とメディアの評価

中国人の85.2%が、中国メディアは日中関係の改善や両国民間の相互理解を促進していくことに「貢献している」と考えている。一方、日本では自国メディアが「貢献している」との見方は21.5%に過ぎない。

また、中国メディアの日中関係に関する報道を「客観的で公平」と感じている中国人は74.2%と7割を超える高水準である。これに対して、日本人で日本メディアの日中関係に関する報道を「客観的で公平」と感じている人は13.6%と1割程度で、「客観的で公平とは思わない」の29.3%を下回っている。

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ネット世論は民意を反映しているか

 

日本人の31.8%は、日中関係に関するインターネット上の世論は民意を「適切に反映していない」と見ており、「適切に反映している」の22.8%を上回っている。ただ、「わからない」という人も4割超いる。

これに対し、中国人では、「適切に反映している」という見方が78.4%と8割近い。

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2020年11月18日