・北朝鮮の人々の負っている〝十字架”にバチカンは何ができるか(LaCroix)

(2021.4.1 La Croix   Rock Ronald Rozario ) 北朝鮮人口

 ミャンマーで連日のように流される民主政治回復を求める人々の血、そして他の国々でも独裁政権の振る舞いは、人々の平和と自由への願望がしばしば無視され、平和が暴力で終わる現実を、改めて思い起こさせる。世界のキリスト教徒が主の十字架上の死と復活を祝うこの時期は、多くの死者を出す戦争、民族・宗教紛争、弾圧によって苦しみを受け、命を落とす何百万もの人々について考える機会だ。

 アジアで苦しめられているのはミャンマーだけではない。北朝鮮では、独裁者・金正恩への個人崇拝を中心に悲劇が展開されている。金正恩は自分自身を神と見なし、同胞を無神論に追いやっている。

 2500万の人口の半分が貧困ライン以下で生活し、毎年数千人が飢餓、病気、迫害で亡くなっていると言われる。国際人権団体の年次報告書は、北朝鮮を「宗教の自由を含む人々の自由と人権を制限する最悪の国」にランク付けしている。国の社会経済分野には財政資金を回す余裕がない中で、核開発を含む大幅な軍備増強に多額の資金を投入し続けている。

 にもかかわらず、この国の指導者は、2018年に韓国のカトリック信徒である文在寅・大統領と首脳会談を果たし、正義、平和、人権の擁護者である教皇フランシスコにも来朝を求めている。北朝鮮はバチカンと正式な外交関係を持たないが、 金正恩の父である金正日は、当時の韓国の金大中大統領との首脳会談に続いて、聖ヨハネパウロ2世を招待しがた、「これに応じて北朝鮮を訪問されれば、奇跡だ」という関係者の見方通り、実現することはなかった。

 バチカンは北朝鮮に対して、「カトリックの司祭が受け入れられ、教会の活動が保証されれば、教皇の訪問は可能」と回答したと言われているが、金正恩は、(教皇の来朝を実現するためそれを約束したとしても)信教の自由と人権を踏みにじる可能性があり、本心で約束するとは考えられない。

 この北朝鮮の若き指導者は、自国を国際社会から”除け者”扱いされる国に変え、弾道ミサイルの発射実験を断続的に繰り返し、反対勢力を次々と処刑し、露骨な人権侵害に批判的な世界の指導者を公然と罵っている。

 信教の自由、人間の尊厳と権利への希望は、金一族の”鉄拳の支配”の下で、大きく失われた。北朝鮮は憲法で「信仰の権利」を認めているが、共産主義は宗教的信念と両立しないとし、「宗教は阿片」というマルクス主義を信奉する金政権の下では有名無実だ。

 「様々な調査・研究によると、この無神論国家では、国民の大半が無宗教か「神の存在は証明することも反証することも できない」という不可知論者で、朝鮮シャーマニズムと天道教に強く影響される形で亡霊や霊魂、占い、生まれ変わり、あの世を信じているのだという。

 そうした中で、国連の報告などによれば、北朝鮮には仏教徒とキリスト教徒の小さなコミュニティが存在するとされているが、自宅外で宗教を実践すれば、虐待と拷問に遭う。2014年の国連人権理事会報告によると、北朝鮮のキリスト教徒は、国が管理する教会以外で活動すれば「迫害と拷問」に直面する、としている。1900年代、キリスト教は朝鮮半島への布教活動を活発にし、今の北朝鮮の地域には約2000の教会が存在し、10人に3人がキリスト教徒だったこともあった、と、北朝鮮の信徒たちを支援するカトリックの慈善団体関係者は語っている。

 第二次世界大戦が終結し、日本による支配が終わると、朝鮮は2つに分裂し、残忍な朝鮮戦争と共産主義者による北部地域の支配、北朝鮮の成立となり、数百万人が拷問、虐殺、飢餓、病気で亡くなった。

 北の共産主義政権は、朝鮮戦争で南の政権ー韓国ーを支持した米国と西側への偏見から、発足当初からキリスト教徒に対して敵対的で、迫害や拷問から逃れるために多くのキリスト教徒が韓国に逃げ、北のキリスト教徒は激減、教会は衰退した。現在の韓国の文大統領も北から逃げて来たカトリック信徒の息子だ。

 韓国の平壌教区にあるカトリック北東アジア平和協力研究所によると、北朝鮮には、敵対的な政権の下でも、キリスト教の信仰はまだ生き続けており、首都の平壌に4つの教会が存在し、うち二つはロシア正教会で、カトリックとプロテスタントの教会は一つづつ、という。「金政権が教会の存在を認めるのは、『寛容な国家』のイメージつくりの一環です」と関係者は説明している。

 カトリックの場合、平壌の長春大聖堂が作られた後、1988年に国家主導で「朝鮮カトリック協会(KCA)」が設立されているが、これは、「最も近い同盟国であり、後援者」である中国の「中国天主愛国協会」の北朝鮮版だ。KCAは「北朝鮮国内に約,000人のカトリック教徒がいる」と主張しているが、関係者は「実際の数は800人以下」と見ている。

 またKCAは2014年の教皇フランシスコの韓国訪問中に同国での祈祷会への出席を拒否した、と伝えられている。訪韓の際、教皇は、朝鮮半島が対立を克服し、平和を確立できるように願い、分裂の苦しみの大きさを理解し、終結を祈られた。

 祈りと希望は、世界中で苦しんでいるキリスト教徒や他の北朝鮮の人々が貧困、迫害、自由と権利の欠如という”十字架”に耐える力になり得るが、それだけでは十分でない。これまで何十年もの間、朝鮮統一のための外交努力が繰り返されてきたが、地域の平和と和解のために北朝鮮と関わる努力は実を結ばず、実現したのは”会合”と”声明”だけだ。

 世界の指導者たちは北朝鮮の人々の窮状を忘れてはならない。北朝鮮の人々のために、問題に対処する適切な方法を見つけねばならない。そして、バチカンが率いる世界の教会も北朝鮮の外交的孤立を終わらせるための努力をすることができる。バチカンが共産主義中国と協議し、”仲介協定”を結ぶことができれば、何百万の北朝鮮の人々の惨状を終わらせるための、道徳面からの力となるはずだ。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。

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2021年4月5日