・中国問題で、バチカンも米国政府も互いを決めてかかる危険を冒している(Crux 解説)

(2020.10.1 Crux  Editor John L. Allen Jr.)

 ROME-何年にもわたって、私は時折、バチカンと米国の間の文化的ギャップについて話したり、作品を書いたりするように、依頼されてきた。依頼を受ける時、通常、「米国は火星から、バチカンは金星から」というタイトルを選ぶ。この二つがちょうど異なる惑星にいるように感じることがあるからだ。

 その理解の最新の章が今週、改めて示された。米国のポンペオ国務長官とトランプ政権の他の幹部の何人かがバチカンのカウンターパートとの話し合いのためローマにおり、中国に関する双方の意見の不一致の空気に包まれている。

 昨日、米国大使館が主催する外交と宗教の自由に関するシンポジウムに、ポンぺオ国務長官はギングリッチ駐バチカン大使らを伴って参加し、バチカンはパロリン国務長官がギャラガー外務局長を伴って参加した。ポンペオはさらに今日1日、バチカンでパロリンとギャラガーと私的会談を開く。

 ポンぺオは9月18日付けの米誌FirstThingsに寄稿し、「中国が、キリスト教徒だけでなく、ウイグル人などのイスラム教徒、法輪功の信徒、チベットの仏教徒などの信徒たちを迫害し、残忍な扱いをしているにもかかわらず、沈黙を続け、道徳的な権威を失うリスクを冒している」と教皇フランシスコとバチカンを強く批判しており、その直後のローマ入りとなった。そして、このシンポジウムが開かれたのは、トランプ大統領がカトリックを含む諸宗教の信徒たちの支持を増やし、再選を勝ち取ろうとする大統領選挙の直前の時期でもあった。

 シンポジウムで、バチカンの対中政策について直接不満を述べた米国側参加者はいなかったが、全員が中国について厳しい姿勢を見せた。その中でポンペオが一番踏み込んだ発言をし、信教の自由を守るために、バチカン側に「勇気ある道徳的な証し」をするよう促し、「今日、中国ほど信仰の自由を脅かしている国はない」と強調した。そして、中国における迫害の実態を挙げ、「世界は注目している… 自由を愛する人々がこの課題にどのように取り組んだかは、歴史が判断するだろう」と言い切った。

 バチカン側は、パロリン国務長官とギャラガー外務局長はシンポジウムの間は礼儀正しく振る舞い、会場を出て、ローマ市内のウェスティン・エクセルシオールホテルのロビーに足を踏み入れた際も、その姿勢が大きく変わることがなかった。記者からの質問に対しても、特段、慎重には見えなかった。

 だが、パロリンは、ポンぺオがFirstThingsに寄稿した記事に「バチカンは驚かされた」と公言し、「国務長官のローマ訪問は以前から予定されていたと」ものであり、パロリンとの会談は、そのような懸念を表明する場として適当だった」と批判。外務局長は、ポンぺオが教皇との会見を希望したが、「米大統領選挙に近すぎる」という理由で断ったことを明らかにし、パロリンもそのことを確認した。

 こうした全体の動きを見ると、双方が互いを傷つけ合うような思い込みを冒す可能性があるように思われる。

 バチカン側は、ポンペオと彼の同僚たちが、大統領選でトランプへの有権者の支持を集めるために、中国問題で教皇に対して厳しい姿勢を見せる政治をしている、との疑いを抱いている。だが実際は、米国の外交担当者の頭の中で時を刻んでいる時計は、大統領選挙がある11月3日ではなく、バチカンが中国の司教任命に関する暫定合意を更新しようとしている10月末を指している。暫定合意が、中国の暴虐についてバチカンを黙らせ、中国における教会の支配を共産党政権に効果的に委ねさせる「悪魔との合意」だ、と信じているからだ。

 それゆえ、ポンペオと彼の同僚たちは、姿勢を改めるようバチカンを説得する最後の努力を始める決断をした。どう考えても、トランプへの投票をせかすだけのことではない。米国の大多数の有権者は、バチカンの対中政策がどうなっているのか知らず、さほどの関心もないだろう。大統領選挙を目前にした米国の外交担当者が、まったく”非政治的”だということはないが、東西冷戦時代の米国のタカ派がソ連を「邪悪な帝国」と見なしたように、彼らの後継者は、中国が「邪悪さを増している」と確信している。彼らの強硬路線は単なる見せかけではない。

 米側には、中国で起きていることに対してバチカンが軟弱だ、と見ているふしがあるが、実際は、パロリンやギャラガーは、地上で起きている現実を非常によく知っている。世界中の司教、司祭、宣教師、信徒のネットワークを通じて、米国を含むあらゆる世俗的な国家の羨望の的である”戦場で戦っている部隊”の情報にアクセスできるからだ。そして、バチカンは単に”悪い役者”に対処する方法について、世俗国家とは異なる外交哲学を持っています。時間がかけて対応することが、孤立させたり、対立したりするよりも優れた戦略であり、忍耐力があれば、結果として、小さな利益から大きな利益を生み出すことができる、と信じているのだ。

 パロリンはシンポジウムで、次のように語っている。「私たちは”小さな一歩”を重視する政策をとります… それぞれは、印象的でなく、派手でなく、最初は素晴らしい結果をもたらさないように見えても、より大きな宗教的自由への一歩になるのです」と主張した。

 常にあることだが、読み間違いのリスクは避けることができないが、管理は可能。だが、意見の不一致が個人的な敵意に変わり得る。相手が話すことを本当に信じていても、誰かが邪な動機からあなたを非難すれば、苦しめられる。

 少なくとも中国では、アメリカ人は単に政治をしているように見えないし、バ​​チカンはそれを否定していない。双方とも、相手について受け入れることができたなら、双方の間のもつれた結び目を解くことはできないにしても、少なくとも、このちくはぐなカップルを結ぶロープが酷く擦れることがなくなるだろう。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2020年10月17日