中国政府・共産党による香港、新疆ウイグル自治区、チベット自治区などでの信教の自由を含む人権侵害が激しさを増していると伝えられる中で、世界60か国以上の民間人権団体が9日、共同声明を発表。国連に、中国政府の人権侵害を扱う独立の国際的な仕組みを早急に構築する必要を訴え、国連のアントニオ・グチエレス事務総長とミシェル・バチェレ人権高等弁務官に対し、中国による広範な人権侵害に対処する責任を負うように要請した。
中国政府・共産党の国内外での人権侵害の動きは、6月末の香港に対する国家安全維持法の導入以来、さらに激しさを増し、国際社会からの批判の動きが高まっており、今回の世界の人権団体を網羅する声明の発表に至ったわけだが、そうした中で際立っているのは、本来なら、信教の自由を核とする人権の擁護の先頭に立つべきバチカンが沈黙を続けていることだ。
中国政府・共産党と事を構えることが、中国国内に6000万人いるとされるカトリック信徒の安全を脅かすことになる、さらに言えば、今月下旬に迫った中国国内の司教任命に関するバチカン・中国暫定合意の期限を前に、現在進められていると言われる延長交渉に影響を与えたくない、という思惑が、沈黙の背景にある、と言われる。だが、中国国内では、カトリックだけでなく、ほぼ同数いるとされるプロテスタント各派、あるいは仏教など多宗派の信徒たちも、政府・共産党への服従を強制され、それを拒む信徒に苛酷な迫害がなされていると、繰り返し現地から伝えられている。既に、信徒の安全は強く脅かされているのだ。
現在の沈黙は、バチカンがナチス・ドイツのユダヤ人大虐殺を知りながら、信徒たちを守ることを理由に、沈黙を続け、結果的にその恐るべき蛮行を黙認した、と国際社会から糾弾され、謝罪の追い込まれたという過去を連想する関係者も少なくない。現在の国際社会の動きの中で、今後のバチカンの振る舞い、特に”暫定合意”にどう対処するのか、期限が迫る中で、対応が注目される。
共同声明に参加したのは、Human Rights Watch, Freedom House, International Service for Human Rightsなど320団体。7月に国連の独立人権問題専門家チームが中国当局による深刻な人権侵害の実態について、異例の報告を発表し、国連総会に対して「中国政府に基本的人権を守るようにさせる決定的な措置」を提言したのを受ける形で、声明が出された。
声明では、香港から新疆ウイグル、チベットなど中国全土にまたがる中国当局による人権侵害の動きに早急に対処する必要を訴え、さらに、そうした国内の人権侵害にとどまらず、海外にも、人権活動家を狙った工作、人権運動の監視、報道検閲など人権無視の動きを拡大させ、国際的な人権侵害が深刻化している現実を指摘。
また、「国連のメカニズムを使って救済を求めようとする中国の活動家を迫害し、世界中の国々で起きている深刻な人権侵害と国際犯罪の実態を精査する動きを妨げるすることで、国連人権理事会の権限を捻じ曲げている… 自国についての人権記録を国連が検討することを”圧倒的な干渉”をもって拒否している」と中国の姿勢を強く批判している。
声明に参加した International Service for Human Rightsのホームページによると、.同団体のアジア担当のサラ・ブルックス氏は「中国の人権軽視はもはや、自国民のみにとどまらなくなっています。 国際的な基準を書き換えようとする独裁者たちを支援し、国際的な人権擁護の取り組みをかつてなく困難にしている」と警告し、「今回の共同声明は、世界中の組織が連合し、自分たちの共同体社会のために立ち上がる、初めての取り組みです」と強調した。