・「香港の民主活動家の懲役判決」は”キリスト教徒への迫害”と見るべきか?(Crux)

Should Hong Kong crackdowns count as ‘anti-Christian persecution’?

Joshua Wong, Ivan Lam and Agnes Chow. (Credit: Vincent Yu/AP.)

(2020.12.4 Crux Editor John L. Allen Jr.

 ローマ発 –香港の民主派メディア王黎 智英氏の逮捕と並行して、3人の若い民主活動家に今週言い渡された懲役刑を伴う有罪判決は、香港への支配権を強化し、1997年の英国から中国への香港返還の際に約束された「一国二制度」の原則を骨抜きにする中国の政策の最新の章として受け取られた。

 民主運動家に対する厳しい取り締まりには、中国が中国香港国家安全維持法の施行であからさまにした香港における民主主義の終焉への、香港市民の強い反発を恐れ、徹底的に抑え込もうとする狙いがあることは間違いない。

 香港での最近の一連の出来事で、ほとんど気付かれなかった重要な面がある。それは、今週逮捕・勾留され、あるいは有罪判決を受けた4人の民主活動家のうち3人は敬虔なキリスト教徒であり、うち2人はカトリック教徒ー黎 氏と周 庭氏ーだということだ。

 周 庭氏は2日、香港市当局が無許可と見なす2019年の民主化運動を組織したことで10か月の懲役刑を言い渡された。彼女は翌3日に24歳の誕生日を独房で迎えている。

 2日に逮捕、起訴され、保釈請求も3日に却下された黎 氏は先月、米国の信教の自由や人権に関するシンクタンク、Acton Instituteから表彰されたばかり。「神の恵みへの信仰が、私が負わねばならないいかなる苦しみも受ける準備をさせた」と預言的な言葉を語っていた。

 周氏とともに、2日有罪判決を受けた黄之鋒氏は、3人のうち最も刑が重い13か月の懲役刑を課されたが、自分の信仰が自身の政治活動に大きな影響を与えていることを率直に語る福音派のキリスト教徒だ。

 香港の総人口に占めるキリスト教徒の割合は12パーセントにとどまるが、そのエネルギーは、言論・信教の自由を含む民主的な政治・社会体制を押しつぶそうとする中国政府・共産党とそれに従う香港政庁の動きに反対する運動、民主化運動に広く浸透して来た。昨年に、運動が多くの民衆を巻き込んだ時には、“Sing Hallelujah to the Lord!”がデモ行進の際の合言葉になった。

 それには確かに、ある程度は戦術的な狙いもあった。それまで香港の規則では、政治的な抗議集会が許可されない場合も、宗教的集会なら認められるケースが多かったからだが、多くのリーダーたちの宗教的な信条をも反映していた。 このように見てくると、いま香港で起きていることは、反キリスト教的な迫害の一形態として見るべきなのだろうか?

 そのように決めつけることは難しい。というのは、3人の民主活動家の若者たち、そして黎 氏が、キリスト教の信仰のために、当局の取り締まりの標的にされている、という証拠はほとんどないからだ。3人の若者が投獄されたのは、宗教的信念によるものではなく、中国政府・共産党の権威に逆らったことによるものであり、黎 氏も有罪判決を受ければ、同じ理由が付けられることになるだろう。
 一方の当局の取り締まりの最高責任者である香港政庁の林鄭月娥・長官も、香港のカトリック系女子校に通ったカトリック教徒だ。そして、抗議活動を支持せず、争いに巻き込まれない道を選んだこと、当局と良好な関係にある、香港社会で主導的な数人の人物を含む多くのキリスト教徒もいる。
 だから、香港での出来事は、宗教ではなく、政治に関するものであり、そこに宗教を関連づける理由はない、と強弁することができるだろう。たしかに、誰も宗教を活動に”引きずり込む”ことはない。だが、香港のドラマの登場人物の多くは、宗教的な信念に動かされている、というのは、仮定の話ではなく、事実だ。
 周氏は昨年のマスコミとのインタビューで語っているー「私はカトリック教徒です。社会運動への参加は、自分が信じている宗教に影響されていると思います… 宗教的な信念、私たちがカトリックの教えと聖書から学んだことは、『香港の人々の自由と権利のために戦う』という私たちの信念と活動に勇気を与えてくれます」。

つまり、香港での出来事にある宗教的な要素を無視することは、実際には人為的、不自然だ。別の言い方をすれば、宗教的迫害と見なされるものについて考えることの焦点は、迫害に苦しむ人ほどに、迫害をする側の動機に当てるべきではない、ということだ。

このことを考える時に、エルサルバドルの聖オスカル・ロメロ大司教のことが参考になる。彼は 1980年、ミサを捧げている最中に拳銃で撃たれ、殺害された。殺人は、おそらく宗教的憎悪によって動かされたのではない。エルサルバドルの人口の大半がカトリック教徒であることから、彼自身がカトリックであった可能性が高い。そして、時の経過とともに、教会は、重要なのは殺人犯の動機ではなく、聖人が撃たれる立場に身を置いた動機だ、と考えるようになったー彼の深いキリスト教信仰に基づいて故意に、そして繰り返し危険に身をさらしたのだ。それが2017年に列聖された理由となった。

 その同じ年、教皇フランシスコはカトリック教会の列聖の手続きを改め、他の人のために自分の命を犠牲にする人のための新しいカテゴリーを作ったー生命への危険が宗教的憎悪によって煽られない場合も、犠牲が宗教的信仰によって形作られることを列聖の要件としたのだ。

 最初の設問に戻ろう。香港の現在の出来事と宗教の関係を考える際に、有罪判決を受けた人々の行動の原理となっている者を忘れること。そもそも4人は、刑務所で何をしているのか、そして刑務所に入れられている間に、何が彼らを支えるのだろうか?これらの問いに対する答えが、少なくとも部分的にはキリスト教に関係する場合、当局が彼らにしていることは、結局のところ「反キリスト教の迫害」と見なされるべきだろう。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2020年12月5日