・「第18回東京-北京フォーラム」全体会議・パネルディスカッションー「厳しい世界情勢、日中はどういう存在になるべきか」

(2022.12.7 言論NPOニュース)

 言論NPOと中国国際伝播集団が主催する「第18回東京-北京フォーラム」は12月7日(水)、日本と中国をオンラインで結び開幕。午前の開会式と基調講演に続いて、「世界の平和と国際協調の修復に向けた日中両国の責任~日中国交正常化50周年で考える」と題するパネルディスカッションが行われました。

 「ロシアのウクライナ侵略後の世界の平和秩序をどのように修復するのか」、さらには「北東アジアの台湾海峡での懸念が高まる中で紛争を避けるために宮本.jpgはどうすればいいのか」という国際社会が直面する難題について、東京と北京、上海の3カ所から両国の有識者8人が1時間半にわたって活発な議論を交わしました。

 冒頭、日本側司会を務める元駐中国大使の宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表)が「ロシアのウクライナ侵攻、台湾海峡問題、世界経済の競争と分断に陥る中、国際社会は極めて厳しい十字路に直面している。世界の未来にとって日中両国はどういう存在になるべきなのか」と問題提起しました。

cyo.jpg 中国側司会の趙啓正氏(元国務院新聞弁公室主任、中国人民政治協商会議第11 期全国委員会外事委員会主任)も宮本氏の主張に賛意を示した上で、12月7日に北京・人民大会堂で開催された江沢民元国家主席の追悼大会に言及。「江沢民氏は中日関係に大きな期待を寄せていた。国交正常化50年で数多くの関係者が両国の関係改善に努力した。『朝日新聞』論説主幹で北京で亡くなった若宮啓文氏が『日本海に荒波があって、どうやって同じ船に乗ることができるのか』と書かれたが、百年に一度の大変革の時代に真摯に向き合うべきだ」と語り、議論がスタートしました。

 

 

*「中日協力でチェンマイ・イニシアチブの実体化を推進すべき」

朱.jpg 中国元財政部副部長の朱光耀氏は、1980年代から現代に至るシビアな国際金融市場環境に触れた上で、東アジアにおける経済危機に対応することを謳った2000年5月のチェンマイ・イニシアチブ(CMI)の重要性に言及。「中日両国が協力してチェンマイ・イニシアチブの実体化を推進すべきだ」と訴えました。

 

 

*「中国指導者が『天の下の道理を尊び 民を慈しむ』方向に進むか注目」

五百旗.jpg歴史ある「アジア調査会」会長など要職を務める五百旗頭真氏(兵庫県立大学理事長)は国交正常化50周年、来年の友好条約締結45周年の節目を迎える一方で、両国の政治環境が改善されないことに懸念を表明。「中国は世界の運命」の方向性を握っていることから、為政者は「天の下の道理を尊び 民を慈しむ」方向に進むかどうか、国際社会が注視しているとの見方を示しました。

tei.jpg 前中国駐日本大使の程永華氏(中日友好協会常務副会長、中国人民政治協商会議第 12 期全国委員会外事委員会委員)は世界経済の「頓挫」や「新冷戦」「覇権主義」などが懸念される現状について、歴史上「百年に一度の変化が起きている」と分析。その上で「21世紀はアジアの時代」であり、戦略的互恵関係やRCEP(地域的な包括的経済連携)協定の重要性を改めて唱えました。

河野.jpg

 

 

*「消えた”戦略的互恵関係”、日中防衛交流の早期再開が必要」

 

国際安全保障の専門家である河野克俊氏(前自衛隊統合幕僚長)は「第一次安倍政権─福田康夫政権時代の『戦略的互恵関係』が最近全く使われなくなった」と指摘した上で、ウクライナ戦争において、ロシアの「核使用」に対して中国側が明確に反対を表明したことなどを評価。国際的に懸念が高まる台湾海峡問題に関しても「尖閣諸島国有化を経て日中間の防衛交流が2013年以降途絶えている」として、早期再開の重要性を求めました。

中国国際戦略研究基金会上席研究員の張沱生氏は、台湾海峡問題を巡って米国の関与が強まっていることを念頭に「冷戦がアジア地域にやってきそうだ」と不快感を表明。同時に日中関係が悪化した理由について①相互信頼の弱体化②グローバリゼーションの進展③パンデミック④歴史認識──などに起因する問題を挙げて、「新しい大国関係をつくらねばならない」と主張しました。

 

*「日中の共通項は経済に。両国共通の土俵づくりを」

 

宮本.jpg 司会の宮本氏が「日中の共通項は経済にある」との認識を示し、元日銀副総裁の山口廣秀氏(日興リサーチセンター理事長)の意見を求めました。

yamaguchi.jpg 山口氏は「今ほど政治と経済を切り離して語れることはそうそうない。各国間の協調によって不安定化を避けている」との見解を示しました。ウクライナ戦争、北朝鮮ミサイル、台湾海峡問題などアンチ・グローバリゼーションを進める不安定要因が山積する中で、日中両国ともに共通の対応を求められると指摘。同時に「中国が改革開放路線を堅持してくれるのかどうか、日本の経済界は心配している」と述べ、両国共通の土俵づくりの構築が重要との認識を明らかにしました。

一連の発言を受けて、改めて宮本氏が「世界や日中が大きな問題を抱えている中で、両国がどのような関係を目指すべきか」と問題を提起しました。

五百旗頭氏は「中国が『核不使用』を表明した意味合いは大きい」と歓迎した上で、最近のゼロコロナ政策にも変化が生じていることに言及。強硬路線から「やや柔らかな路線に移ってきている」として、今後の方向性を注視する考えを示しました。

朱光耀氏は先の発言に続いて、チェンマイ・イニシアチブを念頭に「日中は協力を強化しなければならない」と指摘。その上でマクロ経済、地域政策、サプライチェーンなど各種政策を整理するためにも「今回のフォーラムは有効だ」と語りました。この発言を受けて、山口氏が「世界経済はディスインフレ、デフレからインフレの時代に変わりつつある」と懸念を表明。マクロ経済分野において、日中両国がどのような考えを持っているのか示すことも、世界経済にとって重要になると強調しました。

 

*安全保障分野で日中に意見の相違も明確に

 

また、安全保障分野について程永華氏が「今、わざと相手を敵だとみなす動きがあるが、日中間には平和友好条約がある。さらに交流を深めて対話を進めていくべきだと」と語りかけました。

一方、河野氏は、日本国民の間には尖閣諸島を巡る中国の行動に対して「脅威がある」と指摘。仮に台湾有事が生じれば、「日本の安全保障上対応せざるを得なくなる」と釘を刺しました。

cyo.jpg これに対して中国側司会の趙啓正氏は「中国からすると、日本のロジックは受け入れられない」「米国の空母、偵察機が台湾海峡付近をパトロールしているが、日本の基地からやって来ている。日米同盟も我々に不安を与える」と反論しました。

張沱生氏が「どのような中日関係が望ましいのか」と問題提起し、互恵関係や「一つの中国」原則の遵守などが基本になると指摘。同時にさまざまなレベル・分野での対話の回復をはじめ、APECなど国際的な枠組みでの議論が求められると主張しました。

日中双方の意見が真っ向から対立しそうな気配になったところ、五百旗頭氏が「ウクライナ戦争を終結させるイニシアチブを、日中が共同で働きかけることは重要だ。成熟した大国の雅量を示してほしい」と訴えました。

最後に司会の宮本氏、趙啓正両氏が「対話を基礎としたプラットフォーム」設定の重要性を確認。「まずはこの『東京─北京フォーラム』を大切にしよう」と語りかけて、1時間半にわたるパネルディスカッションは終了しました。

 

 
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2022年12月9日