(2020.9.28 Vatican News English Section)
カトリック香港教区管理者の湯漢・枢機卿はこのほど、教区の教会共同体に対し、香港で社会不安が続く中で教会の教えに導かれるように強く求めた。
湯枢機卿は、最近、教区の聖職者、信徒宛てに出した書簡で、過去1年間、香港を揺がしている社会的混乱と分裂について言及。
「正義、民主主義、そして現在よりもまともな生活の質の確保についての強い願望」に香港政庁が速やかに対応するよう期待するのは、「十分に正当化できる」と言明。同時に、香港の人々の間の分裂は、カトリック教会の共同体にも入り込んでいることを認めた。
*教会の教え
枢機卿は書簡で、社会的および政治的問題はしばしば複雑であり、「単純明快な、あらかじめ用意された答え」が見つからない中で、信徒たちが異なる見解を持つのは可能、としつつ、「視点の違いが、教会を分裂の道に踏み込ませてははなりません。 私たちは、第二バチカン公会議の教えを心に留めておく必要があります。それは、『すべてのカトリック信徒は、教会の信徒たちの共同性を維持するために努力する必要があり、自身の権利を行使する時においても、教会の共通善を考慮に入れねばならない』ということです」と強調。
香港における社会的混乱がもたらしたものの一つは、社会政治改革に関しての立場を共有したり、行動を支持したりしない人々に対する、香港の一部の人々の「嫌悪」だ、と指摘した。
また枢機卿は、今の時期に、「教会が、国の統治制度として『民主主義』を支持することを改めて言明するのは適切なことです」と述べた。
そして、「教皇フランシスコは使徒的勧告『Evangelii Gaudium(福音の喜び』で、『平和、正義、友愛において人々を作り上げることにおける進歩は、献身的で責任ある市民によって達成できる』と述べていますが、そのような進歩は、前に進むプロセスー人々が、結果を急ぐことに幻惑されず、ゆっくりと、確実に前に進むこと、です。平和、正義、友愛の社会の構築に貢献するために、私たちは『預言者』と『僕』の2つの果たすべき役割を持っています。私たちは『時のしるし』を識別し、『地の塩』『世の光』、そして人間社会の『パン種』のように行動しなければなりません」と説いている。
*目的は手段を正当化しない
さらに、枢機卿は、「社会政治改革と社会の幸せのための、私たちの決然とした努力は、教会の社会教説によって導かれる必要があります。そして、何よりも、イエスが山上の説教で示された八つの幸いの教えを実践せねばなりません… 他人を、憎み、戦う『敵』として扱うことは、キリスト教の信仰と矛盾していることを知る必要があります」と述べ、「キリストは十字架につけられることで、信徒すべてが従うべき模範を示しました。解決しなければならない対立が何であれ、正義と平和を達成するために、『愛と赦し、和解』が常に優先されねばなりません。目的は手段を正当化しないのです」と信徒たちに訴えた。
続けて、司牧者、司祭たちに対して、「信者を啓発し、教会の社会教説で良心を形成し、バランスの取れたアプローチを採用し、社会的関心をもつ活動に従事する際に、正しい行動を取ることができるようにする必要があります」と述べる一方、司祭たちは「社会的に関心のある分野で、自分たちの影響力を行使すべきではない」と注意を与えた。
枢機卿はまた、教会に戦いを挑んだり、批判したり、あるいは教会の指導者たちを誹謗中傷したりする信徒は、悪い模範を示し、教会に分裂を引き起こしている、と批判。教会の位階制秩序との交わりを維持することによってのみ、「カトリック信徒は、第二バチカン公会議が提唱する ‘sense of faith’ (sensus fidelium)を真に証しすることができるのです」と強調した。
*挑戦の最中での希望
書簡の中で、枢機卿は、「多くの信徒たちが、香港の将来について暗い予想をしています… それは、法の支配と政治改革の不確実性と、新型コロナウイルスの大感染が香港の経済と市民の生計に耐え難い影響を与えていることに基づくものです」と述べたうえで、「私は真剣に呼びかけたい… 将来に強い不安を持つ信徒たちに、イエス・キリストに揺らぐことにない希望を置くように…」と呼びかけた。
また、「昨年来の社会的混乱と現在のコロナ大感染が香港に大きな影響を及ぼしており、今後数年にわたって、私たちの福音宣教の使命が新たな挑戦を受けると予想される」とし、「神が私たちの人間の運命の鍵であり、人類家族の強い連帯感が求められており、そして教会生活の多様性を可能にしつつ、共同性を維持する重要な鍵」と結論付けました。
(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)