「民族団結進歩促進法」は、習近平政権が「中華民族共同体意識」の強化と標準中国語教育を推進するために制定した法律です。2026年3月12日に可決され、同年7月1日に施行されました。同法は、国外の組織・個人による民族の団結を損なう言動も処罰対象(域外適用)とする規定を含んでおり、国際社会から懸念の声が上がっています。

中国の新しい法律、「民族団結進歩促進法」が、7月1日に施行された。
Bitter Winterが繰り返し非難しているように、そして、中国共産党・統一戦線工作部が発行した施行ガイドラインに記載されているように、この法律は、「中国国家の安全」のため、中国に住む多様な民族の文化的アイデンティティを押しつぶし、香港、マカオ両特別行政区に住む人々を威圧し、人権を犠牲にさせ、中華民国(台湾)の人々を脅して服従させることが狙いの過酷な法律だ。
新法によって直接的な影響を受けるのは、チベット高原に住むチベット人、新疆ウイグル自治区(東トルキスタン)に住むウイグル人、そして内モンゴルのモンゴル人だ。
当然のことながら、この法律が施行されるわずか数日前、長年苦しんできたこれらのコミュニティの代表者たちが、オランダのアムステルダムの街頭に出て抗議の声を上げた。
中国の人種政治に関する第一人者であるジェームズ・レイボルド豪ラ・トローブ大学名誉教授は、中東のテレビ局アルジャジーラの取材に応じ、「中国の少数民族にとって、この法律は、文化的・政治的自治の余地をさらに狭めるもの。チベット人、ウイグル人、モンゴル人、その他の非漢民族に対し、『お前たちの言語、歴史、アイデンティティは、中国共産党が好む『単一の中国国家』という物語に合致する場合にのみ保護される』と告げているのだ」と解説した。
言語による強制
統制を強化するために設計された法律だ
民族団結進歩促進法第15条は、これらの少数民族コミュニティに、”共通言語”として中国語を押し付けようとしている。
「学校その他の教育機関は、教育および指導の基本言語および文字として国家共通言語および文字を使用するものとする… 国は、就学前の子供たちが中国語を学び、義務教育を修了した青少年が国家共通言語および文字の基礎を習得することを奨励する」。
これらの法的規定に違反することは犯罪と見なされ、第6条の「国家の統一を損なう行為、または国家の分裂を生み出す行為は禁止される」が適用される。
さらに第58条で、「本法の関連規定に違反し、国家の統一と進歩を損なう組織または個人は、県級以上の人民政府の関連部門によって、それぞれの責任に従って速やかに停止され、是正を命じられ、法律に従って処罰される。当該行為が公安行政違反に該当する場合は、公安機関は法律に従って公安行政罰を科し、当該行為が犯罪に該当する場合は、法律に従って刑事責任を追及する」と規定している。
このようなことは、学校教育に限定されない。民族団結進歩促進法第10条は、「我々は、民族、宗教、人権を口実とした中華人民共和国に対するあらゆる誹謗中傷、中傷、封じ込め、抑圧、浸透、破壊行為に断固として反対する」と言明。
そして、この法律の意図を露骨に表明したのが宗教について述べた第46条だ。
「宗教団体、宗教学校、宗教施設は、宣伝と教育を行い、中華民族の共同体意識を強化し、中国における宗教の中国化の方向性を堅持し、宗教が社会主義社会に適応するよう指導し、宗教関係者と信者が愛国心の伝統を継承するよう指導し、民族の調和、宗教の調和、社会の調和を促進する」。
*「国外で中国共産党の行為を批判する”非中国人”も標的となる」と欧米の議会が懸念表明
この新たな法律は、中国系移民にとって大きな悩みの種となっている「国境を越えた弾圧の継続するように公然と設計されている。理論的には、中国系移民だけでなく、外国にいて中国共産党を批判する非中国人も標的となる可能性がある。第63条には、「中華人民共和国の領土外において、国家の統一と進歩を損なう行為、または中華人民共和国に対する民族分離主義を扇動する行為を行った組織および個人は、法律に従って法的責任を問われる」とされているからだ。
このことに対しては、欧米の議会などから既に懸念の声が出ている。
米国下院中国特別委員会のジョン・ムーレナー委員長は6月30日、「中国共産党のディストピア的で欺瞞的な名前の『民族団結進歩促進法』は7月1日に施行される。この法律は、中国共産党の残虐性と偏執症の”醜いエスカレーション”であり、中国はこれを利用して国境の外に住む批判者への嫌がらせと脅迫を続けるつもりだ」と強く批判。
同特別委員会は7月1日に声明を出し、「我々は、中国共産党に『イデオロギー的服従』を要求するこの法律の文言に深く懸念している。この法律は、「中国政府によって『民族団結の進歩促進を損なっている』とみなされた人々は、国外にいても、中国で法的責任を問われる可能性がある、と規定している」と指摘。「北京(中国政府・共産党)の抑圧を批判する人々を訴追する、ほぼ無制限の権限を、北京に与えるものであり、国境を越えた抑圧を正当化するための法的枠組みの構築をさらに推し進めるものだ」と強く非難した。
ベルギーのブリュッセルにある欧州議会も同様の反応を示している。
欧州議会は、この法律の施行が明確になった4月30日の決議で、「同化政策を助長し、文化的、宗教的、言語的自由を制限するものであり、国際法上の中国の義務に反するものとして非難する」と言明。さらに、「EU域内に居住する個人に対する国境を越えた弾圧」を正当化するものと非難し、EU加盟国に対し、「中国との犯罪人引渡条約を停止するよう強く求める」と要請。EU理事会に対し、この新法の責任者に対して「EUのグローバル制裁制度」を適用するよう求めた。
欧州議会は、中国共産党が様々な名目で実施している宗教や民族集団に対する組織的な弾圧のもう一つの重要な側面、チベット仏教の弾圧にも言及,声明で「(チベット仏教指導者の)ダライ・ラマの後継者は宗教上の問題であり、チベット仏教の伝統のみに従って決定されるべきだ」と言明した。中国共産党がチベット仏教弾圧の一環として、チベット仏教指導者の後継者選定という最重要課題にについて、党の都合のいい後継者が選ばれるよう操作しようとしているのは、関係者の間で周知の事実であることを踏まえたものだ。
*民族団結進歩促進法は、”法的文書”ではない、中国共産党の少数民族への優位を確立する”政治的教義”だ
欧米の法律専門家は、この法律は「抑圧的な内容だけでなく、その構造にも注意すべきだ」と指摘している。根本的な価値観を欠き、政治的なスローガン、マルクス主義的なレトリック、習近平・国家主席の説教をもとに作り上げられている、ということだ。
「民族団結発展促進法」は前文で、「中国の特色ある社会主義が新たな時代に入るにあたり、中国共産党はマルクス主義の民族理論を中国の民族問題の具体的な現実と中国の優れた伝統文化と結びつけることに注力してきた」とし、第2条で、「民族の団結と進歩の事業は、中国共産党の全体的な指導に固執し、中国の特色ある社会主義という偉大な旗印を高く掲げ、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論を堅持し、習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想を全面的に実施する」と述べている
法的文書というよりは、中国共産党が国内の少数民族の間で優位性を確立するための”政治的教義”に近い。少数民族の言語と文化を保護するという道徳的義務を無視している。
*チベットも、新疆ウイグルも、内モンゴルも…既に行われている弾圧が、強化。制度化される
法律の条文に、鄧小平(1904年~1997年)の名前が出てくるのも場違いだ。鄧小平の改革主義を擁護するつもりはないが、彼が中国の最高指導者だった時代に、1984年の「地方民族自治法」が制定されたことは認めざるを得ない。この法律は「少数民族の自身の言語による教育」を明確に規定し、「多数派民族-漢民族-による排他的ナショナリズム」を戒めていた。
しかし、習近平国家主席が推進する強硬な”新共産主義”は、その目的に合致する者なら誰でも受け入れるのだ。
1950年に中国人民解放軍の圧倒的な武力による侵略を受け、強制的に中国に併合されたチベット人たちは、この法律に危機感を抱いている。
インドのダラムサラに拠点を置くチベット亡命政府である中央チベット政権(CTA)は「この法律は、民族統一の名の下に、チベット人やその他の少数民族の独自の言語、文化、宗教、アイデンティティを弱体化させることで、彼らの同化を加速する包括的な法的枠組みを提供するものだ」と強い不安を表明している。
CTA首相(シキョン)のであるペンパ・ツェリン氏は、「この法律は、中国語による教育を義務付け、混血コミュニティや異人種間結婚による人口操作を奨励し、国家による監視を拡大し、中国の管轄権を国境を越えて拡大し、批判者や国外に避難を余儀なくされているチベット人たちを標的にすることで、長年の同化政策を『法的義務』に変えようとしている」と訴え、世界の国々や国際機関、人権団体に、この法律に反対するよう求めた。
だが、この法律は長年行われてきた”慣行”を正式な制度とするに過ぎない、と見ることもできる。
中国共産党は既にチベット人の文化的同化を確実にするための措置を講じてきた。チベット人家庭は既に、長年にわたった、子供を国営の寄宿学校に通わせることを義務付けられており、そこでは中国語が主要な教育言語とされ、子供たちは、漢民族文化の枠組みの中で教育を受けている。
それが新法の下でさらに一歩進め、制度化されて、チベットの宗教的慣習、言語、文化的伝統のあらゆる形態の保存が「有害」とみなされ、「分離主義」と解釈され、法的処罰の対象となった。
新疆ウイグル自治区(東トルキスタン)は、中国国内で少数民族が人口の大半を占めるもう一つの地域だ。
そこに住むウイグル族は推定1100万人だが、うち100万から300万人が、いわゆる”再教育キャンプ”(実際には拘置所)に収容されるなど、弾圧が何年も続いています。昨年、ある海外在住のウイグル族は、「私たちの故郷では、中国政府はウイグル語が次世代に受け継がれるのを阻止するためにあらゆる手段を講じている… ウイグル語を教育言語として使用することを禁止し、ウイグル語の本を集めた図書館を閉鎖し、編集者や出版者を容赦なく迫害している」と述べていた。
モンゴル南部では、北京政府は少なくとも2020年以来、モンゴル語に代わる新たな教育政策の実施を試みてきた。抗議活動が起こると、政府は大規模な拘束、再教育プログラム、そして抗議者への強制的な公開「自白」で対応する。モンゴル人が自らの言語と文化を守るためにインターネットに目を向けた際には、モンゴル語のインターネット利用に対する”デジタル弾圧”が行われた。
そして、香港、マカオ、中華民国(台湾)に住む人々にとって、この新法が発する不吉な警告は、「国家の主権、安全保障、発展の利益を意識的に維持し」、「中国文化を共に継承していく」必要があるということだ。
またしても中国共産党による悪法が施行された。
