アルトン卿は、カトリック系慈善団体「苦難に喘ぐ教会への援助(ACN)」が各国に対し、宗教の自由を擁護する世界人権宣言(UDHR)第18条の義務を履行するよう求める請願書の主要署名者の一人だ。
アルトン卿は「相手が中国共産党政権の場合、暫定合意は悪魔と取引をしているようなものだ。ウイグル系イスラム教徒に対する大量虐殺を行い、チベット仏教徒、法輪功学習者、そして中国のキリスト教徒を迫害している政権なのだ」とし、「バチカンは、中国共産党を怒らせることを恐れて、宗教の自由に対する重大な侵害について沈黙を守ってきた」と批判。
さらに、「バチカンは、教皇に忠誠を誓い、共産党政権から迫害されてきた地下カトリック教会を裏切り、共産主義国家の単なる延長に過ぎない『公認教会』を受け入れ、信仰を共産主義イデオロギーに置き換えた」と述べた。
ACNが進めるこの請願書の署名運動について、英国カトリック教会の指導者の一人、ウェストミンスター教区長のリチャード・モス大主教は18日、これ支持する声明を発表。「私たちはキリストにある兄弟姉妹のために立ち上がり、信仰のために苦しむすべての人々を支援し、信教の自由を普遍的な人権として認識する必要がある」と言明した。モス氏は述べた。
Crux Nowはまた、ACN(英国)の広報・渉外責任者であるジョン・ポンティフェックス氏にも話を聞いた。ポンティフェックス氏は、 「宗教的差別を受けているすべての人々のために声を上げることは、キリスト教徒迫害との闘いにおいて極めて重要な要素だ。迫害されているキリスト教徒を擁護するというなら、宗教の自由全般を擁護しなければならない。そうでなければ、ある集団のニーズが他の集団のニーズよりも重要だと考えていることになる。それは、特別扱いを求める行為に他ならない。信教の自由は、決して少数の者だけの権利であってはならない。それは全ての人々の権利であり、そうでなければ何の意味もない」と語った。
アルトン会長とポンティフェックス氏のCrux Nowとの一問一答は次の通り。
問:宗教の自由は「炭鉱のカナリア」のような人権であるとよく言われる。つまり、この権利の侵害は他の権利の侵害を示唆するということだ。この点について詳しく説明していただきたい。
アルトン卿:信教の自由という原則が侵害されるとき、それはしばしば他の人権も危険にさらされている兆候となる。その意味で、それは炭鉱のカナリアのようなものだ。有毒で致死的な化学物質が作業環境に漏れ出し始めていることを鉱夫たちに警告した鳥だ。警告を無視すれば、壊滅的な結果を招くことになる。
ジョン・ポンティフェックス:歴史は、思想、良心、宗教の自由が、国が自由から抑圧へと転落していく際に、しばしば、いや、ほぼ常に、最初に犠牲となることを繰り返し示してきた。信教の自由は、国家または非国家主体による攻撃の格好の標的となりやすく、そのため抑圧勢力は人々を抑圧しようとする際に、まず信教の自由を標的にすることが多い。私が訪れた多くの国々では、迫害が蔓延しているが、そうした国々で地域社会の指導者も住民も、この現象を指摘していた。
問:今日、宗教の自由に対する最も深刻な侵害はどこで起きているのでしょうか?
アルトン卿:信教の自由は世界の多くの地域で侵害されている。中国、北朝鮮、エリトリア、イラン、パキスタン、ナイジェリア、ニカラグアは、そのリストの上位に挙げられるだろう。
ジョン・ポンティフェックス:私たちACNの「世界の宗教の自由に関する報告書」最新版と『迫害され忘れ去られた人々? 』の連続版で明らかにしているように、北朝鮮は宗教または信条の自由に関して人々が最も苦しんでいる国のリストのトップに挙げられている。この国では、聖書を所有すること、宗教宣教師と接触すること、宗教儀式に参加することなどが、拷問や強制労働につながる可能性がある。
他の国々も状況はさほど変わらない。アフガニスタンでタリバンが政権に復帰して以来、宗教的少数派は暴力と組織的な抑圧に苦しんでおり、礼拝所への攻撃も頻繁に発生している。あらゆる証拠が、攻撃と抑圧が悪化していることを示している。
最も懸念される点の一つは、宗教の自由に対する深刻な侵害が最も多く見られるのが、世界の主要国の一部であり、しかもその状況はあらゆる報告によると悪化の一途を辿っているということだ。ここで私が念頭に置いているのは中国のことだ。中国では、国や地方の法律によって、若者や子供たちがほとんどの形態の公的および地域社会における宗教生活から排除されている。
そしてインドでは、宗教的な動機に基づく規制や法律上の規制が急増し、近年著しく悪化している。
問:ACNの請願書は、国連および各国政府に対し、第18条を保護するためのさらなる行動を求めている。彼らにどのような具体的な行動を望むか?
アルトン卿:1948年の世界人権宣言第18条は、信じる権利、信じない権利、または信仰を変える権利を保障している。世界人権宣言の署名国による明白な違反は指摘されるべきであり、違反事例は定期的に国連人権理事会に提出されるべきだ。こうした事例は、英国と違反国との二国間会談でも取り上げられるねばならない。我々はあまりにも頻繁に沈黙し、見て見ぬふりをしている。
ジョン・ポンティフェックス:世界中の国々が、第18条に明記されている宗教または信条の自由の完全な表現に対する新たな取り組みを示すべき時が来ている。これは、宗教の自由の侵害に関与する非国家主体を根絶するという新たな決意、宗教生活や宗教的実践に対する制限を終わらせる法改正、そして宗教の自由へのコミットメントがすべての国家機関、教育機関、企業、メディア、文化に根付くよう改めて行動を起こすことを意味する。
問:ACNの請願の意義について説明していただきたい。この取り組みにどのような期待をお持ちか?
ジョン・ポンティフェックス:これは、苦難に喘ぐ教会への援助が世界規模の提唱キャンペーンを開始する初めての試みだ。ACNのスタッフ、プロジェクトパートナー、そしてイラクからナイジェリア、ドイツ、メキシコ、そしてここイギリスに至るまでの支援者たちが、この活動を支えている。私たちは、キリスト教徒だけでなく、あらゆる信仰を持つ人々、そして無宗教の人々の権利を守るための、力強い普遍的な呼びかけを発信したいと考えている。
この嘆願書は大きな反響を呼び、あっという間に1万4000件以上の署名が集まった。カトリック教会からイングランド国教会、コプト正教会、そしてウクライナ・ギリシャ正教会まで、様々な宗派の教会指導者の方々からご支援をいただいている。私たちはキリスト教徒から多くの支援を受けただけでなく、他の宗教からも支援を受けており、パキスタンで最も迫害されている宗教グループの一つであるアフマディーヤ・ムスリム共同体も、この取り組みを強く支持してくれている。
私が願うのは、この嘆願書を通して、皆で協力することで、信仰や信条のために迫害されている人々の声が、国連という最高レベルの場で届くようにすること。私たちは、世界中の政府が、宗教の自由が単なる言葉ではなく、特権階級のごく一部の人々だけでなく、すべての人にとって現実のものとなるよう、できる限りのことをしてくれることを望んでいる。
問:ACNは、迫害を受けているキリスト教徒や、信仰を理由に差別を受けている他宗教の信者を支援している。これら二つの問題にはどのような相互作用があるのか?両者はどれほど密接に関連しているのか?
ジョン・ポンティフェックス:迫害されているキリスト教徒を擁護するなら、宗教の自由全般を擁護せねばならない。そうでなければ、ある集団のニーズが他の集団のニーズよりも重要だと決めつけていることになる。そうすることは、特別扱いを求める行為に他ならない。信教の自由は、決して少数の者だけの権利であってはならない。それは全ての人々の権利であるべきであり、そうでなければ何の意味もない。
問:アルトン卿、あなたは過去に、宗教の自由の侵害で激しい批判を浴びている中国政府とのバチカンの暫定合意を批判してきた。なぜそれが悪い考えだとお考えですか?
アルトン卿:全体主義的な共産主義独裁政権との秘密協定は、良い結果をもたらすことはまずない。中国共産党政権の場合、それは悪魔との取引に等しい。ウイグル系イスラム教徒に対する大量虐殺を行い、チベット仏教徒、法輪功学習者、そして中国のキリスト教徒を迫害している政権なのだから。
バチカンは中国共産党の怒りを買うことを恐れ、宗教の自由に対する重大な侵害について沈黙を守り続けている。1965年の「人間の尊厳」で表明された原則は無視され、英雄的なヨゼフ・ゼン枢機卿や、香港の刑務所で死に瀕しているカトリック教徒の良心の囚人、ジミー・ライへの扱いは、まさに言語道断だ。。
バチカンとヒトラーの第三帝国との間で結ばれた政教協約と、聖ヨハネ・パウロ二世がソ連の共産主義独裁政権に対して示した予言的で賢明かつ勇敢な対応を比較すれば、中国において我々がどちらの道を進むべきだったかが分かるだろう。それどころか、バチカンは忠実で迫害されてきた地下カトリック教会を裏切り、共産主義国家の単なる延長に過ぎない「公式」教会を受け入れ、信仰を共産主義イデオロギーに置き換えてしまった。
問:この分野における英国政府の取り組みに満足しているか?
アルトン卿:英国は、デイビッド・スミス下院議員を信教の自由に関する特使に任命した。これは良いスタートだが、大臣や大使が、信教の自由を促進するために、ほとんど何もしていないことがあまりにも多い。トゥルーロの元司教が外務省のために作成した特別報告書に盛り込まれた勧告の多くは、部分的にしか実施されていないか、あるいは全く実施されていない。これは恥ずべきことだ。
問:フランシスコ教皇は、欧米諸国で信者に対して行われている「巧妙な迫害」について語った。これはどれほど深刻な問題なのだろうか?
アルトン卿:確かに不寛容が急増している。特にカトリック教徒が罪のない命の破壊に反対の声を上げたり行動を起こしたりすると、その傾向が顕著になる。職を失ったり、昇進の機会を失ったりした人もいる。排斥や差別を恐れて沈黙を強いられている人もいる。それは不快なことだが、北朝鮮、中国、ナイジェリア、ニカラグア、エリトリアといった国々でキリスト教徒が直面しているような露骨な迫害と同等の迫害だ、と考えるのは間違いだ。全く次元が異なる。
ジョン・ポンティフェックス:これは深刻な問題だ。フランシスコ教皇が指摘したように、「歓迎されない」宗教的見解を持つ人々が、職を失ったり、罰金を科されたり、社会的に排除されたりする危険にさらされる文化が存在するからだ。被害者は、問題が自分の信仰にあると、明確に告げられることは決してないことが多い。キリスト教系をはじめとする様々な業種の企業人、慈善団体、大学、学校が、宗教的な観点から性倫理に関する見解を示したことを理由に、閉鎖されたり、認定を取り消されそうになったりする事例が相次いでいる。
問:カトリック教徒は、宗教的差別を受けている人々を支援するために何ができるだろうか?
ジョン・ポンティフェックス:パキスタンで身を隠していた若い男性を訪ねた時のことを覚えている。暴徒が彼を殺そうとしていて、彼は命の危険を感じていた。彼が私に一番望んでいることは、私に祈ってもらうことだ、と言った。信仰のために苦しむ人々のために祈ることは、何よりも重要だ。信仰のために迫害されている多くの人々は、世間に知られることなく、ひっそりと苦しんでいる。祈りは必ず変化をもたらすだろう。
二つ目は、こうした話を共有することだ。友人、家族、学校や教区など、あらゆる場所で私たちのネットワークに伝えよう。宗教の自由はしばしば見捨てられた権利であることを認識し、迫害されている人々のために声を上げる必要がある。この問題の深刻さに対する理解が広く浸透しない限り、何も変わらないだろう。私たちは行動を起こす必要があります。提言を行い、実際的な支援を提供する必要がある。どんなに小さなことでも、私たちができることは、何もしないよりずっと良い。
・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。
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